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 お互いを襲い掛かろうとしている三人に蔦で拘束したが、それでも攻撃しようとする。三人とも互いを据わった目で見ていて恐ろしい。

「……どうしました? ちょっとしたゲームですよ」

 そうカルマは言うが誰一人、何も言わない。

 ガチャッとテーブルが大きく揺れて、カップが倒れて紅茶がこぼれたり、お皿も落ちてかけてしまった。


「やはり、あなた方は悪魔に憑かれているようですね」


 床に落ちた紙を拾いながら、私は言う。

 紙に書かれていたのは【村人】【泥棒】では無い。その紙は入れたふりをしていて、シアルの母親がすでに入れていた紙しか入っていない。


 つまり【あなた以外、悪魔】である。


 娘は学園でいじめられて幼馴染に魔法をかけられ心身共に傷ついた。その上、娘も自分も何も悪い事をしていないのに国を追い出された。教会の言う通り【悪魔】の仕業なら、我が家に伝わる悪魔祓いで倒します、と。

 カドゥが食べた手紙菓子にシアルの母親が書いた手紙にはそう書かれていた。


 良いやり方と思っていたけど、こうしてみるとかなり危ないやり方である。

 ゲームの参加者が怪我したり、最悪殺されるかもしれないからだ。それも含めてシアルの母親は悪魔祓いをしたのかもしれない。復讐と言う形で。

 だが復讐なんて一種の快楽に過ぎないし、もしシアル本人に知られれば辛い思いをするかもしれない。

 だったら、嫌われ者の異端審問がやった方がいいだろう。


 その時、ミーシャが「……違う」と呟いた。

「我々は、パラノイア、じゃない」

 この言葉は悪魔が言わせているんだろう。

「我々はこの国を、良くしようと……」

「こうして他者に傷つけようとしている時点で悪魔だよ」

 ニアが蔦を引きちぎりながら杖の先を私に向けて「違う!」と言った。

 

「いや、違わない。パラサイト、お前は悪魔、パラノイアだ」


 カルマがそう言った瞬間、ニアが魔法を呟いて私達に向かって雷撃魔法をかけてきた。




 パラサイトが人間に入り込もうとした瞬間、それは悪魔になる。

 ではパラサイトはどうやって人間の中に入るのか? パラサイトの条件と彼女達は言っていて条件の内容は教えてくれなかった。だが恐らくパラサイトを体内の中に入れるものだろう。

 しかし条件を受け入れなくても、彼女達はパラサイトを体内に入り込める。

 お茶会クラブの子達はパラサイトが出してきた飲み物、食べ物を特に何も感じずに食べていた。そう、飲食でパラサイトが入り込むのだ。

 シアルの母親の実家で『パラサイトの国々が小麦の輸入をやめたら悪魔が生まれた兆候』という言い伝えはこういう事だ。小麦が無ければ、パラサイトを食べればいい。

 

