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 人里離れていくつもの丘を越え、深い森の中に小さな建物が立てられである。そこは聖十二神の医療の神に仕えたヘビの聖獣と主に用意してある病院だ。異端審問などの特殊な人間が主に使っている。

 悪魔、パラノイアの攻撃で肩と腹に穴を開けられた私はここへ担ぎ込まれてベッドで安静にしている。


【シアルへ

 シアル、久しぶり。エグニだよ。シアルにした事、本当にごめんなさい。本当は直接、言って謝りたかったけど、今はシアルのいる国に行けないんだ。でもどうしてもシアルに謝りたかったから、手紙を書いたんだ。……】

 

 エグニがシアルに送った謝罪の手紙を私はベッドで寝ながら読む。シアルが読まずに異端審問が読んでいると知ったエグニはどう思うんだろうか。

 そんな事を考えながら仲間から聞いた彼女達のその後を思い出した。


 まずアイルとアックスに憑いていた転生者は元の世界に帰って行った。

 だが転生者が居なくなってもアイルは国を出て、アックスは国に帰らなかった。転生者の意識や記憶は失われても、それまでの記憶は残っている上に残された本物の人格も転生者の意識にかなり影響しているのだ。


 アイルは転生者が出て行った後、ミステリアスと言うか無口な女の子に戻った。

 ただパラサイトに殺されかけたアイルは恐ろしくて、国を出て聖十二神の修道院で暮らしている。パラサイトのいない生活は大変らしいが、精神的に安定して趣味の読書をしながら静かに過ごしている。それから家族とも手紙で連絡は取っているようだ。


 アックスは転生者が消えても人格はあまり変わらなかった。貴族ぶらず、平民とも仲良しだ。貴族の暮らしは好きでは無いのとパラサイトや国の貴族に不信感があるため、ミーシャとの婚約は破棄し今まで通り他国の漁村で暮らしている。そこはまだパラサイトがおらず、独特な魔法を使って漁をしている。また国の中にいる信頼している人達と手紙で連絡は取っているようだ。


 そしてフランは幼い頃から悪魔が憑いていたようで消えた瞬間、三歳の頃の人格に戻ってしまった。悪魔が居なくなった場合、転生者と違って記憶も全部失われてしまうのだ。悪魔に憑かれたって言う事実にフランの両親は悲しむより嫌悪感が強かった。こちらも国を出てアイルとは別の修道院で保護している。


 またニアとエグニ、ミーシャはこの国に残っている。この事件で勘当されているが、お情けなのか学園は退学処分にはならなかった。だからまだあの学園に居て、寮の中で夏休みに入っているはずだ。

 恐らくこの事件について学園中に知れ渡っているだろう。私だったら肩身狭い気持ちになるけど、この子達は大丈夫だろうか。

 ちょっと気が滅入りながら、エグニの手紙の続きを読み進める。


【あの事件で勘当されたけど、パラサイトからある条件を受け入れれば元の生活に戻れるみたい。そしたらシアルのいる国に言って、直接謝罪したんだ】


 パラサイトからある条件を受け入れる? って、どういう事なんだろう? エグニの文章に疑問を持ちつつ、更に読む。


【もうしつこいかもしれないけど、本当に申し訳ない。そしてシアルの手紙が欲しいな。手紙で思い出したけど、小さい時、お菓子に包まれたお手紙をもらって嬉しかったな】


 ……お菓子に包まれた手紙って何だろう? 先を読み進めてると最後にエグニは【それじゃあ、また手紙を書くね】と締めくくってあった。


 エグニはちょっとした行き違いで喧嘩をして謝罪の手紙を書いた感じだけど、シアルは信頼していた友達に雷撃魔法で傷つけられたのだ。シアルは未だにいくつか雷撃魔法で出来た火傷の跡はついているし、心の傷も癒えていない状況だ。

