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エピローグ

 パラサイト、いや悪魔のパラノイアを消した後、床に倒れているミーシャとニアとエグニを各部屋のベッドで寝かせた。この子達も悪魔に憑かれていたけど期間は短いはずだから、今後の生活に影響はないだろう。

 それからすぐに部屋の掃除をしていると、誰かが入ってきた。


「お疲れ様、ララ」


 ララ嬢に扮している時に、寮で同室だった真っ黒な瞳と髪のルルだ。彼女は私に大人っぽい笑みを浮かべている。

 私は特段、驚かず「お疲れ様です」と返した。カルマは「初めまして、カルマです」と言った。ルルは完璧な令嬢の挨拶をしてほほ笑んだ。

「私もお手伝いしますね」

 そう言った瞬間、ルルの口から銀色の液体が出てきて、テーブルに落ちた紅茶をふき取り、欠けたカップやお皿を綺麗に直して、テーブルに置いた。

「うん、こんなものでしょう」

 そう言ってルルは銀色の液体を元に戻した。やっぱりパラサイトって好きじゃ無いな。カルマの方を見ると、「可愛い顔をしているのに……」と言って残念そうな顔をしていた。


 別のパラサイトが手引きして、聖十二神の異端審問が潜入させてもらっているのだから監視役はつくだろう。つまりルームメイトであるルルが私の監視役だったのだ。

 



 すべてが終わって、私達はカルマのお気に入りの芝生で学園を見下ろしていた。

「今回の件、ありがとうございました」

 そう言ってルル、の姿をしたパラサイトがペコッとお辞儀をした。

 ルルは私、ララが入学してからずっと監視していた他国のパラサイトなのだ。

「この国はパラサイトに依存していたし、彼もそれに応えようとしていました。しかし自分の思い通りにならなかった。だから彼は人間の体内に入り込みたいって思い、パラノイアになってしまったようです」

「今後、この国はどうなるんですか?」

「ああ、別のパラサイトがやってきます」

 そういうとシュルルルっと銀色の球体がやってきて、挨拶するように私達の周りを回ってどこかに行ってしまった。

 代わりはいくらでもいるんだよ、と言わんばかりだ。

「ひとまず、彼を帰してくれてありがとうございました」

 ルルは胸に手を当てて言う。元の世界に帰る。つまり、再びパラサイトの一部になるのだ。これで本物の集団主義になったな。


「それにしても、帰したパラサイトより人間らしいね」

 カルマが躊躇いもなくそう聞いた。

 ルルは「まあ、今は余裕がありますからね」と答えた。

「パラサイトには国民の恩恵を大量に受けると稼働力が減ってしまうんです。だからあなたと接した時、優先順位が低いからパラサイトは最小限の人間らしい行動しか行わなかったんです」

「つまり余裕が無くなるって事。人間と同じね」

「はい。その余裕がなくなるとパラノイアになる確率が高くなるようです。以前、各国にパラサイトを複数入れたんですけど、意見が合わなくなると一方がパラノイアじゃないかって疑心暗鬼になってしまうんです。それが続くと不貞腐れて、自分はもっと優れているって思い込んでパラノイアになって、石版の外に出てしまうんです」

「意外と随分と人間らしいね。おかげで教会は大変だったわ」

 不貞腐れたり、疑心暗鬼になったり、銀色の液体から人々の欲に応じて様々な恩恵を出す奇妙な物体なのに人間臭い。変な生き物だ。

 その上、パニックになって襲い掛かって来るし。

「ここはパラサイトの依存が強かったために起こった事件です。彼は自分なら人間よりもっと上手く出来ると思い上がってパラノイアになりました。こういう事例は珍しいです。他の国ではうまくやっています」

「それじゃ、パラノイアになる個体は出ないって事? もう教会はパラノイアの始末はうんざりよ」

「さあ、どうでしょう……」

 ルルはそう言って遠い目をした。



「あ、忘れていました。我々の原本である石版の一部を返してください」


 そう言ってルルは手を出したので、カルマは私の方を見た。

 私もこれさえあれば、パラノイアを簡単に倒せるから返したくはない。でも返さないと面倒な事になりそうだ。

 私は「返そう」と言うと、カルマは渋々返してもらった。ルルはにっこりと笑って「ありがとうございました」とお礼を言った。

「私からもお願いがあります」

「何でしょう?」

「ミーシャ達の勘当を取り消ししてください」

 私がそういうとルルは意外そうな顔になったが、笑顔になって「もちろんですとも」と返した。

「優しいですね」

「この国にはもう悪魔 パラノイアはもういないですし、このままだと後味が悪いから」

「それでも優しいわ、ララ。あなたがパラノイアにならないように祈ってます」

 私は「肝に銘じます」と返した。

 次にカルマの方を向いてルルはにっこり笑って、こう言った。

「ヤギさんは芝生を食べないようにね」

 嫌そうな顔をしてカルマは人の姿だっていうのに「メエエエ」と鳴いた。偏食は治りそうにないな、これじゃあ。

 ルルはクスクス笑って「後は、こちらでやります」と言い、スカートのすそをつまんでお辞儀をする。完璧なお嬢様のお辞儀だ。

「それでは、ごきげんよう。異端審問」

 優雅に華麗で堂々として由緒ある一族のご令嬢のようにそう言って、パッと銀色の球体に変わった。そして空の彼方へ消えていった。





「帰ろうか、主」

「そうだね」

 ルル、いやパラサイトが消えていった空から目を離して、大きく伸びをする。

「あー、ジンロウゲームも大変だったな」

「今度、やってみる? 異端審問の仲間達で」

「えー、地獄の底のみたいになりそう。みんな、裏の裏の裏まで考えて」

「あはは、確かに」

 そんな話しをしながら、私達は歩きだした。


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