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 この国の権力者たちの子供のお茶会に誘われた。それだけでも緊張するが、ひとまず紅茶を飲んだ。

「ん! この紅茶、美味しいです」

「そう? 普段飲んでいるから飽きちゃったわ。もうすぐ新作紅茶葉が手に入るから、楽しみにしてね」

「相変わらず、フラン嬢は流行に詳しいな」

「そんな事はありませんって、エグニ嬢」

 優雅にほほ笑むお嬢様達にちょっと唖然としつつも、マドレーヌを食べる。柔らかい食感と焼いた砂糖の甘さが口に広がった。

「美味しい!」

「どうかしら、ララ嬢? この街の老舗のお菓子店から買ってきたの。あなたのお口にあうかしら?」

「はい! ニア様、とっても美味しいです」

「良かった。不幸な孤児でもお口にあって」

 いや、本当に美味しいな、マドレーヌ。嫌味なんて気にならないくらいに。

 

 満月だから魔法灯が無くても十分明るい。夜のバラ園は何となくロマンティックな感じだ。そう思っているとふっと暗くなった。雲が無いはずなのにと思っていると、銀色の球体がこちらを眺めている。クルクルと見まわして、どこかに行ってしまった。


「気になるの? パラサイトの事」

 

 私が銀色の球体に気を取られているのに気が付いて、ミーシャは話しかけた。私は素直に「はい」と答えた。

「私が住んでいた近くにはこういう球体は見たことないから」

「確かにあの球体は王都とこの港街をずっと見ているからね」

「パラサイト。この王国を便利に豊かにする道具よ」

 私は不思議そうに「道具?」と呟いた。

「そう、道具。それをうまく使っているのが我々王族と貴族たちなのよ」

 誇らしく言うミーシャの話しに他のお茶会クラブの子達は同意するようにほほ笑む。それに私は胸騒ぎが起こった。

 そんなのに気にしないでミーシャは「紅茶は美味しい?」と私に聞いてきた。

「はい! 美味しいです。私みたいな人間を、こんな素敵なお茶会に参加できるなんて。ずっと孤児院に居たから、こんな華やかな世界を知ってとっても嬉しいです」

「私達も君とお話ししたかったんだよ、ララ嬢」

 ミーシャは優雅にほほ笑んだ。


 エグニが不思議そうに私の手元を見て、口を開く。

「そう言えば、君が付けているブレスレットって」

「これですか? 友達が作ってくれたんです。ある病院で私、奉仕活動していた時に仲良くなった患者さんの女の子にもらったんです」

「へえ、可愛いね。それ」

「刺繍糸を組み合わせて編むアクセサリーですね。色合いとかすごくかわいいんです」

 エグニは「そうだね」と言ってほほ笑む。だが目が笑っていない。

 私が「あ、そうだ」と言って話しだした。

「ニア様のお兄様とミーシャ様の結婚をするんですってね。おめでとうございます」

「ええ、まあ。政略結婚ですけどもね。私が卒業した後、すぐに」

 ミーシャ嬢は憂いを帯びた目でティーカップを見る。特に嬉しそうなわけではない。まあ、政略結婚と言っている以上、義務くらいにしか思っていないだろう。


 ちょっと出しゃばりすぎているかな? と思っているとニアが「お兄様の事はどうでもいいわ」と言って話し出した。

「ねえ、ララ嬢の小説のアイデアって何処から来たの?」

 愛らしい笑みを浮かべながらニアが身を乗り出すように聞いてきた。

 私は文芸部に所属していて、この学校では小説や詩などを集めた冊子を年に二回作っている。入学して初めて作った小説だけどこれが学園で人気になったのだ。

「田舎の避暑地で体の弱い貴族の女性が謎の男性と恋に落ちるってお話し。夜に湖に沈んでいるお城が光る魚が照られて見えるから、主人公と謎の男性が船漕いで見に行くところ、素敵だったわ」

