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28.とある休日の勉強会 ( 3 )

 二度目の司書さん来訪以降、私たちは集中して勉強に取り組んでいる。


 筆記試験上位組であるクラーク君、レスタンクールさん、私の三人が、ギヴァ……シャルロットとアルヴィエ君に順番に得意科目を教え、自分が教える担当でない時は自習時間とし、これをぐるぐる順番に回していた。


「あぁ~~!もうあかんわ!!疲れたぁ」


 声を上げたアルヴィエ君は、もう相当疲れている様子だ。時計を見ると、針はいつの間にか夕方を過ぎている。集中していたせいで気がつかなかったが、だいぶ長い時間勉強に取り組んでいたようだ。


「確かに疲れてきたなー!今日はお開きにすっか!!」

「ですわね!!」


 クラーク君、レスタンクールさんに続き、私とシャルロットも賛同して今日の勉強会はお開きとなった。机の上に広げていた勉強道具を各々片付けていく。


「なぁなぁ、セレーネ」


 帰る準備を進めていると、隣からクラーク君が小声で話しかけてきた。


「今度さ……あのさ……ふたりで」


 いつもと違い、小声でモゴモゴとどもりながら話すクラーク君は緊張しているように見える。


「セレーネ、帰ろ?」

「アレクサンダー様!帰りますわよ!!」


 まだ何か言っている途中のクラーク君を遮って、シャルロットとレスタンクールさんが間に入ってきた。


「あ~あ~アレクサンダーの恋路も前途多難やなぁ~」


 アルヴィエ君はどこか楽しそうだ。


 結局クラーク君が何を言いたかったのか分からないまま、私たちは図書館を出た。そのままの流れで一緒に夕食を食べることになり、寮の食堂へと向かった。


「いや~にしても、アレクサンダーが説明上手なんて意外やったわ~」

「なんらほそれ」


 口いっぱいに食べ物を詰め込んだまま答えるクラーク君。


「何て言ったらええんやろ。ほら。『何で分からないんだ?これはこうだから答えはこうだろ!』とか説明無しで感覚的なこと言いそうやん」


 アルヴィエ君は身振り手振りまでつけて、クラーク君の真似をしながら言う。


 彼の言いたいことは何となく分かる。いつもテストの点数が良いので、頭が良いことは重々承知している。だが、頭が良いことと、人に説明ができるということはまた別の話だ。むしろ頭が良すぎる人ほど、勉強が分からないという人が理解できない、なんてケースもざらにあると思う。


 しかしクラーク君はそのケースには当てはまらないらしい。実は、彼が私の苦手な範囲を説明していた時、自習しているフリをしながら聞き耳をたてていたのだが、その説明・解き方を聞くと、今まで苦手と思っていたことが嘘のように理解できたのだ。


「アナベルちゃんは……想像通りやったな!!」

「どういう意味ですの、それ」

「説明がいまいちやったわ!!!」


 そう言って、ケタケタと笑うアルヴィエ君。


「それが教えてもらっている方の立場ですの!?勉強をみてもらっているだけでも感謝しなさいな!」

「それはそうやな!ありがとうな!!」

「……わ、わかればよろしくてよ」


 からかうようなことを言った矢先、素直に感謝を伝えるアルヴィエ君。レスタンクールさんは、完全に彼のペースにのまれていた。


「私はね、セレーネの教え方が一番好きだったよ」

「そんな!私なんてまだまだです」


 隣でもぐもぐとご飯を頬張りながら、上目遣いで嬉しいことを言ってくれるシャルロット。ああ、何て可愛らしいのだろう。


「セレーネ、もう敬語じゃなくていいよ??」


 そう言って、首をこてんと傾ける。


「分かりま……分かったわ」


 私の返事を聞いたシャルロットは、心なしか嬉しそうだった。


「お!ほんならワイにも敬語無しでええで!同級生やないか!かたっ苦しい思おてたんよ。ついでに名前もな!!」


 にこーーーーっと、有無を言わさぬ笑顔を向けてくるアルヴィエ君。


「分かったわ……ダミアン君」


 今までも何回か名前で呼んで欲しいと言われたことがあったが、いつもふざけた雰囲気で言われ、冗談か、からかわれいるだけだと思い応じなかったのだが……。ここで断ると、更にからわかわれる気がして今日は遂に承諾してしまった。それに、今日の言葉は本心だったようにも思えるし……。


「ああああああああ!!」


 急に大声をあげて、机をバン!と叩き、立ち上がったクラーク君。顔を赤くし、わなわなと震えている。


「ず、ずりいぞ!!俺も!頼む!!!」


 腰を九十度に折り曲げ、名前で呼んで欲しいとせがまれる。ここまで言われて、断るのも何だか申し訳ない。


「アレクサンダー君」


 名前を呼ばれると、勢いよく顔を上げ、満面の笑みでこちらを見てくるアレクサンダー君。パアッと笑った顔はやはり子犬に見える……。


「おう!!俺、アレクサンダー君!!ありがとう、セレーネ!!!」


 喜びすぎて変なことを言っているアレクサンダー君。名前呼ばれただけで、こんなに喜べる人がいるなんて。


「なぁなぁ、アナベルちゃんはどうする?」


 と、いつもの何か企んでいる顔でレスタンクールさんに話を振るダミアン君。


「どうするって何ですの!私はいつも通りですわよ!!」


 この反応に、ぶーぶー文句を言っている男性陣。


「も、もう時間も遅いですし、早く部屋戻りますわよ!!」


 そう言って立ち上がると、自分のトレイを持って急ぎ足で消えていくレスタンクールさん。


「あれは照れ隠しやな」

「そうかもな!」


 レスタンクールさんの後をおって、私たちもゆるゆると部屋に戻っていった。


 寝る準備と明日の支度を整え、ベッドに入る。頭に浮かぶのは今日の勉強会での光景だ。誰かと勉強会をすることはもちろん、複数人でああやって集まって話すこと自体、私には初めて。普通の人たちにとっては何てことないのかもしれないが、今まで友達がいなかった私からすると、今日は一大イベントだった。


 あんな風に皆と分け隔てなく話すことができるなんて……。


 そう思うと、無意識に口角が上がってしまう私だった。

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