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4.ルームメイト

 扉を開けると、既にギヴァルシュさんは部屋の中に居た。


 部屋の手前に丸いテーブルが置かれており、そこでギヴァルシュさんは優雅にお茶を飲んでいる。部屋の奥には左右対称に二人分の家具が設置されいていた。一番奥に窓があり、その横にベッド、その手前に勉強机と椅子が置かれている。プライバシーを配慮してか、左右のベッドの間にはカーテンがひかれていた。


「は、はじめまして。セレーネ・オルセンです」


 私の挨拶を聞くと、ギヴァルシュさんは手にしていたカップを机に置き、椅子から立ち上がり姿勢を正した。


「シャルロット・ギヴァルシュです」


 スカートの裾を軽く持ち上げ、片足を引き、綺麗なお辞儀をする。


 ハーフアップされた薄ピンク色の髪に付いた小さいリボン。前髪越しに見えるくりくりっとした濃いピンク色の目。失礼かもしれないが、背丈の小ささも相まって、まるでお人形さんのようだった。


 ちょこんっとしてて、かわいい……!


 挨拶を終えた、ギヴァルシュさんは先ほどの椅子に戻り、またお茶を飲み始めた。お互い話かける訳でもなく、気まずい沈黙が流れる。何か言うべきかと迷ったが、部屋の奥にある自分の荷物が目に入り、私は荷解きをすることにした。


 部屋の中に入り、左右対称に設置された家具を見比べる。ベッドは二段になっており、上段にベッドが、下段にはクローゼットとハンガーラックが収納されていた。


 私の荷物は右側のベッドの前に置いてある。左側のベッドを見ると、既に荷解きを終えて整理整頓されたギヴァルシュさんの荷物たちが見えた。右側の家具を使って良いようだ。私は運ばれていた荷物に手を付けた。


「ふぅ」


 どれくらい経っただろうか。窓の外を見ると、オレンジ色をしていた空はもうすっかり暗闇に包まれている。荷解きを一通り終え、達成感に浸っていると、ふと空腹感に襲われた。


 お腹空いたし、夜ご飯食べに行こうかしら。ご飯は確か寮内の食堂にあるのよね。


 ちらっとテーブルの方を見る。ギヴァルシュさんは相変わらず、座ってティータイムを謳歌していた。背が小さいため足が地面に着いておらず、ぷらぷらと揺れているのが可愛いらしい。


 コンコン


「誰でしょうね……?」

「……」


 反応無し。ギヴァルシュさんに応対する気配は無いので、立ち上がり扉の方へ向かった。私たちの部屋を訪ねてくるなんて、いったい誰だろう。そう思いながら扉を開ける。


「ダリア!」


 扉の前に立っていたのは、昼間仲良くなったダリアだった。


「セレーネ!お腹が空いて食堂に向かっていたら、ちょうどセレーネの名前が見えたから来ちゃった!一緒にご飯食べに行かない?」

「えぇ、ぜひ!」


 あ、でも……。


 振り返りギヴァルシュさんの方を見る。


「ギヴァルシュさんもご一緒にいかがかしら?」

「……」


 勇気を出して誘ってみるも、再びの反応無し。心なしかちょっと顔を逸らされた気がする。


「そ、それでは私は食堂に行ってきますね」


 一応そう言い残し、私は部屋を後に、ダリアとともに食堂に向かった。


「わあ!校内の食堂とはまた違った雰囲気!こっちもこっちでいいね~!」


 デカルト先輩に案内された校内の食堂は木をベースに造られた落ち着いた雰囲気だったが、寮内の食堂は白を基調としており、洗練されたモダンな雰囲気だった。


 食事はブッフェ形式のようで、各々欲しいものを取って、自由に席で食べて良いみたいだ。食事を取り終わり、空いている席にダリアと座る。ちょうど今日の班分けが別々だった私たちは、自分の班がどんな感じだったかで盛り上がった。私は気になっていたイーストウッド先輩の学園案内について聞いてみると、ダリアは道中に発生した予測不可能な事件たちを話して聞かせてくれた。


「もう面白いったらないのよ?図書館に行った時なんて……」


「あ!!!いた!!!」


 ダリアの話を遮り、大きな食堂中に響き渡った声。この声……もしや……恐る恐る声の方を振り返る。


「ア、アレクサンダー・クラーク君……」

「覚えてくれたんだ!嬉しい!でも俺、名前長いから、アレクって呼んで!」

「ク、クラーク君」


 何となく名前を呼ぶのに抵抗感があり、つい苗字の方で呼んでしまった。一瞬悲しそうな目をしたクラーク君に、罪悪感が募る。


「とりあえずそれでいっか!君の名前は?」

「え?自己紹介しましたが……」

「分かってる!でも言って欲しい!」

「セレーネ・オルセンです」


 キラキラした瞳がより一層輝きを増した気がする。やっぱり犬の耳付いているよね?


「セレーネって呼んでもいいかな?」

「お好きに……」

「やった!それじゃまた明日ね、セレーネ!」


 満足した顔で走り去っていくクラーク君。反して私は疲労感でいっぱい。


「すっかり忘れてたけど、昼間のクラーク君、情熱的な告白だったよね!実際のところ、クラーク君のことどうなの!?」


 これが世にいう『恋バナ』というものなのだろうか。ダリアは興味津々に質問責めを開始した。


「どうと言われても……」


 うーん……。


『すげー!!待ってろマグノリア学園!!』


 あ。そういえば、今日階段の頂上で叫んでいた人も真っ赤な髪をしていた……。あれはクラーク君だったのね。


「とりあえず、熱い方なんだろうなと」

「えー、それだけ?何かかっこいいとかないの?」


 そう言われても、それ以上もそれ以下もない。素直に『熱い』以外の感想がない……。とりあえず、適当にダリアの恋バナ攻撃をあしらいながら食事を済ませた。


 食事を終えてからも、色々と話していると気づかぬうちに結構時間が経ってしまっていた。私たちは食堂を出て、各々の部屋へと戻る。扉を開けると、もうギヴァルシュさんはベッドに入っていた。


 起こさないよう静かに寝る準備をする。明日の準備ももちろん忘れない。


 ベッドに入ると、思ったより疲れていたのか急激な睡魔に襲われた。初日から色々あったものね。今日はよく寝れそう。明日からは早速授業が始まる。どんなことを学べるのかわくわくしながら目を閉じた。

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