文化祭。ギター
「茜〜?着替えたの〜?!」
「うん?あぁ着替えた着替えた!!」
夏休みも中盤に差し掛かった時、轟家は父方のおじいちゃん宅へ向かうことになっていた。
車を走らせること40分ほど、山の麓に三軒程の家がたっていた。
じいちゃんが畑を肥やして作られた野菜を売りに出している販売所。車で横を通る時にチラ見すると、束になったネギ、丸ごと置いてある白菜などがあった。
〜〜轟駐車場〜〜
と彫られた看板を見る度、少し誇らしく思う。
車を停め、じいちゃんの家までほんの少しの距離を歩き、玄関を開けるとすぐに従兄弟たちが出迎えた。
「えーい!あーちゃん!!!久しぶり〜!!」
「おぉゆーゆか!!」
最初俺に話しかけてきたのは轟裕太。俺と同い年であだ名はゆーゆ。
ちなみにゆーゆは俺の事を茜の『あ』の部分から取ってあーちゃんと呼ぶ。
「玲ちゃん!元気してたん?!久しぶりやね〜」
「えっ…ええ??!!瑠衣ちゃん??変わ…ったねえ、、?」
「そう??」
白いワンピースを着た、轟瑠衣。俺たちより年上だが、敬語を使うのかと言われると、なんか違う。
加えて、しかも瑠衣は…エセ方言の使い手だ。
俺たちの父親の兄貴の家族、三人兄妹だ。つまりあと1人居る。
俺たちは家の中へ入っていき、線香を上げてからリビングへ行く。
「や、お兄ちゃん」
「久しぶりだな」
お父さんが兄貴とそう会話すると、横にいた琴海とも挨拶を交わした。
俺もリビングに入ると、琴姉と目が合う。
「久しぶり!」
「ふふ。イケメンになったか?」
首を少し傾けて、とんがった歯をチラつかせた。
俺が今1番会いたかった1人は琴姉である。それは何故か。次の会話で分かるだろう。
「琴姉、ギター今どんな感じ?」
「ん〜この前のライブ絶好調だったよ〜」
「そうそう。琴海今凄いんだよ茜。500人?くらい来たんだっけ?」
俺たちの父親、鴈治郎の兄貴である淳二郎が説明をすると、
「ライブハウスギッチギチになるくらいかな。でもそんなにだよ」
ーーと、琴海がざっくり、冷静に訂正をする。
「それでお願いがあるんだけど!琴姉!!」
俺は思い切って聞いてみることにした。
「…どうしたの?」
「俺にギターを教えて下さい!!」
正直に言って、琴姉のギターの腕前は素人が聞いても上手いと分かる。
ネットに弾き語りや、弾いてみた動画を上げているらしく、どれも万再生は行っているとか。
そんな人にお願いをすると、琴海はジト目で、きょとんと首を傾げる。
「こりゃまた、どうして?」
物静かな猫から感じる様な、怖くないけど怖いく見える現象。
「文化祭で弾けなきゃ困るんです!それに俺は手先の器用さなら自信がありますっ!」
「…父さん。確かこの家の2階にギターもう一本あったよね…使わしてもらうけどいい?」
純粋な眼差しで見つめてくる茜を琴海は案外に直視出来ず、目線を逸らした。
気だるそうに膝に手を着いて座る体勢から起き上がる。
「いいけど、え?珍しいな」
「?何が…?」
「今まで何人か教えて〜って言い寄ってきた人いたけど全員ぶん殴る勢いで突き飛ばしてたじゃん。だから珍しいなって」
「…!!普通にっ!…家族だし、しねぇよ、んな事。」
鋭い声を一瞬出して、はぁ〜っとため息をついていた。
「ほら、来い、茜。教えっぞ」
「うす!」
2階へと静かに歩いていく琴海とは裏腹に足音全開で歩く茜。
元からの性格もあるだろうが、育ちの違いだろうか、ここまで違うと血が少なくとも繋がっているのか怪しい。
ある部屋に入り、立てかけるように置いてあったギターを琴海が手に取って状態を見た。
下から持ってきておいた雑巾で誇りを払い、茜へ手渡す。
「文化祭っつっても、何か曲を弾いたりすんのか?」
「今のところはあんまり、」
「ふーん。まあ夏休み明けたら決まるって感じか?」
「お、恐らく??…」
ちょっと怖いなこの人…。
「なら、夏休みで基本演奏はできるようにするぞ曲決まったら、その練習だ」
「…!はいっ!!」
気合いの入ったいい返事。自負している事だ。
静華ちゃんの過去を聞くあたり、今回の披露会には何がなんでも出たくないはずだ。
でも俺が横で弾いていたら、何か変わるかもしれない。
俺がメインに弾くんじゃ無くて、サポート全振り。それでいいんだ。
「F…むっず、っ」
「そこは気合いだ」
「うす…」
「今日から…いやこれからもだな。そのギター、家に持ってけ」
「え?、いいんですか?!」
「あぁ、それ合わせたらもう三本あるしな。正直要らねえ」
「あ、ありがとうございます…」
ちょっと申し訳ない…。
その日はお互いの空いているスケジュールが重なっている所まで、満遍なくギターを練習した。
苦手な弦があったら楽な指の動かし方を教えてもらい、テストに としてなんかしらの曲を弾いたりもした。そしてその日は終わりを迎えてしまった。
車に乗り込む時、琴海は俺へスマホを貸せと要求する。
「LINE、繋いだんだ」
「わかんねぇとこあったらビデオ通話かけろ。見てやるから」
「ありがとう!!」
無邪気な顔と声を琴海に向けると、気まずそうに琴海は茜から目線を分かりやすく逸らした。
ーー茜は、これで静華の役に立てる!!なんてワクワクしながら車へ乗り込んでいく。
左右には山々があり、道も悪いためにガタガタと車体が揺れる。そんな中、父親が口を開いた。
「茜、実は琴海って結構凄くてな。sickrollっていう人気バンドのフロント張ってるギターなんだって。毒舌キャラらしいぜ」
「毒舌って…え、え?!フロント?!!」
かっけぇえ〜、、!
車体が揺れる度、自身の体も左右上下に激しく弾みながら、スマホで『sickroll』と検索をかけると、色々な記事と共にライブの映像が出てきた。
薄暗い雰囲気のライブハウスギチギチに人が詰まっており、ステージが明るく照らされている。
ステージ、観客たちの目の前にいかにも意地悪そうという第一印象を持てる琴海がギターの弦を激しく引っ張っていた。
ギターボーカルでもないのに、他3人のバンドメンバーの1歩と言わず、2歩も前に立っている訳は、単純に技術の差だろう。
素人が見たって上手いと思える演奏だからな。
そんな俺は夏休みの間、基本的に夜8時頃から自室で琴海と通話をして練習に励んでいるのであった。