茜の言う、好きとは
茜が授業に来ていない…。やはり私の予測は当たったのか。
茜は今、スマホのロックを解いている。可能なのかは分からない。スマホの種類によっては単純な文字を入れるのではなく、3×3の9個の点を線で結んで形を作り、それをパスワードにするやつもある。
間違えすぎたら数分使用が出来なくなるやつが主流だが、天童のスマホがどうなのか分からない。
休み時間事に静華が私に聞いてくるのだ。茜さんはどうしたのか、と。何とか上手いことを言っているが、私も少し行かなくては行けないため、昼休みに翔也に静華の面倒を頼んだ。
とりあえず、文芸部の部室へ行く。
スライド式のドアに手をかけると、鍵がかかっていた。
「茜、私だよ。開けてくれ」
「よぉ…結構楽だと思ってたが、きついな。無理かもしれない」
「手伝うよ」
ドアに鍵をかけて、黙々とやっていく。
物語に都合がいい事に、失敗しすぎた時の制限がなかったのだ。
静かな部室で画面をコツコツと叩く音が響いていた。
そんな雰囲気の中で話を切り出した。
「茜はどうして、静華のためにここまでするの?」
「ここまでって言うほど…してるつもりはないけどなあ。でも強いて言うなら、大好きだからかな!」
「ふっ…そうか。」
苦笑いをして、昼休みが終わるまで作業をした。
そして悲しくも昼休みが終わる間近になってしまった。
「悪い、茜。私はここらで…」
「気にすんな気にすんな。成績大事にしないと。あ!それと1個言いたいことがあって!」
「なんだ?」
「静華ちゃんと天童が会うギリギリになるかもしれないんだ…」
不安げに下を向く茜、私は咄嗟に「大丈夫。間に合うさ」と、確証もないことを口にした。
※※※
放課後、静華は震えながら順と途中まで一緒に行くが、早い段階で分かれた。
静華は話に聞いていた通り、怖いかもしれないが一旦は天童に顔を見せないといけない。
心臓はバクバクと弾み、冷や汗も少しかいてきた。でも順さんと茜さんが何とかしてくれる…そう言い聞かせて心の調律を保っていた。
「ごめんねぇ〜?部活長くてさあ」
「い、いいいえ、…」
まだまだ静華と天童との距離がかなりある。
そして天童が静華に近づこうとした時、部室のドアがバン!!と開く。
天童はそこに立っている何者かに酷く睨んでいた。
「はあ…はぁ、、あっ…ぶねえ…間に合ったぜ、、」
俺は静華ちゃんの元へ行き、肩にポンっと手を置いて、「大丈夫だよ」と声をかける。
ーーそして握りしめていたあるスマホを天童に見せつけてやった。
「先生にチクったらバラすんだっけ??!スマホねぇのにどうやってやんだ〜??」
「てめえ、俺のスマホ…!!」
天童は1歩踏み出す。
「パスワードは解除させてもらったぞ?
フォルダに入ってる写真ももちろん、削除した写真の一覧からも完全に消して、AI使った画像変換の履歴も消させてもらった。終わりだよお前」
廊下からドタドタと足音が聞こえる。先生方の登場って訳で、順にそこはお願いした。
天童も同じくて先生なのだろうということはわかっただろう。
そして、ここに先生が来てから受ける処罰に想像して絶望。
後に血迷ったのか、竹刀を出してこちらへ向かってきた。
「…!!茜さん!!」
危機を感じて茜の名前を呼ぶ。
上に高く上げられた竹刀は、バンという音と共に勢いよく真下へ振り落とされた。
腐っても剣道部、本気の一撃は死ぬほど痛い。
ーー元々静華の前に立っていた茜に避けるという選択肢は存在していなかった。
茜は、額で振り落とされる竹刀を受け止めてのだ。そこから一筋の血が顎まで流れる。
「こんっ…のっっ、、、っ!」
茜は右手に待っていたスマホを横へ投げて、左足を踏み出す。
「ドC級があぁぁあ!!!!」
左手で竹刀を掴み、右拳の横拳を天童の顔面にぶち当てる。天童は後ろへ倒れ、ブルブルも震えていた。
「静華の事ぉ…好きなら正々堂々こいや…ハゲ、、。覚えとけ…!俺はS級だ馬鹿野郎!!!!」
この後すぐに先生達が部屋に入って来て、天童を連れていった。俺には哲先が付いていて、早く病院に行くよう急かした。
ーーすると、俺の背中に何かが覆い被さる感覚がくる。抱きつかれているのか…??