「恋愛小説と思っているけど、謎の男性の正体も意外だったわ。ミステリー要素もあって面白かった」

 アイルは付け足すようにそう言う。そしてニアが前のめりで「何処でそんなアイデアが浮かんだの?」と聞いてきた。

「孤児院にいた時によく図書室で本を読んでいたので」

「それだけで、あんなアイデアが浮かぶわけないじゃん」

「あと友達や孤児院の先生によく恋愛の話しを聞いていたりしていたので、そこから着目して書きましたね」

 私がそう言うとみんな曖昧にほほ笑んで、この話題を終わりにした。


 ほんの少し沈黙が続いたが、ニアが「そう言えば」と話し出した。結構、お喋りな子のように見える。

「学園の魔法大会の優勝者ってララ嬢でしたよね。しかも全科目制覇をしていて。前回の優勝者のミーシャ様よりも高い点数でしたわ」

「ララ嬢って魔力が多いし、コントロールが安定して羨ましいですわ」

「それに学力も優秀なんですよね。テストの成績が一学年で一位ですからね」

「入学してから今日まで君は話題をかっさらっているね」

「まだ夏休みにも入っていないのに」

 みんなの言葉にちょっと棘があったが「ありがとうございます」とお礼を言った。

 確かにすべて私がやった事だ。小説も魔法大会で優勝した事とテストでいい点とった事も。それが何か悪い事なんて無いのだ。悪意が無い人間にとっては。


 和やかな雰囲気のお茶会の中で、ミーシャが重々しく口を開いた。


「そう言えば、ララ嬢。この学園に告発状が届いたそうだよ」


 首を傾げて私は「告発状?」と聞くと、エグニが少女に語りかけるようなカッコいい口調で話し出す。

「そう、悪魔憑きがこの学園内にいるそうだ。説明できるかな、ララ嬢? 悪魔憑きの」

 全員が面白そうに言って聞いて、私は戸惑いながら説明する。


「突然、悪魔の記憶が思い出されたり、または悪魔に意識を乗っ取られてしまう現象ですよね。生死の境をさまよった時に起こる場合が多いらしいですが、ふとした瞬間でも起こる事もあるようです」


 クスクスと笑みを浮かべながら「さすが、才女」とフランが褒める。だが決して純粋に褒めているわけではない事を私は分かっていた。

 自分を奮い立たせて、不安を打ち消すように私は言う。


「でも悪魔憑きがこの学園内にいたとしても、聖十二神の教会の異端審問がきっと払ってくれます!」


「何? その聖十二神の教会って?」

「田舎臭い宗教よ。山岳地帯の小国が」

「ああ、田舎臭い宗教」

 私の言葉にお茶会のクラブメンバーはクスクスと笑う。


 周辺諸国に広く信仰される【聖十二神】ではあるが、一部の国々では批判されてたり、最悪邪教と言われている事もある。それは海沿いの国々が多い傾向だ。

 ここ海沿いの大国でも【聖十二神】は邪教とまでは言われないが、山岳地帯の田舎の宗教と思われて信仰度は低い。

 さて【聖十二神】の組織の一つに異端審問がある。彼らは異世界から来た悪魔を取り締まるのだ。


「それで聖十二神の異端審問が助けてくれるの? 悪魔憑きを」

「はい!」

 信じている私は曇りなき眼で返事をする私に、お茶会のメンバーはクスクスと笑う。そこでようやく私は笑われるために、このお茶会に呼ばれたんだと分かった。

 話しを変えようと思い、「なんで悪魔付きの話しを……」と聞いた。


「誰かさんに疑いがかかっているのよ」

「誰かさんって?」


「あなたによ、ララ嬢」


 嘲笑う彼女たちを私は呆然と見ていた。




「だってそうでしょう? 孤児院生まれの子が学園始まって以来の好成績を収めるわけがないでしょう?」

「それに魔法大会で全科目優勝するなんて」

「成績がいいのは、まあいいよ。それで特待生に入っているんだから。だが君が書いた小説はいただけない。田舎の孤児院の小娘が、こんなロマンティックな小説を書けるわけがない」

