43.一学期 期末試験 ( 15 )
チュンチュン
小鳥の囀りと、隙間から差し込んできた太陽の光で目を覚ます。体を起こし、辺りを見回す。
そうだわ……今は試験中で……。私昨日テントで眠りについたのね。
外に出ると眩しい朝日が森を照らしていた。背筋を伸ばし大きくのびをする。
「んー!いい天気!」
全身をゆっくりと伸ばしてから、滝の方へと歩いていく。冷たい水で顔を洗うと、目覚めきっていなかった脳がはっきりとしてきた。顔を上げて周りを見回すといくつかテントが目に入るが、まだ起きている人は少なそうだ。今のうちにこの開けている場所からは離れた方が良いだろう。
テントに戻り、昨日の逆の手順で折りたたんでいく。もう出番は無いはずだが、ここに捨てていくわけにもいかないのでリュックにしまい込む。そのとき、ふと中に入れていた傘が手に触れた。
今日で試験も終わりだ。リュックに入れたままでは、せっかく手に入れた魔道具の出番も無いままになってしまう。どうやって使うものなのか、見つけないといけないわね。
「よいしょ」
リュックを背負い、片手に傘を持って出発の準備は整った。どこへ向かうかはもう昨晩のうちに決めていた。四季の森に存在する春夏秋冬、四つのエリア。昨日私が見たのは春秋冬の三つ。まだ見たことのない夏のエリアの方向へと視線を向ける。
そのときだった。
『おはようさん〜!まだ寝てるやつもいるけどな。早起きは三文の徳ってことで、起きているやつに朗報だ!今から特別ボーナスでボールを落とす!キャッチしろよ〜〜』
追加でボールを貰えるということ!?それは願ってもないことだわ……!
ボールを落とすと言っていたが、どういう意味だろうか。とりあえず上の方を見上げてみる。すると、木々の合間から何かがゆらゆらと落ちてきているのが見えた。
広げた布にボールが結びつけられている。小さなパラシュートのような感じだ。だいぶ上空から落とされたのか、それはまだ巨大な木よりも上の方をゆらゆらと降下してきていた。
これはもしかして、風魔法が有利なのではないだろうか。あのままゆっくり落ちてくるのであれば、風を操作して私の方に落ちてくるようにすれば良い。
木の枝をつたい、上の方へと向かう。木の上まで登りきると、視界を遮るものがなくなり、落ちてきているボールがしっかりと見えた。近くに一つ。それから他にもいくつか見えるが数はあまり多くない。
「我が力を捧げる。風よ、我が想いに応えよ。《風の呼応》」
一番近くにあるパラシュートに向かい、風を操作する魔法を向けた。ゆらゆらと下に向かって落ちていたボールは風に流され、私の方へと進路を変える。
「取れた……!」
無事にボールを一つ確保することができた。落ちてきているときは透明な液体が入っていたが、私の手に触れた瞬間、それは水色の染液へと変わった。
この調子でもう一個。次に近くに落ちてきているボールに目を向けたが、その瞬間どこからか魔法が放たれ、パラシュート部分に命中した。破れた布ではボールを支えきることができず、そのまま真下の方へと落下していってしまった。
慌てて周囲を見回すが、もう残っているボールは無かった。風魔法が有利だと思ったが、結局取れたのは一個のみ。それでも……残り一つしかなかったところに、もう一つ追加できたのはとても運が良かった。
眼の前で落ちていったボール。誰かが近くであのボールを取ったということ……。もうここに長居する理由もない。私は高い位置から夏のエリア、つまり砂漠の見える方向を確認しつつ移動を開始した。
しばらく進んだところで、森の出口が見えてきた。立ち並ぶ木々がそこを堺になくなり、代わりに砂漠が広がっている。
「あ、暑いっ!」
森を抜けた瞬間、先ほどまでとは比較にならないような太陽光が肌をじりじりと焼きはじめた。額にも汗が滲み出す。
『よーーし!これより試験二日目を開始する!残り三時間、頑張れ〜〜〜!』