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22.見学 ( 2 )

 魔法騎士(ナイト)クラス、トップ二人の試合が始まった。


 二人は闘技場の縁をじりじりと円を描くように歩き、静かにお互いの様子を伺い合っている。どちらが先に切り込むか。初手の一撃は何か。どのような戦いになるのか。二人の静かな時間が、観客の胸を膨らませていく。


 そして遂にその時が来る。先に動きを見せたのはグリフォンに乗った会長の方だった。抱えていた剣を、真っ直ぐにブランシャール先輩へと突きつける。行くぞ、そう伝えるかのように。


 グリフォンと、ペガサスの足がふと止まる。次の瞬間、瞬きの合間に二人の距離はなくなり、闘技場の真ん中で二本の剣が大きな金属音をあげた。


 待ってましたと言わんばかりの歓声が場内に響き渡る。


 あまりの速さに、私の目では二人の動きを追うことができない。瞬間移動でもしたのではないか、そう思わせるのほどのスピード。一瞬の出来事だった。金属と金属がぶつかり合う鋭い音が、会場に響き渡る。


 訓練場での練習試合を見た時も思ったが、二人の剣さばきはとてもハイレベルだ。剣術を学んだことのない素人の私でも、それがすごいということは分かる。戦っている二人。激しい攻防戦。ぶつかり合う剣と剣。しかし不思議なことに二人の動きは、その猛々しさの中に美しさがある。綺麗な舞を見せられているような気分だ。力強く迷いのない、それでいて水が流れていくかのように滑らかな動き。


 二人の手元に視線がいく。先日は気づかなかったが、よく見ると二人は各々違う形の剣を使用していた。


 会長の剣はがっしりとした造りで長さも大きさもある。強そうに見えるが、同時に重そうにも見える。軽々とそれを操る会長は、どれほどの筋力なのだろう。振り下ろされる剣から風圧の音が聞こえるほどの威力だ。炎をまとわせた刀身は、赤色を越えもはや光って見えるほどの高熱を発している。生身の身体を少し掠めただけで、大火傷は免れないだろう。


 対して、ブランシャール先輩の剣は細身だ。すらっと長い形状をしている。おそらく会長のと比べると重さはなく軽いが、その分威力は劣るのではないだろうか。剣の周りがずっとキラキラと輝いているように見えていたが、おそらくあれは粒子のように細かい水滴だ。会場のライトアップを受けて反射している。会長が剣に炎をまとわせているのに対し、先輩は水をまとわせているのだ。その証拠に二人の剣が交わった瞬間、水が蒸発し、白いモヤのように見える。


 二人の戦いをじっくりと見ていると、戦い方の違いに気づく。パワー重視で一撃一撃に重みがある会長。その一撃を見事にいなしつつ、素早い動きで連撃を繰り出すブランシャール先輩。二人とも己の得意不得意を理解し、それを活かしながら戦っているのだ。


 軽やかで優雅な動きを見せるブランシャール先輩が、乗っているペガサスに合図し、天高く舞い上がった。それを見た、会長もグリフォンとともに空中戦へと応じる。先日の試合と全く同じ流れだ。もしかして……ブランシャール先輩はリベンジをしようとしている……?


 そんな勝手な妄想をしている私の頭上。遥か高く上。先に空へ舞い上がった先輩は、向かってくる会長目掛けてペガサスから飛び降りた。


 重力の加速だけとは思えない速さで、会長に向かい一直線に落ちていく先輩。空へ上がってきたばかりの会長は、一瞬驚いたように見えたが、すぐに一撃を受け止める構えをとった。


 カキーーーーーン


 今日一番の大きな金属音。先輩の全力を込めた一撃が会長を襲い、赤い炎と光輝く水しぶきがあがった。会長の体勢が少し崩れたように見える。しかし次の瞬間、会長は一撃を受けた剣を押し返し、先輩を弾き返す。


