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 真っ白い長髪と長身の蠱惑的な笑みが印象的な美青年が学園内の寮に入る。寮長には「聖十二神の教会の異端審問です」と言って、パラサイトが居たらその場で鎮圧させた。

「フフン、あの寮長、僕の美貌に驚いていたね。ヤギだった時は足で追い払っていたのに」

「違うでしょう。魅了魔法をかけたんでしょ」

 自分の美貌をニマニマした顔で褒めるカルマに私は言った。カドゥもそうだが聖獣が人間に変身するとかっこいいか美しくなると同時に、人々を魅了する魔法もかけられるのだ。

 聖十二神はここだと力は小さい。令状があっても学園内に入れない可能性もあるので魅了の魔法かけたのだ。

 私は目的の部屋に向かっている間、この事件の事を考える。


 上官の言う通り、悪魔はもう一人いる。いや、悪魔になりかけていると言った方がいい。


 ニホンからやってくる転生者は無駄な戦いはしないように行動をする傾向が高い。

 当然、予め作られた物語がクーデターのリーダーで亡くなるのだったら、ニホンの転生者はそれを回避しようとする。しかも物語にはパラサイトと言う存在が居なかったし、クーデターの原因は市民や貴族側から見ると隠されているのだ。


 一見すると市民がパラサイトを異質だなって思いつつも普通の生活をしている。はっきり言ってパラサイトのいない国より豊かな暮らしをしている。アックスの中に入っていた転生者も別にクーデターを起こさなくても、市民はいい暮らしをしていると思っていた。


 だがクーデターを起こしたい人々はいる。王族と貴族制度を無くすのに反対している貴族の人間達だ。


 彼らは【予言の書】と言う本を持っていた。その内容はニホンのゲームの物語【ウィザード・ナイト】と同じだったのだ。だが内容はちょっと違うようだ。

 クーデターを起こした人々は貴族の圧倒的な力に負け、更に味方だった市民もクーデターをやる期間が長かったため次第に離れていった。こうしてクーデターは失敗し、やはり王族と貴族制度があった方が治安はいいのでは? と考え、王族と貴族制度はそのままにするって内容だ。ついでに魔法の武器などを取り扱っている人にとってもいい話だ。

 ちなみにこれはゲームで主人公が死んだ時のバッドエンドの物語らしい。


 この【予言の書】のように話しを進めようとクーデターを煽る貴族の人々は、アックスに嫌がらせをして、アックスの偽物を用意させてクーデターを起こそうと考えていたのだ。

 そして失敗させて、王族と貴族制度が市民に必要と認識させる。そう言う作戦だったのだ。


 だからミーシャの婚姻を失敗させて、アックスに王族へ恨みを持つように動かしてクーデターのリーダーに付けさせようと考えたり、アックスが居なくなれば彼がいない間は貴族の人々が心証の悪くなるような行動をとる偽物が現れた。


 だがアックスの転生者も【予言の書】である物語を知っているから、うまくいくはずはない。


 そうしてクーデターを企てようと考えている人間は失敗させてパラサイトに見つかって消される。しかも市民どころかミーシャのような王族・貴族の人間さえも知らないし、聖十二神の教会が調べようとしても証拠もすべて消えてしまうのだ。


 つまりパラサイトの不満や非難は一切、表に出さないようにしている。


 それにフランに憑いていた悪魔を倒した後、アックスとアイルの転生者は消えるのに誤差があった。憑いていた期間は関係なく悪魔が消えればすぐに転生者も消えるはずなのに。


 恐らく別の悪魔が干渉して、すぐに消したに違いない。同一の悪魔と思い込むために。



「失礼します!」

 ミーシャの部屋のドアをスパンッと開けると、ミーシャはもちろんニアとエグニがテーブルの席についていた。

 基本的に王族や貴族の寮は広くて綺麗で家具は充実している。

「聖十二神の教会の異端審問です」

 カルマがそういうと三人はポカンとした顔で見ていたが、すぐにミーシャが怒鳴った。

「ちょっと! ノックもしないで入ってこないでよ!」

「すいません、緊急事態なんです」

 カルマが構わずそう言って、ドアを閉めて壁に寄り掛かる。ちなみに私はカルマの横で壁に寄り掛からず立っている。もちろん、仮面を被っている。

 部屋全体を見るとパラサイトの姿が見えない。テーブルには紅茶が入ったカップとシアルから送られた手紙菓子があった。紅茶は普通の色の物のように見えた。

 まだ食べていないようで、ホッとした。だが油断は禁物だ。

 エグニとニアは目を見開いて呆然として黙っているが、ミーシャは「すでに悪魔はいないです!」と怒り出す。それをカルマは軽く笑いながら受け流して、「そうですね」と答えた。

