文化祭スタート
「はーいお前ら〜宿題回収するぞー」
教室のドアを開けて入ってきた哲先が、教卓に着くまでに言い終わる。
それに応じてクラスのみんなが「え〜!!」や、
「お前宿題終わった?」その回答に「終わってない笑」という会話が見られた。
そこかしこで話をするせいで周囲へ伝播していき、自然とクラス全体が騒がしくなる。
「はいはーい静まれー。まず番号順に数学のプリンから〜〜……」
着々と回収が進んでいき、最後の回収物である社会のプリントを集め始めた頃、ふと静華ちゃんの方を茜は見た。
そこにはやけに席でソワソワとして、ガタガタと震えている静華がいた。
俺はそれを何が楽しいのか、ニヤニヤと口元に笑みを浮かべながら見つめていた。
「キモイぞー茜」
翔也の言葉にはっとなって顔を普通に戻した。
「そろそろ茜出す頃じゃね?」
「あ、そうだわ!ありがとう!」
席を勢いよく立って提出箱へ向かう時、後ろで「いってらー」と翔也が言っていたのを何となく聞いていた。
「はーい茜…全部提出済みと。お前結構優秀なんだな」
哲先は名簿にボールペンを走らせながらつぶやく。
「結構じゃなくてガッツリですよ!!」
そう捨て台詞を吐いて俺は静華ちゃんの席へ無意識に向かっていた事に、席の目の前に立ってからハッと気づいた。
「ど、どどどどうしたんですか?」
「あっ…、あいや、なんか探してる??」
「社会のプリントが……っ、、」
ーー必死に机の中、そしてバックの中を粗探しする静華に、刻一刻と提出の番が迫っていた。
そんな焦る状況で、俺はあることを思いつき、「あっ」と、声に出していた。
「ロッカー行った?」
「ろ、ロッカー…?でも行ってなーーあ、」
一応行ったのだ。宿題の入ったファイルを持って。
だがロッカーの中には入れていないし、現に今、ファイルを机の上に無造作に出している。
「うし!!ちょっと見てくる!!!」
「あ!茜さん…っ!」
既に走り出していた茜は、後ろで可愛らしい声をした生き物が必死に自分の名前を呼んで引き留めようとしているようにしか感じていなかった。
そんなことよりも茜はロッカールームに入る寸で、静華ちゃんのロッカーを見るチャンスだということに気づく。
プリントを探すという便利で都合のいい口実があるのだ、利用させてもらう他、無いだろう?
ーーと、思って入るや否や、地面に1枚のプリントが裏返しで落ちていた。
「いやいやぁ…まっさかあ、…まさかあかよお、」
表に返して名前の欄を見ると、そこにはしっかりと『渡辺静華』と記載されていた。
…嬉しいのか嬉しくねえのか、、女の子のロッカーは女の子ってだけでいい匂いがするのにぃ。
そのプリントをすぐに拾い上げ、教室へ走る。
並んでいる人からすれば、恐らく静華の3人ほど前の人たちだろうか。
「静華ちゃん!!!」
「あ!あっ…ありがとう、ございます!」
茜は教室に入った時、割かし大きな声で呼びかけてしまったので、多人数に聞かれてしまった。
プリントを受け渡す時、静華のひんやりとした滑らかしい手のひらの皮膚が俺のガサツな肌へ当たるというプチイベントが起きた。
それが起きた時、「おぅっ…っふ」と良くない声を声量は小さくとも吐き出した。
そして静華は小走りで列の最後尾へ並び、一息つく。
「はい静華ー…全部提出!」
哲先の言葉に、静華は目の奥が弾んだ。
「ありがとうございますっ」
始業式を終えてから教室に戻って来た時、俺と静華だけが哲先に呼び出された。
内容はこうだ。
『今日、調理室で文化祭実行委員の集まりあるからなっ。しっかり聞いてこいよ』
指2本で頭を弾き、決めポーズをした哲先。それをドライな目で見下す茜と静華がいた。
調理質へ向かう廊下を歩きながら、途中にある教室等を覗き見している茜。
「ダウンにタイツ…ほ〜ん。」
その隣で無防備に着替えている女の子も居たが、それよりもダウンの着た女の子に興味があった。
静華はその目線を追い、着替えている人を見つめているのだと思った。
「えっち」
「うぇっ?!違うわい!ダウンの女の子を見てたんだ!!」
「見てるじゃないですか。エッチマンめ」
「ぐっ…」
罵倒ありがと〜…でもそれを言われたら何も返せないぃ…。
難なく調理室に着いて、ドアを開けて入ると、机の上に『1ーA』や、『1ーB』と書かれた紙が置いてあった。
二人は1のFと書かれた紙が置いてある机へ向い、がたっと椅子を引いて座り込んで、ホワイトボードの前に立っている文化祭実行委員の先生を見た。
「1年生は今年ゲームをやることになっていて…テーマはミニオンですね」
ミニオン…?