 先輩の身体が宙へと放り出され、地上へ真っ逆さまに落ちていく。


「キャーーーーーー」


 どこかで観客の悲鳴があがる。


 しかし、先輩は一切焦る様子を見せない。それもそのはず。いつの間にか下に回り込んだペガサスが先輩を見事に拾い上げた。


 私たちは本当に学生同士の戦いを見ているのだろうか。恐ろしいほどの迫力に、先ほどまでお祭り騒ぎをしていた観客たちも、今は固唾をのんで試合の成り行きを見守っている。


 先輩の先ほどの一撃は、少しは会長にダメージを与えたのではないだろうか。ペガサスと息ぴったりのコンビネーションを見せた先輩。次は会長の番だった。


 先ほどと逆の位置関係となった二人。上から見下ろす会長と、それを見上げる先輩。会長の乗ったグリフォンが、後ろ足を曲げ、力を貯めるような動きをする。まるで猫がジャンプする前の予備動作のような。しかしグリフォンがいるのは空なのだ。蹴り上げるための地面はないはず。


 会長の魔法か、グリフォンの能力なのか。次の瞬間、何もないはずの空を凄まじい脚力で蹴り上げたグリフォンが、真下にいる先輩目掛けて飛び出した。もともと威力のある会長の一撃が、この速さにのったら……!


 先輩の方へと視線を向ける。彼の優雅な動きはこんな時も変わらない。そして先輩の周りだけ世界が歪んだように見えた。姿がぼやけて見える。先輩が二人、三人……?いや、やはり一人……?


 そこへ突っ込んでいく会長、再び大きな金属音とともに、二人が剣を交えているのが見えた。


 どのくらい経ったのだろうか。二人の戦いは相当長い時間続いている。戦っている当人たちは疲れているはずだが、そんな様子は微塵も見せない。


「そろそろだな」


 近くに座っているバロリエ先生が呟く。


 ガッキーーーーーン


『そこまで!!!』


 突然訪れた試合の終わり。最後は何が起こったのか全く分からなかった。気づくと、会長の剣が先輩の喉元に据えられいた。


 試合終了の合図を聞き、二人は兜を取り握手を交わす。


 ワアアアアア!!


 観客席は大盛り上がりだ。


「やっぱすげえや!!!」


 クラーク君は立ち上がり、目を輝かせて、一人で盛り上がっている。


「セレーネすごかったね!!!」


 隣のダリアも興奮しているようだ。


「えぇ。すごいかっこよかったわ」

「セレーネは戦う男が好きか!?」


 大声でダリアとの会話に割り込んできたクラーク君。


「え?」

「やっぱり戦う男はかっこいいと思うか!?」


 試合で興奮しているせいか、すごい勢いだ……。


「あの、いや……まぁ、どちらかといえば、強いが魅力的だと思うわ」


 好きかと問われても、そもそも恋愛にあまり興味が無い。ただ強いて言えば、きっと強い方が男性としては魅力的なのだろう。わたしには正直あまりよく分からないが。


「そっか!分かった!俺鍛える!!」


 ランランと目を輝かせ、両拳を強く握っている。


「そこうるせーぞ!閉会式始まるから黙ってろ」


 バロリエ先生に注意されたクラーク君は、はっと周りを見回し、静かに着席した。


 試合の余韻でざわざわしていた周りも静まり、閉会式が始まった。見事な試合を見せた二人と、学園長が闘技場の中央に現れる。


『今年も素晴らしい試合を見せてくれてありがとう』


 そう言って、二人の顔を順に見る学園長。普通に話しているはずの声が、魔法で場内に響き渡る。


『副会長、ルイ・ブランシャール』


「はっ」


『会長、アルベール・サウスタニア』


「はっ」


 順に名前を呼ばれた二人は、学園長の前に跪く。


『ここに、本年度魔法騎士クラス会長、及び副会長を正式に任ずる』


 場内は拍手に包まれる。


『魔法騎士の今後が楽しみじゃ。任せたよ』


 にこっと笑いながらそう言う学園長に、二人は胸に手を当て深く頭を下げる。


 大きな拍手と歓声に見送られた二人が退場し、閉会式は終わった。


「来年、うちのクラスであそこに立っているやつはいるかな?楽しみだ!!よーし帰るぞー」


 笑いながらそう言った先生。出口へ向かっていくを先生を追って、私たちも会場を後にした。

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