37.一学期 期末試験 ( 9 )
ドローネさんの動きを警戒しつつ、何かできないかと横目で周りを伺ったときだった。
ドーーーーーーーーーーーーーーーン!!
遠くで大きな爆発音が聞こえる。姿は見えないが、この音はおそらくパワー系のアレクサンダー君とガルドン君の戦っている音だろう。プランケット君はどうだろうか。私の視界には何も見えず、プランケット君がどこにいるのかは把握できなかった。
戦っているような音も聞こえないけど、もしかしてもう決着がついたの……!?
「オルセンさん、考え事?余裕みたいだね!!」
ドローネさんが筒に息を吹き込みシャボン玉を作ろうとする。
「そうはさせません!」
再び風の刃の魔法を放つが、ドローネさんの魔法で打ち消されてしまった。
そして、彼女の顔の横に浮かんでいる中くらいのシャボン玉がひとつ。すぐに攻撃をしかけたことで、無数のシャボン玉を作られるのは回避できた。あのシャボン玉ひとつであれば注意して避ければ良いだけだ。これ以上数を増やされないようにするためには、隙を与えず攻撃を続けるしかないのだろうか。
「我が力を捧げる。風よ、我が想いに応えよ。《風の呼応》」
ドローネさんが風を操作する魔法を唱える。
てっきり、シャボン玉の数を増やしてから攻撃されるものかと思っていた私は意表をつかれる形になった。しかし、シャボン玉ひとつであれば対処方法はいくらでもある。私の風魔法で押し返せるのではないだろうか。
「我が力を捧げる。風よ、我が想いに応えよ。《風の呼応》」
え……どういうこと……!?
私は風魔法でシャボン玉を操作しようとしたが、何とシャボン玉は私の魔法には一切反応しなかった。魔道具の効果なのか、あのシャボン玉はドローネさん本人の魔力にしか反応しないようだ。確かに、今までシャボン玉が反応したのは何かに物理的に衝突したときだけだった。
魔法が効かないとなると、何か私の身代わりにシャボン玉を当てるものを見つけないと。シャボン玉と距離を取りつつ、辺りを見回す。
そのときだった。視界の端に美しく輝く長髪の女性が映る。
精霊魔法……!!
あれはおそらくダミアン君の精霊魔法。ということは、プランケット君とダミアン君の戦いもまだ終わっていないようだ。近くにいるかもしれない。
一度振り返り、後ろのシャボン玉へ視線をやると、まだ距離はあるが確実に私に近づいてきていた。
とりあえず、何か身代わりにできそうなものを見つけないと……!!
ガサガサ
右奥の草むらに人影が見え、顔を向けると、そこに居たのはプランケット君だった。
「プランケット君!」
「オルセンさん!」
息を切らし、体にところどころ擦り傷が見える。上位精霊を操るダミアン君相手に、やはり苦戦しているのかもしれない。
「オルセンさん、そのまま右に曲がって走ってください。それから……」
プランケット君が聞こえるか聞こえないかの小さな声で囁いた。私はプランケット君に大きく頷き返し、右へと直角に曲がり走り出した。もう一度後ろを振り向き、シャボン玉が私を追ってきていることを確認する。
「危ないやんか〜。急にそんな威力の強い魔法打たんといてえな、プランケット君」
いつもの独特な話し口調のダミアン君が、走る私の数歩先の辺りに突然飛び出してきた。まだ私がいることには気づいていないようだ。
こちらを警戒していないのであれば、迷うことはない。シャボン玉がもう近くまで迫ってきている。私は全速力でダミアン君目掛けて突っ込んでいった。
「なんやっ!!」
走ってきた私にダミアン君が気づいたときだった。
ペシャッ
ダミアン君の腰辺りに水色の染液が広がる。
「キャーーッ!」
パンッ
私はボールを投げたと同時にシャボン玉に当たること覚悟していたが、少し離れたところでドローネさんの悲鳴が聞こえた瞬間、シャボン玉は小さな音を立てて割れた。




