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「さて昨夜の事件についてお話ししましょうか」

 パラサイトはついに昨夜の事件について語ると思ったら、口から銀色の液体を私に向けて吐き出した。

 ぎゃあああ! と心で叫びながら立ち上がって避ける。すると私が座っていた背後に銀色の液体が落ちて人型の姿になった。

 パラサイトは「ここでララ嬢に扮していたあなたは倒れていました」と言った。どうやら銀色の液体で現場検証をするつもりだ。こいつらを便利と思っているこの国の奴らの神経を疑う。


 嫌々だが私は自分が倒れた場所を確認する。

「倒れたララ嬢をお茶会メンバー達はそのままにして、自分たちの部屋に帰って行きました。その後、この庭園の雑草除去用として飼っている設定のヤギがやって来てうるさく鳴いていたいたそうです」

「鳴き声を出して、助けを呼んだんですね。そう訓練していますので」

「ヤギの声に不審に思った用務員やケイ先生がやってきて、ララ嬢を発見して医務室に連れて行きました。おっと、あなたを発見した用務員とケイ先生はあなたのお仲間の異端審問官でしたね」


 そう、用務員のトム、新任教員のケイも私と同僚の異端審問であり、学園にいる悪魔を探していたのだ。


 パラサイトはほほ笑みを崩さずに話を続ける。

「彼らから学園に入学している聖十二神信者の特待生を守り悪魔を探すため潜入捜査をしていると聞きました」

「ええ、そうです」

「本当にご苦労な事で」

 労っているわけではないな。むしろ嫌味っぽく言っている。

「そしてあなたを仲間が治療した後、異端審問の長官がやってきて我々にある提案をして着ました」

「ある提案?」

「はい。あなたを倒した悪魔を異端審問自ら探し出したいと言う事です」

 パラサイトは立ち上がりながら、私が倒れた場所まで歩きながら語る。

「倒れたララ嬢であるあなたは聖十二神の信者である。そして我々、パラサイトの恩恵を受けていない。だから教会側で調べると言われましてね」

 私は「ああ、そうなんですか」と言うが、すでにそういう風になる事は分かっていた。


 作戦中に恐らく悪魔の方が不審に思って攻撃を仕掛けるはず。


 私はわざと悪魔の嫌がる事をして攻撃されたらワザと受ける。そしてこの国の神様ことパラサイトに異端審問自ら解決する提案をする。そう言う作戦なのだ。

「でも我々もこの国で悪魔がいるのに呑気に大量の人を集めて、調べるとは嫌なんです。でもあなたの長官がかなりごねて」

 言い方が荒いな、よっぽど無理やりに理屈をこねまくったのだろう。パラサイトは笑みを崩さずに語った。

「だから被害者であるララ嬢に扮したあなたに、あの令嬢たちの中にいる悪魔を見つける役目を与えます。そして制限時間は太陽が一番高い所に昇るまで、です」

「責任重大ですね」

「それと上官が言っていましたが、ララ嬢は死亡しておいたから大丈夫と言っていました。悪魔の攻撃を受ければ、普通の少女は死ぬらしいので」

 確かにそうだ。私が肉体強化の魔法をかけていなかったら、普通に死んでいただろう。

 

 ぼんやりと私が倒れている場所を見ていると、パラサイトは淡々と話し出した。

「もし時間以内に見つけられなかったり、間違った人を悪魔と見なした場合はあなたを含めて学園ごと吹き飛ばします」

「嘘でしょ」

「安心してください。悪魔が憑いていない聖十二神の信者である特待生を含めた学生達と教員達は避難しています。今学園にいるのはお茶会クラブの令嬢とあなた達だけです」

「何をもって安心してください、ですか」


 パラサイトは悪魔を嫌い、徹底的に排除してきた歴史がある。排除の仕方は異端審問のように悪魔を見つけてからではない。悪魔と疑われた人間すべてを消す。悪魔が首都にいると知ったパラサイトは早急に首都を更地にしたという伝説さえ残っている。