「A組から順に飾りのモチーフにして場面があるので〜その写真を配りまーす」
そして俺たちに渡された紙には紫に変色したミニオン達が何やら檻に入っているところだった。
「ねーねー静華ちゃん」
「ん?」
「ミニオン…見た事ある?」
「な、ないです」
お互いに気まずい雰囲気が流れた。
そしてその後に渡された2枚目の紙にはなんのゲームをするのか、そしてそれに必要な材料などを書く欄が用意されていた。
とりあえず上のところに1のFと氏名を書いておく。
「分かったんだ…」
「え?どうしたの?」
「いや…私の漢字、分かるんだなって」
「当たり前でしょ〜伊達に毎日好き好き言ってるわけじゃないんだから〜」
「…」
なんの感情かも分からない、少し細めた目で茜を見つめる静華。
「材料を買う時は担任からお金を受け取ってからで、買った際は領収書をもらってくださいね〜」
後日、6限目のHRでの文化祭実行委員による説明が行われる。
「っていう感じで、材料とか書いたり?ゲームするにあたっての役割分担とかね〜?」
クラスメイトに届く程度の声量で喋る茜の後ろでホワイトボードにスラスラと内容を書いている静華が居た。
「でもとりあえずゲームを何にするか決めないと行けないって感じです!何をやりたいとか候補あげてくれると助かりますぅ!!」
茜ができるだけ明るく振る舞うと、クラスの色んなところから声が上がってきた。
「ボーリング!!」
「お化け屋敷!」
「釣り〜」
「射的とかかなあ??」
だいたいこんなもんか。
俺は後ろで皆が挙げてくれたゲームを書いてくれてる静華を見て言う。
「書けた?」
「うん。だいたいは…」
そこで哲先が口を挟んできた。
「まあこの中1番でやりやすそうなのは射的とか?的作りとかちょいちょいってやりゃいいっしょ」
適当すぎだろ…なんて思う。
軽々そうに言う哲先はさておいて、本題に移った。
「まあそれでいいんじゃね〜?!お化け屋敷にミニオンとか付けようが思いつかんし、射的とか釣りとかならやりようあると思う!!」
「私射的いいと思う〜!!」
「俺も〜!射的いいんじゃね?!」
流れ的には射的に傾いてきている。
クラスを少し( ⚭_⚭)✧観察している茜へ、静華も後ろから、「わ、私も射的…いいかなって思う!」と告げ口した。
ーーそれを見て少し微笑み、再度前を向いて言う。
「じゃあ射的で決定でー!!」
言ってしまえば陽キャの男子たちと女子軍がホワイトボード前で役割分担等を決めている最中、実行委員である茜は哲先に呼ばれて教卓に居た。
「とりあえずこれお金ね。ちょうど二週間後だから割と早めに材料買って欲しいなって思ってさ」
「はい!」
そこで哲先が俺の目をじっと見てきた。
「な、なんです?」
「楽しそうだな〜ってさあ、俺が学生の時…文化祭なかったから…ウッ」
今にも泣き出しそうなテンションが語られると反応に困る。
そんな中、すぐ隣でクラスメイトと分担を考えている静華は少し人気者になっていた。
「ねえねえ静華ちゃん!景品渡す人って2人でいいかな?」
「い、いいと思う!うん!」
「静華さーーん!!風船にミニオンの絵を描きたいから風船今度買ってきてーー!!」
と、男子が遠い席から静華に叫んだ。
「あ、はーい!」
先生と話してる隙に、着々と分担が割り振られていく。人数の確認や、係の詳しい仕事内容などを静華に聞く輩も多かった。
「おいゴルァ!!静華ちゃんは俺のペアじゃ!シャー!!」
静華に当たるレベルで近づいている男子や女の子に対し、猫のように威嚇する茜。
「はいはい。ごめんねー」
べつに取ろうってつもりじゃないんだけどな。
その日のうちに大体の係り決めは終了し、明日から風船などを使った装飾、看板づくり、景品を買うことなどを進めるように尽力する日々がスタートした。