7.初めての授業 ( 2 )
眩しさで思わず閉じた目をゆっくり開くと、目の前の景色は一変していた。鬱蒼とした木々に囲まれ、まだ朝だというのに、太陽の光が遮られた辺りは薄暗い。
クラスメイト全員で一緒に魔法陣に入ったが、飛ばされた先は別々のようで、周りに人の気配はない。演習が始まったのだ。
今回の演習について分かっていることは、卵を探すということ。あとは、攻撃的な魔法を人に向かって放つのは禁止。つまり魔法自体は使っても問題ないということだろう。まだ本格的に魔法を学んでいないため、使える魔法の種類もあまりないのだけど……。
自分が今使える魔法を頭に思い浮かべてみる。数は少ないが、これらを使って今回の演習を乗り越えるしかないのだ。どの魔法を使えば良いのかしら……。
少し考えてみたが、今使える魔法は思いつかない。
「まずは、自力で卵を探すしかないわね」
辺りを見回すと、薄暗い上に『霧の森』という名の通り、霧が出ていて、正直ちょっと気味が悪い。しかし、そんな弱気なことも言っていられないので、何とか自分で自分を奮い立たせ、歩き出した。
森の中を進みながら、先ほど先生が見せてくれた卵を探す。握り拳より一回り大きいくらいの卵。雑草の中や、木々の上から下までくまなく探しながら進む。
「あ……!」
木の上に、卵らしきものを見つけた。けっこう高い位置にあり、木に登らないことには取れそうもない。しかし、木の下の方には足を乗せられる枝や、蔦も無く、木登りは難しそうだ。
先ほど頭に浮かべた魔法をもう一度順番に吟味する。今使える魔法はないかしら……。
あ……!きっとこの魔法なら!
「我が力を捧げる。風よ、身を守りし盾となれ。《風の壁》」
これは風の壁を作り出す魔法で、攻撃から身を守るための盾として使うのが一般的。しかし今回は縦ではなく、横向きの小さな壁を足元に出してみた。次に、その一歩先のもう少し高い位置に小さな壁を出す。これを繰り返すことで、階段のような足場が出来上がる。
順々に足場を作り、木の上の方へと向かっていく。何回か壁を出し続け、やっと卵が置いてある枝へとたどり着いた。枝の根本はある程度太さがありしっかりしていたので、一度そこに腰を落ち着ける。
「ふぅ」
慣れない使い方で魔法を出すだけでも負荷が高いが、その上それを連続して使用したことで、呼吸が乱れていた。一息つき呼吸を整える。
卵が置いてある枝の先は、今座っている場所よりも数段細くなっていた。できるだけ体重のかかる位置を変えないまま、卵へと慎重に手を伸ばす。よしこれで一個目、と思い、卵を掴んだ瞬間だった。
卵に手と足がにょきっと生え、生き物のように動き出した。私の手からするりと逃げ出すと、ささささと小走りに木の幹を器用に降りていく。
「え?」
うんと……逃げたわよね。卵が。足を生やして。そんなことありえ……。
ふと、以前に読んだ本が頭をよぎる。
「ウィキッド・エッグだわ」
実物を見たのは初めてだが、本で読んだことがある。ウィキッド・エッグ。別名、悪戯好きの卵。
なるほど。ただ卵を集めるだけ、とはいかないってことね。やっと私たちに課された演習の本質が見えてきた。
先ほどと同じように階段状の足場を出し、木の下へと降りる。逃げ出した卵がまだそこら辺にいるかもしれない。辺りを見回しながら、手足の生えた卵を探す。
「いた!」
あまり離れていない別の木の根元の影に卵は隠れていた。卵には、手足はあるのに目はついていない。そのせいで、どこを見ているのかはよく分からないが、こちらの様子を伺っているようだ。
また逃げ出されると困るので、じりじりと距離を縮めていく。
あともう少し……。
そろそろ手を伸ばせば届くか、というところまで近づいた瞬間。卵はまたもや逃走を試み、走り出した。
「我が力を捧げる。風よ、身を守りし盾となれ。《風の壁》」
卵の走り出した先に、今度は縦方向の壁を出し、道を塞ぐ。突然現れた壁にぶつかった卵は、こてんと尻もちをついた。その隙を逃すまいと、卵へ両手を思いっきり伸ばす。一度逃げられたことを思い出し、今度は両手でしっかりと強めに握りしめた。
「捕まえた!!」
ぐちゃ
「え……割れた。噓でしょ……」
ウィキッド・エッグはあくまで卵なのだ。強い力で握りしめられた卵は、もちろん割れてしまう。
一体どうやってこの演習を乗り越えれば良いの?