特技披露会に出ませんか?
「あ、もし…もし??!」
初めて静華ちゃんに電話をかける…!!
「はい、もしもし。どうしました?」
「朝っぱらからごめんね?!今日そっち行っても良い?」
「まあ予定は無いから、来ても大丈夫だと思います…よ?」
「分かった!、少し見せたいのがあって!!」
「あ、はい。期待…しすぎないようにしてますね」
少しテンションの入った声色をしている静華。これを聞いて茜は朝から一つ一つの行動に力が入った。
この後、すぐに琴姉に電話をかける。
「琴姉!、今から演奏しに行く!!」
「おぉ…朝から凄いなお前は。まあ頑張れ、私はもう少し寝るぅ…」
どんどん声のボリュームが小さくなって最終的には何も聞こえなくなって電話が切れた。
夏休みももう終わりに近づいてきている。宿題なんてしーらない。
さっさとギターをしまって背負い、電車に乗った。
1時間程経ち、降りてからコンビニ寄る。
半熟卵が入ったおにぎり。そして奮発してちょい高めのイクラが入ったおにぎり、そしてジャスミンティーの3つを買って外へ出た。
半熟卵入りのおにぎりを食いながら思う事…
ーー半熟卵ってエロいよなあ。
4円も出して買った袋へゴミを入れてすぐ近くにある渡辺邸へ現着し、インターホンを鳴らした。
出てきたのは母親だった。
「おはようございます!」
「あらあら〜。どうしたの〜…って、静華よね。いらっしゃい」
バレてたか。と聞こえる声で呟いてお邪魔させてもらう。リビングには樹さんも朝食を食べ終えた所だった。
「ん…?いらっしゃーい。ゆっくりしてってね。」
「はい!」
母親から2階にいるから、と言われてこの前通りの部屋へ向かった。一応ノックをした。変なことしてたら困るからね!
だが実際ドアノブに手をかけると、周りが静かだからなのか、自分の心臓の鼓動が激しいことに気づいた。
そうだった…何がそうだったと言われるとわからんけど、心臓やべぇーー。
「おじゃましまー…す。??!!!」
ドアを開けると俺は驚愕した。だって目の前にイルカがモチーフのパジャマ姿でベットに寝てる人が居たんだもん。
え?え?え?誘ってんの??まあほんとにそうでもやらないけど。
「おーい、起きてー。起きてよー。起きないとイタズラするぞー」
とりあえずベタな事を言ってみた。が、起きない。
2度寝…いや3度寝か?!それで学校遅刻したことあるし!
てかイルカ、似合ってねえ…言っちゃいけないけど、似合ってねえ。
茜は心の中でそう途方もない様な声で言った。
すると目の前の少女がむくっと起き上がる。
「お父さん…3度寝したら起こしてって言ったじゃん。ねぇえ」
そして俺の袖をちょいっと引っ張ると、俺の頭の中に電撃が走った。
3度寝かよ…。
「お父さん?」
しばしばした目で見上げてくる静華はいささか…見てて極楽だった。
静華は目を優しくかいて再度、お父さんと勘違いしている俺を見た。
「お父…、ぁ、え。あぁ」
「あ、お、お父さんデス」
「違うでしょっ!!」
弾んだ声で叫ばれた。
人にようやく見せれる服装に着替えて俺の前に登場した静華はまたもやいささか天使だった。
その服はなんというか、肩ら辺に小さく龍が刺繍されていて、胸元には雲があった。
「そ、そんなに見ないでください。すぐ着れるの、これしかなくて…」
下を向いて顔を少し赤に染めてしまっている静華。
俺は鼻血が出ないようにするので精一杯だった。
「それで、その大きいのって…」
そう言いながら、俺が背負っているギターを指さした。
「あぁ、そうそう。練習したんだあ、頑張ったんだぜ?」
「な、なるほど。」
「師匠に最初よりは人に見せてもマシくらいにはなったって。一番最初に聞かせたいのは静華ちゃんだから。」
ケースからギターを出して、弾く体勢に入った。
そして、弦を弾き出す。
AだとかBだとか、コードとか何も分からなかった俺が、多少なりとも弾けているこの事実が、何よりも嬉しかった。
これを琴姉以外に見せる1番目が静華で良かったと思っている。
曲を弾き終え、「ふぅ、」と、頑張りの後に出るため息をついた。
前を見ると、ぱちぱちと小さい手で拍手している静華が居た。
「す、凄いですね。え、ほんとに初心者だったんですか?」
「正真正銘の初めてだぜい。あ、もう初めてじゃないか!!」
「言い方に悪意が…」
だけど、夏休みの半ばから今まで、数日。
数日でこれは…え、才能?!