「悪魔は居ません。これから生まれるからです」

 カルマの言葉に三人は意味が分からないと言った表情を浮かべた。


 角を持った美青年のカルマに三人は睨むが、気にせずにカルマは言う。

「ところでミーシャ嬢、この国に悪魔がいるって異端審問に依頼した人物が誰か教えましょう」

「……誰よ」

「一人目はシアルの母方の実家。そこの当主から」

「はあ? どういうこと?」

「昔の言い伝えで海沿いの国々の人々から小麦をいらないと言ってきたら、悪魔が生まれた兆候らしいですよ」

「言い伝えなんて、アホらしいわ」

 ミーシャはくだらないと言わんばかりに言い捨てる。確かにそれだけでは確証を得ないだろう。

 だが聖十二神の教会とシアルの母親の実家や国には、とある約束をしているのだ。

「もしもあなた方の国で小麦の輸入を突然やめたり、少なくなった場合、聖十二神の教会はあなた方の国に悪魔がいると判断して調査するんですよ」

「何よ、それ。意味が分からない」

「え? そんな話し知らないよ。シアルもそんな話しはしたことが無かったし」

「私も知らない」

 ニアとエグニは戸惑うが、ミーシャは「本当にご苦労な事で」と侮蔑な眼差しを向ける。さすがミーシャ。異様な姿のカルマにも、いつもと変わらない態度で接している。


 ミーシャはここぞとばかりに不満を言いだした。

「あなた方のせいで私達は勘当されたのよ。しかも家にも帰れずに、こんな学園の寮にいるなんて」

「それはパラサイトのせいですよ。美しいお嬢さん」

「あなた方がこの学園の事に首を突っ込まなければ、こんな目にあわなかったのよ。早くお父様やお爺様に聖十二神の教会を潰してもらう約束をしないと」

「あれ? 勘当されたんじゃなかったの?」

 カルマが不思議そうな顔で聞く、ミーシャに「もうすぐ取り消してもらうわ」と済ました顔で言った。

「パラサイトの条件を受け入れるつもりですから」

「条件って?」

「それはお答えできませんね」

 ミーシャはジロッと睨みつけて「さあ、出て行きなさい!」と言った。

「まあ、そう言わずに。お姫様」

「はっきり言って、あなた方は目障りよ。突然、我々の生活圏にズカズカと入り込んでくるなんて失礼よ」

 ミーシャにそう言われて、チラッと困ったような顔をカルマはして私を見た。私も嫌な予感がした気がした。

 そしてミーシャは紅茶に手を伸ばし、飲もうとするのでカルマは思わず「ちょっと! ダメだ!」と注意をする。

「うるさいわね。私達は紅茶も満足に飲めないわけ」

「とりあえず、三人ともは外に出て」

「意味が分からない! エグニとニアは飲んで!」

 カルマとミーシャが怒鳴りあい、ニアとエグニはどっちの話しを聞けばいいか分からず不安そうに二人とも顔を見合わせる。


 異端審問と名乗り異様な姿のカルマを出せば大体の人間は驚いて言葉に従ってしまう。だがこの子達は、聖十二神の教会を田舎臭いと思っているし、パラサイトと言うカルマより数段階も異様な奴と一緒に暮らしていた。

 やっぱり聖十二神の教会の力が通用しない人達に私達の言葉に効力はない。パラサイトに絶対的な信頼を持っている彼女達には聞こえない。例え、目の前でパラサイトに似た悪魔を見たとしても。だったら仕方がない。


 私は「分かりました」と言って、苛立っているカルマに耳打ちをする。私の提案にカルマは「それ、大丈夫なの?」と言うので「いいからやって」と促す。

 カルマは不安そうな顔を一瞬したが、すぐに涼しい笑みを浮かべて口を開く。


「でしたら、皆さん、ゲームをしましょう!」


 三人とも「はあ?」と言った。

 


 急いで私はゲームの用意をしていると焦ったようにカルマが「どうするんだよ」と私に小さく耳打ちしてきた。

「いきなりゲームなんて」

「ちょうど手紙菓子があるんだから、楽しいゲームをしようと思って」

「そんなわけないだろ」

 不貞腐れようにカルマは呟いて「なんか、主の気持ちが分かったよ」と言った。

「イライラする」

「あの時の気持ちが分かって嬉しいわ」

 普段、聖十二神の教会の異端審問ってだけでみんな萎縮するから、私達はこういう反発がある事も知らないといけない。勉強になったと思い込もう。


 私は小さな紙を書き終わって、不信感一杯に見るミーシャとニアとエグニに見せる。そしてカルマはゲームの説明をした。

「シアルのお母様が作ってくれたこの手紙菓子に【あなたは村人】を二枚、【あなたは泥棒】を一枚、それぞれ入れておきます」

 するとエグニが「そのゲーム、知っている」と呟いた。

「それでお菓子を食べ終わって、誰が泥棒か話し合いで当てるやつでしょ」

「そう! やった事があるんですね?」

「ああ。昔、シアルの家でやった事があるんだ」

 ニアも頷いて「やったことあるね」と話し、ミーシャはどうでもいいと言った顔をしている。

 私が紙を入れていくと、ミーシャは「そのゲームをしろって事?」と嫌そうに言った。

「そう! どうせ、お茶するんだからゲームでもしましょうよ」

「なんで異端審問の提案に乗らないといけないのよ」

「ゲームが終わったら、異端審問が追っている悪魔について説明しますよ」

 準備は完了したので全員席についた。そして私とカルマは壁の方に立っている。

「それで異端審問も見ているの?」

「もちろん」

「なんか、飲みづらいわ」

「気にしないでください。何なら壁の模様と思っていただければ」

「思わないよ」

 みんな呆れたように言い、手紙菓子に入った手紙を取り出す。彼女達は手紙の内容を見た瞬間、三人は目を見開いて立ち上がった。

 すぐさま私は魔法を繰り出す。


 杖を出したニアと襲い掛かろうとしたエグニ、スプーンを握って振りかぶるミーシャを蔦の魔法で拘束した。






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