「あと君がしている腕輪、この世界の物ではないでしょ」

 口々にお茶会のクラブメンバーに言われて私は戸惑いつつも「私は悪魔憑いていないです」と言った。

「で、証明出来るの? 自分はララである証拠は?」

「私の出生届があります! それから学校の修了書とか……」

「そう言う問題じゃ無いんだよ。だって悪魔憑きになった人が、自分は悪魔が憑いているって言いふらさないでしょう? だったらこの世界に溶け込もうとするわ」

「で、でも本当に悪魔憑きじゃないです……」

 私は不安げにそう言う。だがクラブメンバーはどうだかと言わんばかりの目を向けながら冷ややかな笑みを浮かべる。


 どういえば彼女らを納得すればいいか私は悩んでいると、ずっとほほ笑んで見ていたリーダーのミーシャが口を開いた。

「皆さん、ララ嬢が困っていますよ」

 落ち着いた声でそう言い、私はちょっとホッとした表情になった。

 次の言葉を言うまでは。


「さあ、ララ嬢。悪魔が憑いていないと言うなら、今までやってきたことは不正だったと言いなさい」


 ミーシャの言葉に私は意味が分からなかった。「どういうことですか?」と聞く前に、出来の悪い子を言い聞かすようにミーシャは言った。

「つまりあなたが納めてきた成績も魔法の実技も書いた小説もすべて不正だったと、ここで宣言しなさい」

「そんな!」

 ミーシャの言葉に私はショックを受け、椅子から立ち上がる。それと同時にクラブメンバーもニヤニヤ笑いながら立ち上がった。


「さあ! 言いなさい!」

「全部、不正だって! テストはカンニングで小説は盗作だって!」

「みんな、お見通しなのよ!」

「孤児のあなたがそんな能力を持っているはずないでしょ!」

「早く言いなさいよ!」

 クラブメンバー達に責められて、私は後ずさりをする。まるで弱っている生き物をいたぶる強者のように見えた。

 だが私は意を決して、口を開いた。


「私は不正なんてしてません! テストも魔法の実技も不正じゃないですし、小説だって私が一から書きました!」


 私の言葉にみんなは黙る。


「そして、悪魔もついていません! 【聖十二神】に誓って私は……うひゃ!」


 私の宣言にフランは何も言わず、私にティーポットの紅茶を顔に勢いよくかけた。びしょびしょになった私は思わず尻もちをついた。目に入ったのは目をつぶって、「熱い」とうわ言のように呟く。

 そんな私を見下ろしながらメンバーはクスクスと笑って囲み、ミーシャは言う。

「さあ、悪魔祓いをしましょう」

 そう言った瞬間、クラブメンバーは杖を出した。目を開けたララは自分に杖を向けてきた。

「ちょっと待ってください! 人に杖を向けるなんて!」

「知らないの? この国では悪魔の疑いがある者はすべて処刑されるの」

「……そんな」

「ほら、言いなさい。悪魔が憑いていなければ……」

「私は! 不正もしていないし、悪魔もついていない!」

 だがそんな私の姿を一蹴するようにミーシャは「そうですか」と言い、それを合図にクラブメンバーは魔法の呪文をかける。


 その時、ザワッとした殺気を感じた。まずい! と思って瞬時に私も自分に魔法をかけた。

 そして五本の杖から魔法をかけられて、私はバチッと大きく痙攣して倒れた。


 あおむけで倒れた私は意識が遠のく中、夜空を見ていた。ご令嬢はすでにおかえりになられた。本当に最悪であり、作戦通りとも言える。

 星がきれいだなと思っていると異様に大きな銀色の星が現れた。


 パラサイトだ。

 

 「助けろよ」と言おうかと思ったが、それ以上に意識が持たない。

 目を閉じようとした時、ヤギの鳴き声が聞こえてきた。





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