39.一学期 期末試験 ( 11 )
アレクサンダー君が立ち去ってから五分くらいが経過した。気を取り直し、私もいざ出発だ。
皆の話から、砂漠のエリアと枯れ木のエリアがあることは把握していたが、方角まではしっかりと聞いていなかった。どちらに向かうと何のエリアがあるのか分からないが、新しい景色が見えるのであれば、それで良いかもしれない。私は気が赴くままに移動を開始した。
まだ見ぬエリアで何が見られるのか。好奇心から胸が高鳴っていくのを感じる。周囲への注意も怠らぬようにしながら、私は一直線に森を進んでいく。
あ!また森の出口のようなものが見えたわ!!
先ほどは森の出口の先に真っ白な銀世界が広がっていた。
今度は何かしら。そう思いながら、森を抜けると……。
「あれ?ここは……住宅街……?」
そこに広がる光景は、私の想像しているものではなかった。四季の森という名前からも、森には四つのエリアしかないと思っていたが、私たちの勘違いだった?
前進し、住宅街へと足を踏み入れる。
この街並み、何か見覚えがあるような……。
そんなはずはないと思いながら、見覚えのある街を歩いていく。
「どうしてここに……」
見知った街を進み、辿り着いたのはオルセン家の屋敷。人の気配はなく、屋敷は静寂に包まれていた。私は吸い込まれるように、屋敷の中へと進んでいく。
「家庭教師から成績が下がっていると聞いたわよ!!勉強しか取り柄がないというのに、どういうことなの!!」
ああ、お母様の声だわ。
声のした方向に足を進めると、勉強部屋の中から響いてきているようだった。部屋の前に立ち、そっと扉を開くと中の様子をうかがう。
「黙っていないで答えなさい!どうして成績が下がったの!!」
「すみません……」
部屋の中に居るのはお母様と……小さい頃の私だ。
「謝罪なんていらないの!理由を言いなさい!!」
「……難しくて」
「難しい!?勉強をさぼったのね!!」
私は何もできず、ただ扉の隙間からその様子を見ていることしかできない。
『あなた、学園で一位じゃないのね』
耳元で声がした。
『あれだけ勉強しているのに、どうしてできないのかしら』
頭の中がぐにゃぐにゃと混ざり合うような、目の前がぐるぐると回るような。ただ耳元の声だけは鮮明に聞こえる。
『あなたにできることなんて他に何一つ無いというのに?』
私にできること。勉強以外に私にできることはあるだろうか。超難関と言われるマグノリア学園には合格したが、入学してみれば私より何倍も優れている人がいくらでもいる。では、私の取り柄とは一体何なのか……
……何も無い。
『そう。あなたには何も無いのよ。なのにどうして頑張っているの?』
私が頑張っている?だって、それが与えられた課題だから。
『そんなに頑張る必要があるの?点数だってもう取れたじゃない。どうせ一位になれるわけでもない。もういいじゃない』
あぁ、そうね。お母様も言う通りだ。必死になる理由なんて……どこにも無いわ。
『そうよ。分かっているじゃない。あなたは大人しくここにいれば良いの』
ここに……お母様と……。
ぐるぐると回っていた視界はぼやけ始め、ふわふわとした気持ちになってきた。地面に立っているはずの足が、地面をとらえている気がしない。立っている感覚がない。私は浮いているのだろうか。
パシッ
「しっかりなさい!!!!」
パシッ!
突如両頬を襲った痛みに目をぱちくりとさせる。
「レスタンクールさん……?」
「さっさと目をお覚ましなさい!」
何度か瞬きをし視界がはっきりしてくると、誰かが立っているのが目に入った。