恐る恐る後ろを振り返ると、そこには静華ちゃんが居た。
「ありがとう…ありがとうありがとうありがとう…っっ!!」
4回ほど、素早く言って今にも倒れそうなくらいフラフラな俺をぎゅぅっと抱きしめて離さない。
この部屋にまた誰かが入ってきたようなので、そちらを少し見ると、そこには順が立っていた。
「…茜の言う好きってのは軽いものだって決めつけて悪かった。凄いね、茜。ここまでやるなんて」
「い、いえ〜…い、。ぁーー」
悲しくも、そこで俺の意識は途切れた。もっと、静華ちゃんに抱きしめられるのを感じていたかった。
「ここは…、」
病院なら白い天井が見えてくるはずだ。そして今、白くはあるんだが、右に窓が見える。窓際か?
「お、おはようございます、!」
「あ、はい。おはよう…ございます」
俺の傍に静華ちゃんが座っていたのだ。つまり、ここは病院では無いのか?
そう思って体起こすと、俺の顔が何かに埋もれた。
いや、抱えられた?と言うべきか。
「いやっちょ!!!まだこういうのは早くないですか?!!??」
「本当に…ありがとうございます…っ、、」
静華は心のままに感謝を伝えた。
ーーだが、茜はというと…顔一面真っ赤に変わり、機関車の様に煙を吐く始末だ。
「や〜起きた〜?早かったねえ〜……う〜ん、、」
「あ、いえこれはっ、、」
ドアを開けた、背の高い人と目が合う。
「お取り込み中ごめんねえ〜〜」
そう言ってドアを閉めようとするのを、「あぁぁ!!!待って待って!!!待ってください!!」
と引き止めた。
「いや〜冗談冗談。妹がお世話してます〜」
「え、えと、、お兄…さん?」
こんな会話をしている最中、静華ちゃんは俺にくっ付いている。
「はい、静華のお兄さんこと!渡辺樹です。妹がこんなに懐いてるなんて…どんな話術を?」
「そりゃもう!!正直に大好きって言いまくってます!!!」
樹さんはお盆に3人分のお茶を乗せて来たため、ひと段落してから真面目な話をし始めた。
「君の怪我、そんなに大したことはなかったらしいけど、頭の中に衝撃が響いて軽い脳震盪みたい感じらしいから、少しの間安静にってさ〜。」
「なるほど。ありがとうございます。それで…僕にとってこれが本題なんですが…」
「どうしたの?」
「ここは…というか、、僕はお泊まりするんですか?」
「あぁ、もちろん。」
まだ静華ちゃんは抱きついていた。
「着替えはここに置いておくよ」
「あ、はい!あの、樹さん。」
「ん?」
「この湯船に、静華ちゃんは?!!」
「あぁ…入ったぞ」
「あぴゃぴゃぴゃ!!」
奇声あげながら湯船に荒く入る。加えて潜ったりもした。
「ちなみに嘘ね」
「だっっ?!!!」
風呂から上がり、用意された布団に寝る準備をした。その前に、母親に電話をするか検討中ーーーー。
よし、押そう。と思った瞬間、「ゆっくりしてこいよ」とLINEが来たため、一瞬で既読をつけた事になる。
「あ、君、名前は??」
ドアを半開きにして、樹さんが顔だけを出してそう聞いてきた。
「轟茜です!!」
「轟…かっこいいね〜。…妹、面倒な性格してるけど、よろしくね?」
「はい!」
この「はい!」は、死んでも貫き通すと決めた。




