27.とある休日の勉強会 ( 2 )
コンコン
一向に勉強会の始まらないこの場をどうしたものかと考えていると、部屋の外から司書さんに窓をノックされた。図書館の個室は、誰が使用しているのか分かるよう、廊下側にも窓が設置されているのだ。
私たちの視線が司書さんに集まると、人差し指を立ててシーッと……。個室として仕切られているとはいえ、中で騒げば、外に音が漏れてしまう程度の薄い壁。司書さんからの圧を感じた私たちは、頭をコクコクと振り、やっとのこと勉強会を開始した。
「どれからやるかー」
「アレクサンダーとセレーネちゃん、アナベルちゃんは優秀やからなあ。小テストも抜き打ちテストもほぼ全問正解のクラス上位三人。危ないのはワイとこのチビやな」
そう言って、親指で隣を指すアルヴィエ君。ギヴァルシュさんは反論できないようで、ただ無言でアルヴィエ君を睨みつけている。
「ワイは実技は自信あるんやけど、座学はからっきしでな。こいつもまた然り」
「ギヴァルシュさん、実技が得意なんですか?」
「ほんま、おっかない奴やね……痛っ!!」
ここからは見えないが、机の下で思いっきり足を踏みつけられたようだ。足を抑えて、ひーひー言っている。
「せ、せやから、三人で順番にワイらの勉強みてくれや!」
確かに、このメンバーで勉強会をするとなれば、それが妥当かもしれない。
「えぇ!?俺は今日セレーネに教わりに来たのに!」
「必要無いですよね」
いつも筆記のテストで満点を取っているアレクサンダー君に、私が何を教えられるというのだろう。こんなに体力有り余っていますという雰囲気の彼が、筆記でクラストップという事実。人は見かけによらないということなのだろうか。
「アレクサンダー様!では、私に手取り足取り教えてくださいませ!」
「何を!?」
「もう……淑女にそんなこと言わせないでくださいませ」
頬を抑えて、顔を赤らめるレスタンクールさん。
何だかまた収拾がつかなくなってきているような……。
と、思っていると、服の裾をちょんちょんと引っ張られる。見てみると、引っ張っているのはギヴァルシュさんだった。
「……セレーネ?お勉強教えて?」
「はうっ!!」
何という破壊力……!!!
それに……。
「今、セ、セレーネって……」
「私のことも、シャルロットって呼んで?」
「良いんですか?」
上目遣いのまま、こくりと頷くギヴァルシュさん。言われた通り、名前で呼んでみる。
「シャルロット……さん?」
納得いかないという顔で、首を横に振られてしまう。
「シャ、シャルロット……?」
聞いた瞬間、シャルロットの顔は花がパアッと咲いたような笑顔になり、そのまま腰に抱きつかれる。
か、か、可愛すぎる……!!!
「おーおー。あの勝ち誇った顔。あいつ性格悪いやろ?クソ人見知りの癖に、昔からああやねん」
「くっ!羨ましい!!!」
「アレクサンダー様!私がいつでも抱きついて差し上げましてよ!!」
というようなやり取りがされていたのだが、嬉しさのあまり舞い上がっていた私の耳には届いていなかった。
コンコン
皆ぎくり、というように一斉に口を閉じ、おそるおそる窓の方を向く。先ほどの司書さんがまた立っていたのだが、今度は何のジェスチャーも無く、ただただニコリと笑っているだけだった。
私たちはサッと席に戻り、瞬時に勉強道具を取り出し、司書さんに笑い返す。
何とかの顔も三度まで……。
今度こそ私たちは勉強会を始めるのであった。