表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/13

第六話 カマイタチ三兄弟



 ――山の管理人を名乗る男性と遭遇した、翌日。


「もう少し山の奥……と言われたが」


 私は、マジックリュックを背負い山道を進んでいた。


 普段、私が食住をさせてもらっているのは、この山の比較的麓に近い場所だ。


 山の奥――となると、つまり、山を登っていく形となる。


 自然の色が濃くなり、草木が一層生い茂る。


 ひとまず、道……と思われる、植物の無い土が剥き出しとなった場所を、私は進んでいた。


「この歩道を進んでいけば、あの人の家に辿り着けるのだろうか? ううん、もう少し、詳しい地点を聞いておくべきだった……」


 いや、聞く暇も無く彼は姿を消してしまっていたのだが。


 それに、その時には私はシイタケに夢中になっていたし。


 だって、あんなに肉厚のシイタケ、無視できるはずがない。


 まぁ、何はともあれ、私は山の奥へと進む。


 それなりに傾斜があるが、この程度の山道なら、私の体力的にもそこまで苦ではない。


 これでも、騎士となるべく子供の頃から鍛え、王都の騎士団に所属していたのだ。


 どうってことは――。


「ん?」


 その時だった。


 私は、ピタッと足を止める。


 気配を感じたのだ。


 何かが、息を潜めて、すぐ近くの草木の中に隠れている気配。


 獣か? 人か?