「師匠が居るって言ってましたけど…誰なんですか?」
「あ〜俺の従兄弟なんだけどね?
轟琴海っていっーーー」
言って…と言いかけると、勢いよく静華が立ち上がって茜に急接近した。
(近っ)
「琴海って言いました?!!それって、この琴海?!!ですか?!!」
光り輝いたスマホの画面を至近距離で見せて来たため、目が少し慣れなかったがその画面に写っているのは明らかに ”轟琴海” だった。
「えあ、うん。この人ぉ…」
「ま、まじ?!轟って聞いた時からもしかしたらって思ってましたが…ほんとに家族だったなんて!!光栄です!!」
目を輝かせて俺の手を握ってくる静華。俺はできるだけ冷静を装ってこういう。
「…まだ、家族ジャナイヨ?」
「あっ!!」
パッと手を離した。
何やってんだ俺。私服の時間だったろ、時間稼ぎしろよぉ…
すると急に部屋から出ていった静華はすぐに戻ってきた。ギターを持って。
「一緒に弾きませんか…、嫌じゃなければ…」
「断る理由、無し!!弾いてみようぜ!!足でまといレベル100だけど!!」
2人で弾く曲の譜面を1度見て、準備をした。
まさか…曲の趣味まで一緒だとはな。
『『あーのーバンド〜、の歌、が私には甲高く響く〜』』
「あらあら〜仲良いわねえ」
「ふふ。こんなに静華が乗り気なんて、轟君もやるねえ。あ!父さん。おはよう〜」
「あらあなた。今お客さんが来ててね〜うるさくなるかも?ふふ」
「いや、それはいいんだが…あの男…誰?」
ピキピキと拳を握る父親を2人で止めておくから、上手くやってね、轟君。
「いや〜…弾いたね」
「弾きましたね…。」
お互いはあはあ言っているいやらしい状況が出来たところで、時刻は11時20分を指していた。
すると、下の階から声が聞こえて来た。
「あ、茜さん。昼食だって!」
「ーーえ?」
1階に降りて、机の真ん中に菜箸が添えられたソーメンが用意されていた。好きなように取って、食え?ということか??俺も?!
「轟くんも座って座って〜椅子のあまりが1個あってよかったわ〜、あ、でも空いてるところ無いから…静華の隣ね!!」
ーーというノリから静華の隣で食うことになった。
いや、ありがたいけど俺は咀嚼音だけは嫌なタイプだ。自分のも、他人のも、例外なく。
その辺の清潔感はあるんだよ。舐めないで欲しい。
菜箸で自分のつゆが入った皿へとソーメンを入れていく静華。次に俺が入れていると、横で食べている静華が視線に入り込んだ。
ズルズル…ではなく、なんていうか、ツルツル?だ。
そう。この家族、無音なのだ。
食べ終わったあとの洗い物を手伝っていると、母親の細工で俺が静華ちゃんの皿を洗う番が回ってきた。
綺麗…。
単純、そう思った。
部屋へ戻り、俺(琴姉)のギターの弦をものすごいの弱い力で弾く静華が居た。そのまじ真面目な下向きの顔はまじ可愛い。
「あ、ごめんなさい!勝手に」
「いや、触られて嬉しいことです…。」
丁寧にギターを置く静華に対し、俺は思い切って言ってみることにした。
「ねえ静華ちゃん!文化祭の特技披露会…一緒にギター弾かない?!!」