35.一学期 期末試験 ( 7 )
「どうしますか?」
相手から視線を逸らさず、冷静にプランケット君が問いかける。
「どうって、これはもうやるしかねーっしょ!セレーネはどう?いけそう??」
アレクサンダー君はやる気満々といった感じだ。それでも、私のことを気遣ってくれているのが伝わってくる。一瞬躊躇ってから、私は答えた。
「……やろう!!」
「よっしゃ!やるぞーー!」
私の返事を聞いたアレクサンダー君が、にかっと笑いながら大きな声で言った。
この状況では逃げるよりも応戦した方が勝機があるし、一対一での戦闘と比較し、チーム戦は一気に点数を稼げるという利点もある。それに私一人が仮に逃げおうせたとしても、それではアレクサンダー君とプランケット君が人数的に不利になってしまう。
ここは三人で応戦するべきだわ……!
「うーん、とりあえずダミアンの精霊魔法が厄介だな。複数召喚されて、色んな属性で攻撃を仕掛けられたら堪らない」
「授業での様子を見ている限り、上位精霊の召喚も可能なようですし危険ですね」
上位精霊。プランケット君のその言葉に、思い出すのは崖に落とされたあの授業。
精霊と一言でいってもその姿かたちは様々で、動物やら虫やら魚やら、本当に多様だ。その中でも人型をしている精霊は上位精霊とされており、他の精霊に比べ魔力も知能も段違いに高い。また、人型精霊の中でも、人語を話す精霊は最上位の精霊とされている。
授業で人型精霊を難なく召喚していたダミアン君が、私たちの一番の警戒対象だ。
「あとの二人について知っていることは?」
ダミアン君の後方に居たふたりも、今は三人一列に並んで木の上からこちらを見下ろしている。
「あー、俺リシャールとペア組んだことあるけど、あいつとの接近戦は危ないな」
「そうですね。ガルドン君は身体強化魔法が得意ですので、近づくと彼のペースになるでしょう」
そういって、握った拳を前に突き出し、殴る仕草をするプランケット君。
私はダミアン君の右側に立っているリシャール・ガルドン君へと視線を向けた。スラっとしたように見えて、筋肉質な体。髪は短い金髪をすべて上に流し、いわゆるオールバックだ。アレクサンダー君たちの言う通り、ガルドン君は魔法での遠距離攻撃よりもパワータイプの印象だ。
「もう一人はドローネさんですね」
プランケット君の言葉に、私も視線をずらす。ダミアン君の左隣りに立っているのは、長い髪を後ろで一纏めに縛ったマルセル・ドローネさん。何故か胸の前で左手を握りしめている。
何か持っている……?
彼女の左手に意識を持っていかれたときだった。
「我が力を捧げる!!!!炎よ、その力を解き放て《炎の爆発》」
目の前に迫りくる大きな炎。
「危ないっ!!避けろ!!!」
アレクサンダー君の声が響き渡った。私は慌ててその場から飛び退く。アレクサンダー君、プランケット君は私よりも俊敏に動き、難なく攻撃を回避していた。しかし三人別方向に動いたため、距離ができてしまった。この状態では作戦会議ができない。
「もう始めてもいいかな?」
最初に仕掛けたのはドローネさんだった。
「そろそろ待ちくたびれてしもたわ」
「よっしゃ!殴り合いだー!!」
ダミアン君も、ガルドン君もやる気満々という感じだ。
「やるっきゃないな!」
アレクサンダー君ももう戦闘準備万端のようだ。最低限の情報共有は済んだ。あとは、精一杯できることをやるだけ。
「行くぞ、ふたりとも!!えいえい!」
「「おー!!」」
急な掛け声についていけない私は、プランケット君のノリの良さにも驚いて、ふたりの方を振り返った。
「セレーネも!」
「ご、ごめんなさい」
「じゃ、もう一回。えい!えい!」
「「おー!!」」
「お、おー!」
気合いを入れたところで、それを合図にしたかのようにダミアン君たちの攻撃が始まった。
私たちが作戦会議をしていたのと同様に、彼らも打ち合わせをしていたのだろう。
パワータイプのガルドン君がプランケット君のところへ一直線。ガルドン君は勢いそのまま殴り込むつもりのようで、大きく振りかぶった右腕を突き出した。
今までの授業の中で、プランケット君が格闘技をやっているところを私は一度も見たことが無い。魔法に関しては人一倍の努力をしているが、接近戦での力勝負はおそらく得意としていないのだろう。それを向こうも承知の上で、このペアでの戦いを選んできたに違いない。
「そこは俺だろ?」
勢いよく突っ込んできたガルドン君の前に、瞬間移動でもしたかのようなスピードでアレクサンダー君が割って入っていた。ガルドン君の右ストレートを左手で受け止める。
あの威力を……片手で軽く受け止めてしまうなんて……。
アレクサンダー君の身体能力の異常さには何度も驚かされてきたが、単純な筋力も相当のもののようだ。
「あちゃー。もうセレーネちゃんにはボール当ててしもたから、ワイはプランケット君とやなあ。ま、よろしゅう」
「オルセンさん、あなたのお相手は私よ!」
三対三のチーム戦の火蓋が切って落とされた。