 ニアが打ってきた雷撃魔法は避雷針葉樹を出して防いだ。この樹は電気をひきつけるし威力を抑える。

 この魔法についてカルマは不思議そうに言った。

「あのさ、この子達の魔法で雷撃魔法しか出来ないの?」

「出来ないよ。だってパラサイトは電気が一番通じないからね。あえて自分の通じない魔法を中心に教えているんだよ」

「なるほど」

 のんきにそう話していると三人の目や鼻、口から銀色の液体が出てきた。うわ、やめなよ。嫁入り前の子達にそんな気色悪い事するの……。

 そう思っていると銀色の液体はシュルシュルと中央に集まって来た。更にドアや窓からもパラサイトの銀色の球体が集まってきて、巨大な球体になった。

 それと同時にミーシャ達は気を失ってしまった。蔦を使って、彼女達を床に寝かした。


 パラサイトが「異端審問!」と私達を呼ぶ。

「訂正しなさい。我々はパラノイアではないと」

「お前が令嬢三人を操ってお互いを攻撃するのを僕たちは見た。人と共存を目指しているくせに、人の中に入り込んで傷つけようとする。お前は悪魔、パラノイアだよ」

「貴様らが我々を悪魔と決めつけたからだ!」

「ちょっとしたゲームに殺意を持つなよ」

 カルマが呆れてそう言うと、手のひらに小さな欠片を出してきた。黒く硬い小石だった。それを見せると銀の球体は静かに波打った。

「パラノイア、これを知っているかい」

「……お前、それを」

「今日の朝、学園の芝生を漁ってようやく手に入れたんだ。お前を潰すためにね」

 それはパラサイトの契約書の石版の一部だ。芝生の下にあった巨大な石版の一部をカルマは手に入れたのだ。

 その一部をフウッと息をかけると、銀色の球体がドロドロに溶けて落ちて行った。そして残ったのは宙に浮く小さな石版だった。

 床にこぼれた銀色の液体から「何をした」と言うパラサイトの声が聞こえた。

「原本の石版を通して銀色のドロドロに少し鉛のような魔力をつぎ込んで動けなくしただけ」

 石版の一部を持っていればパラサイトもすぐに動かなくなるんだな。私も腹に穴が開く前に欲しかったな。でも芝生を漁っているとパラサイトが飛んできたと言っていたから、一部だけでも得るのは大変だっただろう。

 パラサイトの質問に答えて、カルマは銀色の液体から出てきた小さな石版を手に取った。


「待ってくれ!」


 パラサイトがあまりに必死な声でカルマに言った。

「我々が居なくなったら、この国はどうなる。我々を消せばこの国の人間達に恨まれるぞ。我々はこの国を担っているんだぞ」

「パラサイト、私にこう言ったな」

 私はパラサイトに言うと「お前は」と返した。まさか腹に穴開けた人間がまた舞い戻ってくると思っていなかったのかもしれない。

「自分が何とかしないといけないと思った個人主義のパラノイアは集団主義のパラサイトから出て行った者達と。でも、本当にそうなのか?」

「……どういうことだ?」

「パラサイトと言うのは海沿いの国々に分裂して存在している。お前はそいつらと連絡は取れるのか?」

「……」


「その沈黙は肯定と取った。分裂したパラサイト同士でも連絡は取れない。だとしたらパラサイトは長い間、分裂して国への恩恵を与え続けている間にパラノイアになるんじゃないのか? 全員がなるとは思えないがパラサイトに国民が依存して、自分が居なければこの世界がどうする事も出来ないと思いあがってしまうと、パラノイアになるのでは?」


「違う!」


「そうなるとパラサイトがパラノイアを分からないと言うのも理解できる。だって見た目は同じだが、お互いの考えている事が分からないのだから」


 パラサイトが駄々っ子のように「違う、違う、違う!」と否定する。その姿にちょっと悲壮感があった。

「我々は、我々はパラサイトだ!」

「あと、もう一つ言い忘れたけど、この国に悪魔がいるって言うタレコミと我々、聖十二神に悪魔祓いを依頼したものは他国のパラサイトからだよ」

 面と向かって言いはしなかったが、この国以外の海沿いの国の人々がこの国に悪魔がいると聖十二神の教会に手紙を大量に送ったり、時にはやってきて言う人もいた。彼らは言わなかったが、自分たちが依存しているパラサイトに言われてやったのでは思う。


「とっくにお前は仲間のパラサイトから悪魔、パラノイアって思われているんだよ」


 決定的な答えを言って、私は更に残酷な質問をする。


「パラサイト。お前がパラノイアでない事を証明できるか?」

 

 私の質問にパラサイトは「私は、パラサイトだ!」と言って、鋭い槍を突きつけようとしたが、うまく動かないようだ。

「我々から私になっているよ、パラノイア」

 そう呟いて私はカルマと目配せして、石版を噛ませた。すると石版が大きな音と共に砕けて砂になった。

 最後に「消えたくない」パラサイトは呟いた。

「大丈夫。元の世界に帰るだけだから」

 パラサイトには聞こえないだろうけど、私はそう呟いた。



 

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