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30.一学期 期末試験 ( 2 )

「実技試験はデスゲームだ!!!」


 突然の言葉にクラス全体が静まり返る。入学以来、想像を超える様々な授業に何度も驚かされてきたが、今回は今までにない不穏さが含まれていた。


「デスゲームはちょっと言い過ぎたかもしれないな!はっはっは」


 私たちの緊張をよそに、いつもの飄々とした雰囲気でそう付け加えるバロリエ先生。


「とりあえず試験内容の説明するから、よく聞いとけ〜」


 バロリエ先生の説明によると、今回の実技試験はサバイバル形式とのこと。それを過激な表現で言うと、『デスゲーム』だったというわけだ。先生がパンと手を叩くと、各人の机上に五つのボールとヘルメットが現れた。私の眼の前に現れたボールをよく見ると、中に水色の液体が入っている。周りを見回すと、クラス全員違う色のボールが渡されたようだ。


「そんなに難しく考える必要はないぞ。その染液の入ったボールを当て合うだけだ〜」


 ボールを当てる……。眼の前に現れたボールを手に取り眺めつつ、先生の説明を聞く。


 本試験は点数制となっており、頭にボールを当てると十点、首から下に当てると五点が加算される。頭を狙い合うため、ヘルメットが準備されているようだ。そして、禁止行為が二つ定められている。まず、同じ相手に何度もボールを当ててはならない。仮に当てたとしても二回目以降は加点対象にはならないとのこと。また、ボールを当てられた相手に対し、即座に当て返すことも禁止。三十分経過後から当て返すことが可能となる。近距離で、ただボールを投げ合うだけの無駄な乱戦を避ける目的らしい。


 タイムリミットは明日のお昼まで。今夜は宿舎に戻ることができず、野宿となるが、夜の時間帯は休戦時間があるとのこと。寝ている間に奇襲される等の心配は無く、きちんと休息が取れるような配慮がなされているようだ。食事や寝袋まできちんと準備されており、必要なもの一式が全てリュックに入れられていた。そして夜明けからまた試験を再開し、最終的に明日のお昼時点での獲得点数がそのままテストの点数に反映されるのだ。


「そんでもって、今回の実技試験が行われるのは四季の森だ。ちょーっと幻覚とか見えたり、ちょーっと狂暴な何かがいるかもしれないが、先生たちがちゃんと監視して、何かあったらすぐ飛んでいく。だから安心して試験に臨めよ~~」


 幻覚……。凶暴な何か……とは……。


 脳裏に浮かんだのは、霧の森で遭遇した巨大イノシシやオオカミ。あの日の恐怖が蘇り、自然と身体が強張る。先生の言葉に反応したのは私だけでなく、クラス全体が得も知れぬ不安感に襲われているようだった。


 ちなみに先生の補足によると、実は初日の授業でB組がこの四季の森に行っており、今回はA組とB組で場所交換をしての実技試験とのことだ。四季の森。初めて聞く名前だが、この学園内にはいったいいくつ施設があるのだろうか。


「あ、もう一つ伝えないといけないことがあった。森の中の各所に箱が置いてある。魔法の込められていない魔道具が色々と入ってるから、それも好きに使え」


 色々と……。いったい、どんなものが入っているのだろう。今回のテスト内容から考えると武器や戦闘に役立つものか。それとも回復系で役立つものか。森の中に置かれた箱に入れられているもの……全く想像がつかない。


「よし!説明は以上だ!東の庭園に行くぞ~~」


 毎回恒例となった転移魔法陣のある東の庭園へと向かう私たち。



 わらわらと転移魔法陣の辺りに集まっている集団。その中に見知った顔を発見した。


 あら……?あれはシャルロットではないかしら。


 集団の中で、ちょこんと立っているシャルロット。彼女が居るということは、この集団は霧の森へと移動するB組のようだ。


「あ……!」


 私に気づくと、小さく手を振ってくれるシャルロット。私も頑張れというメッセージを込めて、手を振り返す。そして、お互い手を握りガッツポーズで気合を込め合った。


 全員が魔法陣の中に揃い、準備が整うと、B組は霧の森へと転移されていった。お見送りが終わり、次は私たちA組の番だ。魔法陣の中へと移動し、転移魔法が発動されるのを待っていると、ダリアがちらっとこちらに視線を向けた。


「セレーネ頑張ろうね……!」

「えぇ!お互いベストを尽くしましょ」


 そして、私たちは転移魔法の光に包まれた。


 目を開けると、そこには霧の森とは全く異なる雰囲気の森が広がっていた。薄暗くて太陽の光も届かない鬱蒼として薄気味悪かった霧の森とは違い、木が生き生きと生い茂り、枝は大きく成長した葉をつけている。花や実がなっている木もあり、どこかのジャングルに迷い込んだ気分だ。


 長い年月をかけて成長したように見える大木の根本は、もはや私の身長ほどの高さがある。霧の森のような心細い思いをしなくて良いのはありがたいが、この大きな根本を乗り越えるのは一苦労だ。今回の試験、相当な体力が求められるかもしれない。


 道という道も無く、木々が生い茂り、前後左右どこを見ても同じ景色が広がっている。印でも付けて歩かない限り、自分の来た道でさえ分からなくなりそうだ。ここに居ても何も始まらない。まずは全体が見渡せるような場所に移動してみるか。


「我が力を捧げる。風よ、跳ね返せ。《風の跳躍(ミュール・ド・ソー)》」


 まだ風魔法で飛ぶことは難しいが、最近習得した少し上に跳ね上がる魔法を使ってみる。ふわっと風に持ち上げられるような感覚で、大きな木の根本に飛び乗る。


「わぁ。巨大な木がたくさん……こんな光景初めてだわ」


 下から見ていても、自分を取り囲む大木に圧倒されたが、それを少し上から見渡すと圧巻の景色だった。まるで自分が小人にでもなったようだ。


 ザァーーーーー


 耳を澄ますと、どこかから水の音がする。森の中に川か滝でもあるのだろうか。本当に大きな森だ。ゆっくりと吸い込んだ空気が澄んでいて美味しい。


 もう少し周りの地形をしっかりと観察していると、少し進んだ先に開けた場所を見つけた。ここは大木に囲まれていては身動きが取りづらいが、あそこであればある程度動けるだろう。しかし障害物が無くなるということは、自分が動きやすくなると同時に狙われやすくもなる。


 こういったゲームをしたことがないため、どう作戦を立てれば良いものか……見当がつかない。


「~~~~~」


 今、何か聞こえたわ……!はっきりとは聞き取れなかったけど、今のは確かに人の声だった!


 声の聞こえてきた方向を慌てて振り向くと。


 ペシャ


 何かが顔の真横を掠め、後ろの木に当たった音がした。恐る恐る振り返ると、真後ろの木が黄色く染まっている。


「あーーー!残念!!油断してたからいけると思ったのにーーー!」


 ボールが来た方向に目を向けると、木の枝に立った人物がこちらを見下ろしていた。


「ねえ、勝負する?」

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