19.魔道具作り ( 2 )
着々とバングル作りは進み、残るは最終工程の魔法石をはめる作業のみとなった。
「ここが今回の実習で一番重要な工程になるからな。全員手を止めて、よく聞くきけ。これから、バングルの中心にはめ込む魔法石に自分の魔力を込める。そうすると魔道具を発動させた時に、その魔法属性が発動するようになるわけだ」
私の場合は得意な風魔法を込めるから、魔道具も風属性になるのね。
「前回の授業でも話した通り、魔道具を作るというのは、魔力を道具に移動させるということだ。いつもの詠唱では魔法を『発動』させるが、今回は『移動』もしくは『移す』といったイメージになる。魔力を使う感覚が違うんだが……こればっかりは説明できん。やってみれば分かる」
説明が終わると先生は、一人ひとりに透明な石を配った。魔力がまだ何も込められていない、空っぽの魔法石だ。
「それじゃ、教えた詠唱で魔力を込めてみろ」
《道筋よ、開け》
詠唱を唱えた瞬間、握った魔法石に魔力が吸い取られていく感覚に陥った。それと同時に、時どきチクっと細い針で刺されたような痛みが走る。
「おーおー。お前ら険しい顔してるな。その小さい石に魔力を込めるんだ。少しでいい。手の中にある魔法石に集中しろ。魔力の流れる道を感じられるはずだ」
先生の言う通りに全神経を魔法石に集中させると、吸い込まれている魔力がぐにゃっとしたり、とげとげしたり、不思議な感じだ。
もっと集中するのよ。意識を魔法石だけに……。
瞳を閉じて頭の中を魔法石のイメージで満たした。
あ……!入り乱れるようにごちゃごちゃした流れの中に、ひとつだけ。真っ直ぐ伸ばした線のような、静謐な感覚を見つけられた。魔法石全体から、その感覚だけに意識を研ぎ澄ます。不思議と頭に管のようなイメージが浮かんできた。そこに流し込めるよう、放出する魔力を少量にコントロールする。
すると、魔力をいくら流し込んでも透明のままだった魔法石が、薄緑色に染まり始めた。
「できたわ!!」
「お!セレーネの綺麗な色だな」
横を向くと、クラーク君が嬉しそうに笑いかけていた。彼は既に終わっていたようで、赤い魔法石を手に持っていた。
「みんな良い感じだな。その感覚を忘れずに、最後はバングルと魔法石を一体化させるように魔力を流し込むんだ」
さっきの感覚を忘れずに。うん、もう一度。
今度はバングルの真ん中に、薄緑色に染まった魔法石を置いて握りしめる。
《道筋よ、開け》
また一気に色々な感覚が押し寄せる。これじゃない。これでもない。先ほど見つけたあの感覚を探し出して、今度はよりスムーズに魔力を流し込むことができた。
「できたわ……!」
繋ぎ合わさった魔法石とバングルが、しっかりと固定されているか確認する。
うん、大丈夫そうね。
「よーし!お前ら、よくやったな。初めてにしては上出来だ!記念の一作品目、大事に取っとけよ……って、あー。色々あるか」
先生の曖昧な発言に、みんな首をかしげている。
「うーん、まあ、とりあえず今日の実習は以上!あとは片付けだけして今日は終わりだ」
先生の指示で片付けが開始された。まずは自分たちの使った材料の余りから回収なのだが、その前にもう一度自分の作ったバングルをじっくりと見てみる。シルバーのバングルの真ん中には、大きな薄緑色の魔法石。その側面には小さな青い石が点々とちりばめられている。自画自賛をするつもりはないのだが、なかなか良くできている気がした。
「セレーネ、今日はありがとな!一緒に実習できて嬉しかった!」
既に片付けを始めいてるクラーク君が、いつものにっこにこの笑顔で言う。
「い、いえ!こちらこそありがとうございました」
「次は一緒に、俺らの結婚指輪作るか!!」
「作りません」
こんなやり取りも、嬉しそうに笑っているクラーク君。
彼を見習って、私も手近なものから片付けを始めた。
「にしてもさ、セレーネそろそろ敬語やめないか?いつも一緒にいるシャルゾンには普通に話してるし。俺もほら!その、同級生じゃん……?ダメか……?」
またいつも幻覚だ。捨てられた子犬のような顔でこちらを見つめられると、私は何も言い返せなくなる。
「……分かりま……。えっと、分かったわ」
「やった!!!」
捨てられた子犬はたちまち消え失せ、今度はガッツポーズをしながら飛び跳ねている。
「次はアレクって呼んでもらうぞーーー!」
「はい、そこうるさいぞー」
片付けといっても、まだ授業中な訳で。大声で叫んだりしたら、もちろん先生に注意を受ける。
クラスみんなの笑い声に教室は包まれたのだった。