 警戒心を高めたのも束の間、視線を向けた方向から、小さな影がビュンと飛び出してきた。


「わーー!」


 その小さな影は、真っ直ぐ私に向かって突っ込んでくる。


 体当たりする気か。


 しかし、速度はそこまで速くもなく、しかも走り方が真っ正直なほど真っ直ぐ。


 これは……わざわざ応戦するまでもない。


 私はひょいと身を躱す。


「あっ!」


 その小柄な影は、ぶつかる対象を見失ったためか、慌てて蹴っ躓いた。


 ごてん、と、その場に転がる。


「あうぅ……」

「子供?」


 こけた事で姿がハッキリとわかった。


 子供だ。


 簡素な服を纏った、私の腰にも届かないくらいの背丈の子供が、涙目を拭っている。


「何やってるんだ、トト!」

「こけちゃったね」


 そこで、子供が飛び出してきた草むらの方から、二つの声が聞こえてきた。


 見ると、足下の子供と、ほとんど同じ顔立ちの子供がもう二人、顔を出していた。


「三つ子?」

「うう、ごめん……キルル、ピア」

「いいから、早く立て!」


 足下の子供が、涙を拭きながら二人の子供に謝っている。


「こうなったら……やい、お前! 覚悟しろ!」


 そこで、草むらの中から三つ子の一人が飛び出した。


 三人の中で、一番活発で、声の大きい子供だ。


 その子供は、両手を前に構えて私に駆け寄ってくる。


 構えた両手の爪が、ギラリと輝いて見える。


 かなり鋭そうだ。


 よく見れば、三匹とも頭の上に、人間のものではない丸い耳が生えている。


 あの管理人の男性と同じ――獣人だ。


「やーーーー!」


 気合いの入った大声を上げて、突っ込んでくる少年――しかし、所詮は子供の迫力だ。


 とはいえ、鋭利な爪はそこそこ危険物と思われる。


 私は瞬時、背中のマジックリュックから一枚の布を引っ張り出す。


 それは、私自作のブランケット。


 私は突っ込んできた少年に、そのブランケットを被せる。


「わぷっ!」


 視界を覆われ、少年は狼狽える。


 動きが止まった。


 瞬時、私は少年をブランケットで包み込む。


 くるくると巻き付け、部分部分で縛り、完全に固定。


「さてと……こんなものか」

「な、何だこれ! 動けない!」


 王国騎士団の捕縛術を用い、少年を完全に封じ込めた。


 内側から暴れても布は解けず、地面の上でコロコロと転がるしかない。


 見た目は、完全におくるみにされた赤ちゃんみたいになっている。


「くそー! トト! ピア! 逃げろー!」


 コロコロ身を揺らしながら、捕縛された少年が仲間達に叫ぶ。


 しかし、時既に遅し。


「わーん、捕まっちゃった~!」

「ころころー」


 残りの二人も、手早くブランケットで包み込む。


 合計三人のおくるみが、その場に誕生する形となった。


「くそー!」

「まったく……いきなり何をするんだ。君達は一体どこから来たのだ? この山に住んでいる住人か?」


 コロコロ、体を揺らす事しか出来ない三人に私は尋ねる。


「ごめんね、キルル、僕がちゃんと転がせてたら……」

「泣くな、トト! くそっ! これをほどけー!」

「あったかーい」


 しかし、三人とも私の話を全然聞かない。


 約一名、全く緊張感のない子もいるし。


「くそー! 俺達は落ちこぼれのカマイタチなんかじゃない!」

「カマイタチ?」


 そこで、私は膝を曲げ、三人に視線を近付ける。


「君達は、獣人ではなく魔獣なのか?」


 獣と人が入り交じった、獣人という種族がいる。


 一方、人類に害を成す強力な生物――それらは、モンスターや魔獣と呼ばれる。


 カマイタチとは、確か、魔獣の呼称だったはずだ。


「俺達はこの山で暮らす“アヤカシ”だ! ここから先は“神様”の家だ! 人間は近付くな!」

「……アヤカシ」


 モンスターや魔獣をどのような呼称で呼ぶかは、国や地域でも多く分かれている。


 聖獣や神獣と奉ったり、悪魔と表現する者達もいる。


 アヤカシ……というのが、どこの国の言葉かはわからないが、それが彼等の種族の名のようだ。


「とりあえず、人間ではないのだな」


 私は、三人へと手を伸ばす。


「!」


 それまで威勢良く声を上げていた真ん中の少年が、ギュッと目を瞑った。


「別に何もしないさ」


 私は三人を拘束していたブランケットを解き、リュックの中にしまった。


「え……」

「見逃して、くれるの?」

「あったかかったのにー」


 ビックリした顔を向けてくる三人(……一人は違うか)に、私は言う。


「私は、この山の管理人の家を探していただけだ。君達と争う気はない。それがわかってくれるなら十分だ」

「人間なのに……俺達と戦わないのか?」


 ふむ……。


 彼等も魔獣の一種――となれば、人間からしたら敵対相手だ。


 今まで、遭遇した人間に襲われたりしていたのかもしれない。


「昔は、王国を守る騎士団に所属していたのだけど、今は違う。勤めとして魔獣を倒す義務は無いし、個人的に君達を痛めつける気にもならない」


 あ、それと――と、そこで私は付け加える。


「君、体当たりをしてくる時、怖がって目を瞑っていたぞ。筋は良いんだ。まずは、そこから直していくといい」

「え……」


 最初に突っ込んできた、気弱な少年に、私はアドバイスする。


「君も、勇気があるな。危機に陥ったと見ると、真っ先に私に立ち向かってきた。自分が捕まった後も、兄弟達を逃がそうとしていた。これからも、仲良く一緒に鍛錬を積んでいくといい」

「………」


 強気な少年にも、そう伝える。


「君は……うん、始終冷静だったな。その性格は悪いものじゃない。ちょっと暢気すぎるかもしれないが」

「えへー」


 三人目の少年に言うと、わかっているのかわかっていないのか、ふにゃりと笑った。


「では、私は失礼する」


 とりあえず、フォローはこんなところか。


 私も、この山で暮らす住人の一人だ。


 他の住人達とも仲良くしていきたい。


 ブランケットをしまい、リュックを背負い直すと、私は山道登りを再開する。


「待て!」


 そこで、後ろから強気の少年に呼び止められた。


「お前……神様のお客様なのか?」

「神様? 私が会いに来たのは管理人だ。銀色の長髪に、頭から狐の耳が生えた。君達は見たことがないのか?」

「おやおや、何やら騒がしいと思ったら」


 聞き覚えのある声が聞こえた。


 振り返ると、山道の奥――あの管理人の男性がやって来た。


「何やらトラブルの最中かな?」

「貴殿は……」

「神様!」


 少年達が、彼に向かって言った。


 私は今一度、その神秘的な風体の男性を見る。


「神様……というのは」

「うん、私はこの山を治める神だよ」


 ニコッと――彼は笑った。


「名はリィン。歓迎するよ、新しき住人よ」


 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


 本作について、『面白い』『今後の展開も読みたい』『期待している』と少しでも思っていただけましたら、ページ下方よりブックマーク・★★★★★評価をいただけますと、創作の励みになります。

 皆様の反応を見つつ書き進めているため、感想(ご意見)・レビュー等もいただけますと、とても嬉しいです。

 どうぞ、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