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第三話 ベーコンチーズトースト


「……つぅ」

「気が付いたか?」


 呻き声を発し、謎の男がゆっくりと瞼を持ち上げた。


 まだ倒れてから数分程度だ。


 思いの外、覚醒が早かった。


「ここ、は……」

「安心しろ。貴殿が気を失った場所から一歩も動いていない」


 逆に言えば、倒れた場所がここでよかったとも言える。


 私に見付かっていなければ、どんな獣の餌食になっていたかも分からない。


 しかも、彼は現在、私が昨夜睡眠に使ったアウトドアグッズに包まれて横になっている。


 黄金鶏(おうごんにわとり)の羽毛の詰まった、ふかふかのシュラフに包まれ、快適な気絶を味わえていたはずだ。


「あなたが、介抱してくれたのか……すまない、すぐに……」


 男は慌てた様子で体を起こす。


 が、すぐに体をくの字に曲げ、激しく咳き込んだ。


「ゲホッ……ゲホッ……」

「そう急くな。ほら、水だ。大分、水分を失っていたのだろう?」


  私は、金属製のマグカップに水を注ぎ、彼に差し出す。


 男は「恩に着る……」と呟き、受け取った水を一気に飲み干した。


「ふぅ……」

「落ち着いたか?」

「ああ、助かった……ありがとう」


 水を飲んだことで、男も平常心を取り戻したようだ。


 改めて、キョロキョロと周囲を見回す。


「ここは……」

「王都郊外の、ある山の中だ」

「……そうか、まだ王都ではなかったか」

「貴殿は……見たところ冒険者か?」


 私は、男の姿を見てそう発言する。


 男の体は装備に包まれており、今は脇に置いているが、背には一振りの剣を背負っていた。


 見た目的に騎士というわけではなさそうだ。


 となれば、このような姿をしている職業は、傭兵か、もしくは冒険者だろう。


 そして彼からは、傭兵のような荒くれ者やならず者感は感じられなかった。


「ああ」

「何故、こんなところに?」

「それは……」


 と、彼が自らの素性を語ろうとしたところでだった。


 グ~~~と、男の腹が派手に鳴った。


「………すまない、しばらく飯を食っていなくて」

「いや、いい。私も空腹だ」


 赤面する男に、私は笑って言う。


「せっかくだ、共に食事にしよう」


 既に、パンを切り分け、金網で挟み、焚き火で炙ってトーストにするための準備は終えていた。


「いいのか? 貴重な食料を……」

「気にするな。ここで出会ったのも何かの縁だ」


 以前の私なら、彼の言うとおり、山中で出会ったばかりの得体の知れない男なんて警戒の対象でしかなかっただろう。


 だが、何もかも捨てて、王都を出て、少し気が晴れやかとなっていたのだ。


 笑顔で、心からそう言えた。


「……よかったら、これを」


 そこで、だった。


 男が、腰の荷物袋を探ると、中から薄紙に包まれた何かを取りだした。


 薄紙は脂が染み込み光沢を放っている。


 まさか……と思ったら予想通り、男が紙を捲ると、中から現れたのはピンク色の肉の塊。


 塩漬け肉――ベーコンだった。


「最後の非常用食料だったのだが、ここまで来たならもう関係無い。あなたの好きなように使ってくれ」

「良いのか!?」


 若干前のめりに聞き返した私に、男はビックリする。


 いけないいけない、食欲が前に出すぎてしまった。


 私は、男から受け取ったベーコンをありがたく切り分ける。


 大体、犬の舌くらいの大きさに。


 そして、ちょっと贅沢と感じるくらい厚めに。


 火を通したスキレットの上に乗せれば、ジゥゥゥゥゥゥ~~……と、食欲を誘う魅惑的な音とニオイが一気に弾ける。


「おお……」


 後方。


 男の腹が、雄鶏の雄叫びのように再び鳴ったのが聞こえた。


「……度重なりすまない」

「ふふっ、気にするな」


 そうなる気持ちは、凄くわかる。


 私は二つのトーストに、火の通ったベーコンをそれぞれ乗せる。


 そして、その上から、熱して溶かしたチーズをとろ~りと掛けた。


「さぁ、出来たぞ」


 早朝の静けさの中、まだ薄ら残る朝靄が目映く感じる、朝日の下。


 私は、完成したベーコンチーズトーストを男に渡す。


「さぁ、熱々の内に」

「い、いただきます……」


 最早、湧き出る涎も隠しきれない様子の男は、そう呟くと、一気にトーストに齧りついた。


「……! う……はう……あ」


 目をシパシパと瞬かせ、口をはふはふしながら、手をフリフリと動かしている。


 中々面白いリアクションをしてくれる彼を見ながら、私もトーストを口に含む。


 う……美味い。


 カリカリの、少しバターの風味も感じられるトーストの上で、ジューシーなベーコン、濃厚なチーズ、全ての旨味が混ざり合う。


 朝の山中という、清涼感に満ちたシチュエーションの中で食すという状況も手伝って、味覚、嗅覚、聴覚、視覚――全てが幸福に満たされる。


 脳内が、妙な分泌物でひたひたになったようだ。


「……う、美味すぎる……こんなに美味いモノ、久々に食べた気がする……」

「褒め上手だな」


 どこか感動したように宣う男に、私は少々の気恥ずかしさを覚えながら、そう返した。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「……ふぅ」


 食事も終わり、私達は食後のコーヒーで一息吐いていた。


「本当に、ありがとう。こんな至れり尽くせりで、なんと礼をすればよいか」


 男は深々と頭を下げる。


「気にするな。ところで……」

「ああ、俺の素性だったな」


 男は言う。


「俺は、ウィング=ハルケンベルト。あなたの言うとおり、王都のとあるギルドに所属している――一介の冒険者だ。何故ここに居たのかというと……ある任務の中断を余儀なくされ、帰ってくる途中だった」


 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


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