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14.早い再会

 このまま部屋に戻る気にはなれず、行く宛もなく学園内を散歩する。疲れているはずなのに、止まることなく歩き続ける。


 授業が終わったばかりの学園内は、学生で溢れていた。笑いながら友人たちと庭に走っていく人。疲れた顔で寮に戻っていく人。教材を片手に図書館へ向かっていく人。どこか目的地に向かって行く学生たちを見ると、行く先もなく彷徨っている自分はほんの少し世界から孤立しているように感じた。


 どれくらい経っただろうか。広い学園内を適当に歩き続けていると、何だか賑やかな声が聞こえてきた。何をやっているのだろう。気になった私はその音の方へ導かれるように歩を進めた。


 音の方へ近づくと、歓声のような声に混じって金属がぶつかり合う音がする。音の出どころまで辿りつくと、そこは訓練場のような場所だった。中にいる学生たちは、皆軽い装備をしている。観衆の視線の先は、訓練場の真ん中で行われている一対一の対戦のようだった。


 羽の生えた獣……聖獣に乗り、剣を片手に激しい攻防を見せている二人。他の学生たちと違い、しっかり全身に装備品を身に着け、顔まで覆われている。


 グリフォンとペガサスの闘い……。


 凄まじい。あまりに凄まじい闘い。グリフォンとペガサス。どちらも、戦闘力、移動能力、身体能力、どれをとっても一級品の種だ。しかし、その能力の高さから、聖獣自身のプライドも非常に高く、あのように騎乗し思いのままに動かすことはとても難しい。それを二頭同時に見ることができるなんて。


 聖獣たちもさることながら、乗っている二人の剣さばきも熾烈を極めていた。学生同士の訓練とは到底思えない。すごい……。


 闘いを見始めた時は、地上で二人は剣を交えていた。だが、ひとりが空へ舞い上がると、もうひとりも後を追う。今は私たちの遥か上空で激しい攻防が繰り広げられている。


 地上に比べ、空中という足場のない不安定なところで戦っているとは思えない安定感。主人と聖獣。一人と一頭が、まるでひとつの生き物であるかのように息ぴったりに動いている。


 もう聖獣を見れば良いのか、剣さばきを見れば良いのか、それとも阿吽の呼吸を見れば良いのか。瞬きする間もなく、その光景に目を奪われていた。


 理由は分からない。この闘いが終わりに近づいているとそう感じた。ごくりと息を飲む。


 次の瞬間。


 ガッキーーーーーン


 一際大きな金属音をたて、ペガサスに乗っていた学生の剣が宙を舞い、地面に突き刺さった。


「勝負あり!!」


 その声を合図に、大きな歓声が巻き起こり、訓練場全体が揺れるように盛り上がった。


「さすが、新しい会長と副会長だぜ!」

「あの二人、魔法騎士クラスでも歴代最高レベルって言われてるからな」

「学生とは思えないよな」


 周りの学生たちから、二人への称賛の声が聞こえてくる。先ほどの勝負を見れば、彼らが褒め称えられるのも納得だった。


 決着まで見れたことだし、そろそろ部屋に戻ろうかしら。来た道に視線を戻そうとした時、ペガサスの学生がちょうど兜を取ろうとするのが視界の端に映った。


「わー!!やっぱり会長は強いなー!」


 不意に目に入ったその顔を二度見する。


 兜の下に現れた、透明感のあるグレーの髪。頭を左右に振り、乱れた髪を整えている。間違いない。あれは、今朝会ったルイ・ブランシャール先輩だ。


 風に吹かれてふんわりを微笑んだ、今朝の姿を思い出す。あんなに柔らかい雰囲気の人が、今の激しい闘いをしていたのか。何というギャップだろう……。


 気になってもう少し様子を見ていると、ブランシャール先輩は対戦相手の学生に話しかけ、身振り手振りをしながら会話をしている。距離があって会話の内容までは聞き取れないが、訓練のアドバイスをもらっているようだ。


 先ほどまで盛り上がっていた周りの学生たちも、今は真剣な表情でそのアドバイスを一緒に聞いている。言われたアドバイスを実践しようとしているのか、素振りの練習のようなことをしている学生もいた。


『あなた舐めてますの!何のためにこの学園に……!』


 ふと、レスタンクールさんの声が蘇る。


 私は舐めているつもりは一切ない。お母様の言いつけで学園を目指すようになったが、今、嫌嫌この学園にいる訳でもない。ただ、何のためにって言われたら……。


 もう一度、集まっている学生たちを見る。目を輝かせ、真剣で、無我夢中。訓練への情熱が見えるようだった。


 私はあれほど何かに夢中になったことはあるだろうか。


 答えは出ないまま、私は部屋へと歩き出した。


―――――

―――


「あれ?」


 訓練場を出ていく、女子学生の姿がたまたま目に止まった。どこかで見たことがあるような……。


「あ!!」

「どうした?」

「いえ。今朝、偶然会った子がいたので」

「そうか」

「会長、いつまでその格好でいるんですか」


 そう言われて、被ったままだった兜を取るグリフォンに乗っていた学生。相当暑かったのか、汗の滴る深紅の髪をかきあげた。

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