23.ダリヤと休日
「あら?ダリア?」
学園に来てから何度目かの休日。相も変わらず図書館へと向かっていた私は、その道中、寮の入り口で偶然ダリアと出くわした。
「セレーネ!朝早いね!」
「ダリアこそ」
「どこ行くの?」
「図書館へ。今週の授業の復習と読書を……」
「勉強!?今日休みなのに!?」
目をまんまるに見開いているダリア。何か考え込むように俯いた後、パッと顔を上げ
「うーん、そしたら一緒に学園探検しない?」
と、目を輝かせて言った。
友達と休日を過ごすなんて……初めて……!勉強はいつでもできるわ。せっかく誘ってもらったんだから、学園探検に行ってみましょう。
二つ返事で快諾し、私たちは学園探検へ向かった。
「それにしても、教室ではいつも一緒なのに、休日会うのは初めてって不思議だねー!何度かセレーネのこと探してみたんだけど、見当たらなくて。まさかこんな朝早くから図書館に籠もっていたなんて!」
特に目的も無いままに、学園内を適当に散策している私たち。
「ダリアは、その、休日は何して過ごしているの?」
「うーん、何してるかなぁ。ひとりで適当にうろうろしてるかな。部屋で何もせずにいるのもそわそわするし」
この答えは意外であった。ダリアは人当たりもよくとても明るい子だ。休日も誰かを誘って賑やかに過ごしているのかと思っていた。
「結構歩いたねー!!ここら辺でお昼食べようよ!」
歩いていると前方に現れた、とある庭のガゼボ。日当たりもよく、時折通り抜ける涼やかな風が気持ち良い。私たちはそこへ入り、今朝寮の食堂から持ってきた軽食を机に広げた。
「やっぱ食堂のご飯って美味しいよね〜」
学園に来て以来何度も食べている食堂のご飯。毎日たくさんの種類のご飯が準備され、どれも味は一級品。多くの学生が学園生活の楽しみにしていることだろう。そんなことを考えつつ、瑞瑞しいフルーツを一欠片口へ運んだ。隣のダリアももぐもぐと美味しそうにパンを頬張っている。
「そういえばさ、セレーネってどこの出身なの?」
「出身?」
急に方向転換した話題に、驚いて聞き返してしまう。
「そうそう!学校でも私たちよく喋るけど、ほとんど授業のことじゃん?私あんまりセレーネのこと知らないのかもって思って!」
言われてみれば、確かにそうだ。学園に来て以来、新しい発見と驚きの連続。必然、ダリアとの会話も授業や学園に関するものばかりになっていた。
「私は北の都市出身よ」
「ほえー!そしたら、ご両親は魔法技師だったり?」
「えぇ、お父様が」
「すごいすごい!セレーネも魔法技師を目指してるの?」
「それは……」
今まですらすらと質問に答えられていたが、急に言葉が詰まる。『やりたいこと』など考えたことが無い。魔法技師を目指しているか、と問われても私の中に答えは無かった。
「あ、あの、ダリアはどこ出身なの?」
話題を変えようと、今度は私からダリアに質問を投げかける。
「私?うーん、どこだと思う?」
しかし返ってきたのは逆質問。ダリアは少し悪戯っぽい笑顔でこちらを見ている。
「ええと、南の都市とか?」
「南!何でなんで?」
何となくの回答に理由を求められる。私はなぜ南の都市を思い浮かべたのだろうか。
「ダリアは何と言うか……明るくて、優しくて、暖かいから」
「暖かい?」
うーん……どう言えばこの感覚が伝わるのだろう。
「クラーク君は眩しい太陽のイメージなの。近くにいると熱いって感じるような。でもダリアが隣にいるのは、陽だまりみたいに暖かいの」
「陽だまり?」
「どう言ったら良いんだろ……ほど良い距離感で接してくれる感じとか……とても安心するわ」
言葉にするのは難しい。ダリアは明るいが、ガツガツした感じは無くて……。先ほどの魔法技師の話にしてもそうだ。私が上手く答えられなくても、無理に深堀りしたりしない。ちょうど良い感じ。落ち着くのだ。
「そっか……陽だまりか……初めて言われたなあ」
穏やかな静寂が訪れる。
そこへ、ちゅんちゅんと小鳥が一羽、二羽……三羽と机に飛んできた。声を出すと驚かしてしまいそうな気がして、ダリアと静かに目配せする。
しかし次の瞬間。
チューーーン!!
私たちの気遣い虚しく、小鳥たちは軽食を奪い、颯爽と飛んでいってしまった。
眼の前の出来事に、私もダリアも驚いてポカン。
「あは、あははは!!そんなことある!?はははは!」
「ふふふ、そうね」
その光景がおかしくておかしくて。お互い顔を見合わせて笑う。
しばらく小鳥で笑った後、
「はーっ!笑い疲れた!!そろそろ他のところも歩いてみよっか」
「えぇ」
この休日は、ダリアと学園内を散策して終わったのだった。
ちゅんちゅん