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16.魔法学

「皆さん、はじめまして。魔法学を担当しているシモン・ゴルティエです」


 黒髪をきっちりと七三分けにし、分厚い眼鏡を光らせた、いかにも教師という見た目の先生が教壇に立った。対比的に脳内に浮かんだ先生がいたのは、言うまでもないだろう。


「それでは早速はじめます」


 先生がテキパキと授業を進めていく。


「皆さん、『魔力』とは何だと思いますか?」


 黒板に『魔力』と書いて、こちらを振り向く。


「魔力とはその名の通り、『魔』法を使うための『力』です」


 そう言いながら、先生は黒板の『魔』と『力』を丸く囲んだ。


「厳密に言うと魔法の発動は大きく三つの段階に分けられます」


 先生は黒板に、この三段階を記しはじめた。文字を書く音だけが、静かな教室に響き渡る。


 一、魔力が体内を循環

 二、詠唱・魔法陣を通し魔力を体外に放出

 三、魔法が発動


「そもそも、私たちの体内はいつも魔力が循環しています。血液が身体を巡っているのを想像すると分かりやすいでしょう。一段階目はこの状態です。準備の段階であり、特別何かをする訳ではないですが、この準備がしっかり整わないと次の段階には進めません。例えば、魔法を使いすぎて体内の魔力が不足すると、詠唱をしても、魔法陣を使っても、魔法は出ませんよね」


「体内で循環している魔力を、そのまま体外へ放出することもできますが、それではただの魔力のままです。オーラみたいなものと思って下さい。では、どうやって魔法を発動させるのか。そこで二段階目、詠唱・魔法陣が出てきます」


 先生は黒板に書いた、二段階目の部分に下線を引く。


「詠唱や魔法陣は、私たちの魔力を正しい放出方法に導いてくれる補助ツールです。詠唱はその音、言葉に。魔法陣は線、点に、発動させたい魔法の意味を込めるわけですね」


 黒板の内容を板書したノートに、先生の言葉を書き込んでいく。


「ちなみに、言葉も魔法陣も、言うだけ・描くだけでは正しく魔法が発動しません。魔力の込め方、発音、書き順等決まりがあります。それを、この授業で皆さんに学んでもらいます」


 新しいことを学んでいくと聞くと、心が躍った。


「ただ、皆さん全員が同じ方法で、同じように魔法を発動できるとは限りません。魔力の量はもちろん、性質も人によって異なります。その性質に応じて、得意な魔法、苦手な魔法が出てくるでしょう。この三年間、自分の魔力と向き合い、得意魔法を伸ばすのか、苦手魔法を克服するのか。一緒に考え、学んでいきましょう」


 ずっと真面目な顔で話続けていた先生が、クラスに向かって優しく微笑む。


「ちなみに、魔力の扱いに慣れてくると、詠唱等無くても魔法を発動できるようになります。例えば……」


 先生が両手を軽く叩き合わせ、パンッと乾いた音が響く。その瞬間、そよ風が教室の前から後ろへふわっと流れていった。


「このように、音に意味を乗せたり」


 今度は、教卓の上に置いてあった白紙の紙を一枚、持って見せる。


「《切り裂け》」


 紙はちょうど真ん中あたりで、真っ二つに切られ、下半分がひらひらと地面に落ちていった。


「このように本来の詠唱とは違う短い言葉だけでも、魔法を発動させることができます」


 先生は落ちた紙切れを拾い上げ、手に残った片割れとまとめて教卓の上に置いた。


「これより上のレベルになると、短い言葉も、音も無しに、魔法を発動させることができる人もいます。ただ、それは世の中の本当に一握り、大賢者の方々ぐらいでしょう」


 学園長が医務室に来た時のことを思い出す。ベッドから起き上がった私を、何の詠唱も無しに浮かせ、ベッドに寝かせた。いつの間に魔法をかけたのかと思ったが、こういうことだったのか。


「簡単な魔法であれば、二年生になってから使える人が出てくるかもしれないですね」


 今まで流暢に話していた先生が、一度間を置く。


「本学に合格した皆さんであれば、今までの話は既に承知の上だったかと思います。この授業では、まず基礎を学んでもらう予定ですので、つまらないと感じる人も出てくるかもしれないですね。それは仕方のないことだと思います。なので、授業中に寝ていても、注意はしません。ただ、覚えておいて欲しいのは、全ての魔法は基礎ができているから発動できるものだということです。これは難しいものになればなるほど、そうと言えるでしょう。基礎を理解し実践できる人こそ、強い魔法使いになるのだと、私は思っています」


 先生の力強い眼差しに、クラスには緊張感が走った。


「初回の授業ということもあり、今日は長々とお話してしまいすみませんでした。最後に皆さんで一緒に簡単な魔力検査を行いましょう」


 先生は魔法陣の書かれた紙を配りだした。


「これで分かるのは皆さんの得意な魔法属性です。例えば、水魔法が得意であれば水の珠が。炎魔法が得意であれば、炎の珠が出てきます。得意な属性はその人の成長や、感性の変化によって変わっていくものです。ですので、今日の検査はあくまで現時点での得意が分かる、と思って下さい。もちろん、既に自分のことを把握している人もいると思いますが、改めて確認してみましょう」


「詠唱は『我が力を捧げる。その姿を現し給え』です。では、やってみて下さい」


 クラスメイトたちが各々に詠唱を始め、ずっと静かだった教室が声で埋め尽くされた。


 よし、私もやってみよう。


『我が力を捧げる。その姿を現し給え』


 魔法陣が光だし、その光の中から私の手元に現れたのは風の珠だった。何となく風魔法が得意だと感じていたので、やはりといった感じだ。


「わあ!雷?」


 どこからか、驚いたような声が聞こえた。


「意外な結果でしたか?」


 教室を歩きながら様子を見ていた先生が、声をあげた学生に話しかける。


「先生!あ、はい。雷魔法を使ったことがなくて……」

「皆さん、基本の四属性から学びますからね。これから雷魔法も学んでいきましょう」

「はい!!」


 周りを見ていると、予想通りという顔をしている子もいれば、驚いた表情を見せている子もいる。


 あ、レスタンクールさんは蔦が出ているわ。植物系の魔法を使っていたものね。


 右斜め前に座っている彼女の珠が見え、霧の森での彼女の魔法を思い出した。そのもう二列前に座っているクラーク君は、出てきた珠を教室の電球で透かして眺めている。


 クラーク君は……イメージ通りの炎魔法の珠を持っていた。


 魔法を使っているところを見たことはないけれど、想像通りすぎて少し面白い。


 右隣のダリアを見ると、彼女の手元には水の珠が置かれていた。


「ダリアは水の珠が出たのね」

「えぇ、そうみたい」


 自分の発動させた魔法を、どこか不思議そうにじっと見つめているダリア。その様子に、なぜか私は違和感を覚えた。


「ダリア?」


 心ここにあらずな彼女に、もう一度声をかけてみる。


「あ、あー!ごめんね!私平民出身だからさ……その、実はちゃんと魔法を試したことがなくて!国が私たちみたいな平民のために、無償で魔法について教えてくれる場所はあったから、受験勉強はできたんだけど。実践は全然やってなかったの!霧の森でもほとんど魔法使えなくて、最下位だったしねー!だから、私水魔法が得意なんだって思って、ちょっとびっくりしちゃった!」


 そう言って、また自分の出した水の珠に視線を移したダリア。


「さて、もう時間ですね!本日の授業はこれで終わります」


 マグノリア学園での初めての授業が終わった。

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