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26.とある休日の勉強会 ( 1 )

 あの崖に落とされた過酷な授業から数日が経ち、今日は勉強会の日だ。開催場所は勉強会の催しに相応しい図書館に決まった。図書館には私が普段利用している個人スペースの他に、グループで使える個室も完備されている。部屋として仕切られているので、静かに話し合いをする分には許容されるスペースだ。


 集まったメンバーは、クラーク君とアルヴィエ君……そしてレスタンクールさん。教室で勉強会の相談をしているところに突如現れ、『抜け駆けはよろしくないわよ!!!』と言い放った彼女も、そのまま参加する流れになったのだ。


「シャルゾンさんは来ませんの?」

「ダリアは……」


 今朝の話。


 コンコン


 朝早くから訪問者なんて珍しいと思いつつ扉を開けると、そこには毛布を頭から被り全身をぐるぐるに覆ったダリアが立っていた。


「ダリア!?どうしたの??」

「ゴホッ!ごめん……ちょっと体調が悪くて……ゴホッ」


 毛布の隙間から覗かせた顔色はとても悪く、声も掠れていて、話すのさえしんどそうだ。


「そんなの気にしなくていいわ。今日の勉強会はまたにして、医務室に一緒に行きましょう?」

「いや!せっかく決まったことだし、セレーネは行ってきて。医務室もひとりで大丈夫だよ」

「でも!」

「だいじょーぶ!ゴホッ。勉強はまた今度教えてね」

「もちろんよ。でも、医務室には」

「本当に大丈夫だから!」


 何度か一緒に医務室に行こうと言うも、ダリアが頑なに断るため、私は大人しくその背中を見送ることしかできなかった。


「そうなんですの。それはお気の毒ですわね。ところで……あなたの後ろにいるのは誰ですの?」

「えっと……この子は」


 実は、ダリアが去った後、続きのお話がある。


 小さくなっていく背中を見守り、ダリアが角を曲がり見えなくなったところで私は扉を閉じた。部屋の方に向きを変えると、そこには目をこするギヴァルシュさんが立っていた。


「すみません、起こしてしまいましたね」


 休日のこの時間、いつもなら彼女はまだ寝ている時間だ。きっと私たちの話し声で起こしてしまっただろう。謝罪の言葉を口にすると、気にしてないよ、とでもいうように眠そうな顔を横に振った。


「どこ行くの?」

「図書館です。クラスメイトと勉強会をするのですよ」


 この約二ヶ月の間、ギヴァルシュさんとの会話は徐々に増えてきている。最初は四六時中無言だった空間が、挨拶をするようになり、今ではこのようなちょっとした会話もするようになった。


「勉強会?」

「そうですよ。学期末テストまでもう一ヶ月を切っていますし、赤点だと追試もあるみたいなので。その対策です」

「追試……?」

「えぇ。長期休暇の半分は追試になるみたいですよ」


 追試の話を知らなかったのか、ギヴァルシュさんはクリクリっとした目を大きく開けて、そのまま固まってしまった。猫に睨まれた鼠のようだ。


「ギヴァルシュさん?」

「……私も一緒にいい……?」


 身長差で自然と生じてしまったであろう上目遣いに、大きな目がうるうるしていて、もうひたすらに可愛い……!こんな可愛らしいお願いを断ることはもちろんできず……。参加する他の皆さんに無断で申し訳ないが、ギヴァルシュさんも一緒に行くことにしたのだ。


 そして今に至る。


「私のルームメイトのシャルロット・ギヴァルシュさんです。今日一緒に参加してもいいでしょうか……?」

「シャルロット・ギヴァルシュです。よろしくお願いします」


 私の後ろに隠れていたギヴァルシュさんは、ちょっとだけ横にずれて皆さんの見える位置に移動すると、初めて会った時の様にスカートの裾を持ち、綺麗なお辞儀で挨拶をした。


「もちろんだぜ!!!セレーネの友達だしな!!俺、アレクサンダー・クラーク!よろしくな!」

「私はアナベル・レスタンクールです。よろしくお願いしますわ」

「わいは……自己紹介せんでもわかるやろ?」


 そう言って、アルヴィエ君が悪巧みでもしているかのような笑顔でギヴァルシュさんを見る。彼の存在に気づいていなかったのか、声をかけられちょっと驚いた表情をしたギヴァルシュさんだったが……。


「近づくな、クソ細目」


 ギヴァルシュさん!?あまりに普段と違う口調で話す彼女に驚き、声も出でない私。


「そんなこと言わんといてな~~」

「相変わらず胡散臭いわね。近づかないで。臭いがうつるわ」


 ギヴァルシュさんの数々の暴言に、傷つく素振りもなく飄々としているアルヴィエ君。二人はいったい……?


「あ、幼馴染っちゅ~やつや」


 きょとんとした顔で二人を見ている私たちに気づいたのか、アルヴィエ君が教えてくれる。


「幼馴染か!!仲良しだなー!」

「せやで〜」

「離しなさい」


 クラーク君の言葉にのったアルヴィエ君が肩に手を回そうとするも、ギヴァルシュさんに容赦なく叩き落された。この流れに乗じようとしたレスタンクールさんは、クラーク君の腕に自分の腕を絡める。


「アレクサンダー様?私たちも仲良くなりませんか!」

「はははははは、クラスメイトとしてこれからもよろしくな!」


 華麗な身のこなしで、その腕から逃れるクラーク君。


「んもうっ!つれないですわね!」


 離れた距離をもう一度詰めようとするレスタンクールさん。


 あのう……勉強会を始めませんか……?

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