18.魔道具作り ( 1 )
マグノリア学園に通い始めて約二週間が経過した。今日は魔道具作りの実習の日。
魔力の込められた道具のことを、魔道具という。武器はもちろん、時計や電気など身の回りには魔道具が溢れている。
この授業では魔道具の成り立ちや歴史を学んでいる。どのようにして魔道具ができ、どのようにして発展してきたのかを。そして前回の授業では、簡単な魔道具の作成方法を学んだので、今日はいよいよ実習なのだ。
「実習はペアで行ってもらう。そうだな……」
髭をいじりながら教室を見渡す先生。どのようにペアを作るのか考えているようだ。そして指示されたペア同士で集まると……
「セレーネ!!!ペアになれて嬉しい!!」
私のペアはクラーク君だった。
「……よろしくお願いします」
「うん!よろしく!!」
とても嬉しそうな彼は、満面の笑みでこちらを見ている。
そして、後ろから寒気というか悪寒を感じ振り向くと……そこには鬼のような形相でこちらを見ているレスタンクールさんが……。私はその視線に気づかなかったフリをして、先生の方へ向き直った。
「初めての実習だ。まずは簡単なバングルを作ってもらう。簡単といえど、分量を間違えると爆発しかねんからな。ペアでしっかりと確認しながら進めるように」
教卓の前には、大きな長机が置かれており、バングル制作のための材料が一通り並べられていた。真珠の粉や、シルバー、宝石など様々な材料が用意されており、どれでも好きに選んで良いとのこと。
前の方に座ったペアから、順々に教卓前へ行き、材料を選んでいく。私たちの番になると、待ちきれなかったとばかり駆け出したクラーク君。私も後を追って、長机の前に来た。
並べられた材料を右から左へ一通り眺めて、私はシルバーの土台に青い石を飾りとして選んだ。クラーク君は、ゴールドの土台に赤い石を手にしていた。
私の選んだ材料を見た彼は
「まるでセレーネの色だな!シルバーの髪に、青色の眼!」
そう言って、にかっと笑った。
「クラーク君も同じじゃないですか」
きょとんとした顔をして自分の手元に視線をやると、本当だ、と言ってまた笑い出した。お互い無意識に、自分の髪・瞳の色を選んでいたようだ。
各ペアが材料選びを終え、先生が最後に手順を説明する。
「では、早速やってみよう」
先生の一言で、バングル作りがスタートした。
「セレーネ、確認お願い」
まずはクラーク君からバングル作りを開始した。彼に呼ばれて、材料の重さ、量を確認する。
「問題ないです」
「ありがと」
笑顔のない真剣な表情のクラーク君は新鮮だ。
量を確認し終え、今度はその材料を鍋に入れていく。強い火にかけながら、溶かし混ぜ合わせていく。火のあまりの熱さに、こちらまだ熱が伝わってくる。
クラーク君を見ると、額にすごい汗をかいていた。しかし、今は混ぜる手を止めることはできない。額から首筋へと流れていく汗。今度は一筋の汗が顔の方に流れ、眼に入りかけた。思わず、持っていた自分のハンカチでそれを拭ってあげる。
「!!!!!あつっ!!!やべ!!!」
私の急な行動に驚いた彼は手を止めてしまい、鍋の中身が溢れかけたが、何とか持ち直すことができた。危なかった……。
「セレーネ、それは、えっ、俺脈ありってこと?」
目線は鍋に向けたまま、手を止めることもできず、激しく混乱している彼。
「何の脈ですか……?」
急に何を言いだしたのかと思えば、脈……?何の話かさっぱりだわ。
「あ……うん……気にしないで。こっちの話……」
今度は急にがっかりした様子。潤んだ瞳から今にも零れそうな涙が見えるのはきっといつもの幻覚だろう。いったいどうしたというのか。
そんなこんなしつつ、クラーク君の分は一通りの工程を終え、あとは冷やして固まるのを待つだけだ。
「よし!次はセレーネだな!」
私も先ほどの彼と同じ手順で、材料のチェックから着手し、鍋に入れ、溶かしながら混ぜ合わせる。
「ちぇー。セレーネは全然汗かかないのな」
「昔からあまり汗をかかないんです。代謝が悪いのかと」
それを聞くと、ころころと笑い出したクラーク君。
私何か面白いこと言ったかしら。