 そう昔から伝わる不条理で理不尽な童話は真実なのだ。

 それくらいパラサイトは悪魔を嫌っているのだ。……私から見たら同族嫌悪にしか見えないけど。


 肩を落としてため息つきながら思う。私も一刻も早く避難したいよ。そしてこの静けさ、小動物や昆虫さえも避難しているのかも。

「と言うか、私は悪魔に憑かれていないでしょう」

「はい。そうですが聖十二神は我々に悪魔がいると言う報告を怠り、更にこちらで解決すると随分と自分勝手な事を言ってきました。もしこれで悪魔が見つければ我々は文句を言いません。しかし見つからない場合は、やはり教会側にも処罰が必要ではないかと思います」

 ものすごく命がけじゃないか。最悪な状況である。だが邪教とは言わないまでも、パラサイトが支配する国で我々の意見が通ったのだ。このチャンスを逃してはいけない。

 そばに寄ってきたヤギのカルマを撫でて私は口を開いた。

「分かりました。長官の命令では、逆らえませんからね」

 パラサイトの不敵な笑みを見ながら、私は「でもその前に」と言った。

「用意したい物や調べたいことがありますので、悪魔探しはそれが終わってからでよろしいでしょうか?」

「まあ、良いでしょう。それから我々にも条件があります」

「何ですか?」


「我々も同席して、ある態度を彼女たちが示した場合、……皆殺しします」




 お茶会クラブの令嬢達の中にいる悪魔を見つけ出すための準備も完了して、私は異端審問が被っているヤギの仮面をつけて、令嬢達を待っていた。

 あの中庭のバラ園のテーブルの席に座っているとカルマがヒョイッと私の太ももに顎を乗せてきた。

「ねえ、カルマ。こういうのをジンロウゲームって言うのかしらね」

 そう言いながらカルマを撫でるが返事はない。

 【ジンロウゲーム】とは異世界のゲームだ。異端審問は異世界から来た者達とよく関わるため、そう言った知識を多く得られるのだ。確か、文字にすれば【人狼ゲーム】と書く。


 ジンロウゲームは数人の仲間の中で人間に変身して仲間を殺す狼を会話と推理で探し出すゲーム。細々としたルールやいろんな役職があるらしいけど、このゲームは狼と思ったら仲間の選挙によって処刑される。もし違っていたら再び狼は一人仲間を殺して、再び誰が狼なのか話し合うという絶対に喧嘩が起きそうなゲームである。

 だがこれからやる話し合いは一回のみで悪魔を見つけだし、太陽が一番高い位置に来たら問答無用で私も殺される。ジンロウゲームと全然違うだろうけど、多分このゲームさながらギスギスした雰囲気で行うだろうなと思った。


「お待たせしました」


 そう言ったパラサイトに案内された令嬢たちは、いたって普通の顔をしていた。

 きっと絶望に打ちひしがれていると思っていたけど、見くびっていたようだ。彼女たちは自分の運命を受けて入れて堂々としているのだろうか? それとも肝が据わっているのか……。

 

 彼女達と真夜中のお茶会をやり、さっきまでパラサイトと朝食を食べた庭園にあるテーブルに彼女たちを座らせた。


 貿易商のルーベット子爵の娘 フラン嬢

 英雄カフカフィル伯爵の子孫 エグニ嬢

 ウィザード魔法騎士団の団長ラフォーレ公爵の孫 ニア嬢

 魔法具制作工房を持つエル子爵の娘 アイル嬢

 王位継承第二位のクリストファー王子の娘 ミーシャ嬢


「お集まりいただきありがとうございます。パラサイトからお話がありましたが、お茶会クラブの皆様に悪魔付きの疑いがあります。これより皆様の取り調べを行いたいと思います」

 私の言葉に五人は鼻で笑った。

 上品にクスクスと笑う彼女に「何か面白い事でも?」と私は尋ねると代表してミーシャが優雅に答えた。

「いえ、異端審問官さん。悪魔はすでに分かっております」

「ほう? 誰ですか?」


「亡くなったララ嬢ですよ」





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