 そんな子がこの手紙を読んで、どう思うんだろうか? 私だったら読まずにカルマに食べさせるな。ヤギが手紙を食べる異世界の童謡の如く。


「やあ、異端審問。元気かね」

 音もなく入ってきたのは、聖十二神に仕えるヘビの聖獣 カドゥだ。そして医療者である。真っ白い体に真っ赤な目が特徴的なヘビで飄々とした性格だ。

「はい! いつもありがとうございます。ケガを治していただいて」

「いやいや、お互い嫌われ者同士だ。仲良くやって行こう」

 この世界だと魔法で傷を治す【治癒】が一般的だ。異世界だと【内科】みたいなものだろう。

 そして【医療】は毒ヘビなどの毒を調合し、麻酔を打って魔法の刃物と糸で身体を切ったり縫い合わして怪我を治す。こちらも異世界だと【外科】みたいなものだろう。医療はどうしても血が出てしまうため嫌う者が多く、異端審問の同様、嫌われるのだ。

 だが大怪我をすぐに治せるのは【医療】だ。大怪我ばっかりする者にとっては感謝しきれない。よくお世話になっている。

「それにしても君の上司は随分と人使いが荒いな。またすぐに仕事に戻らないといけないなんてな」

「人手不足なのよ、カドゥ。それにカルマを置いてきちゃったからね」

 私が担ぎ込まれた後、潜入していた異端審問のケイとトムはお暇を出した。その後すぐにカルマは逃げ出して、隠れて学園を見張っているはずだ。

「カルマは寂しがり屋だから大丈夫かな。早く行ってあげないと」

「随分と過保護な主だな」

 カドゥはちょっと呆れながら言う。自分でも甘やかしている自覚はある。


 カドゥは上司が持ってきた資料の入った袋を「何やら甘い臭いがするな」と言って入って行った。ヘビだから臭いに敏感なんだろう。

 ガサゴソと漁っていると「手紙菓子があるな」と言って、カドゥは袋の中から茶色の筒のような形のクッキーのようなものを出した。

「手紙菓子って?」

「ここら辺の国のお菓子さ。別名、封筒菓子とも言う。ほら、ここに手紙が入っている」

 確かに筒の中に丸めた紙が入っている。それを出して広げて見ると【あなた以外、悪魔】と書かれてあった。何だ、これ?

「ねえ、カドゥ。お菓子をあげるから、この手紙菓子について教えて」

「分かった。ここら辺の国は昔から小麦の生産地だったから、お菓子がいっぱい作られていたんだ。そうしてお祝い事などに手紙菓子に手紙を入れて渡したりするのさ」

 なるほど、郷土料理的なものか。

「この地域に聖十二神が浸透する前から作られていたお菓子で、地方によっていろんな形がある。扇型だったり、凹凸で柄をつけたりね。それに独特なゲームや悪魔を見つける方法があるのさ」

「悪魔を見つける方法?」

「うん。でもまずはゲームから説明しよう。【あなたは泥棒】【あなたは村人】など書かれた紙を手紙菓子に入れてお友達に配る。誰にもわからないように手紙を見て、お菓子を食べながら泥棒を炙り出す会話をする。食べ終わったら泥棒は誰か当てるのさ」

 まるで異世界の人達が言っていたジンロウゲームのようね。そう思い、手紙菓子に入れられた手紙を見て口を開く。

「もしかして悪魔を見つける方法って、対象者に【あなた以外、悪魔】って紙を手紙菓子に入れるでしょう?」

「さすが異端審問! 悪魔って奴は縄張り意識が激しいのか別の悪魔がいると落ち着かない。ちょっとしたゲームだと言うのに真剣になったり苛立ったり、焦って攻撃的になってしまうんだ。それであぶり出すのさ」

「悪魔の特徴を活かしていて、いい方法ですね」

 はっきり言って異端審問もやった方法よりも。次からこの方法でやろうかしら。

 それからエグニの言っていた手紙が入っていたお菓子はこれだろう。女の子って手紙の渡し合いとか好きだからね。


 ポリポリとお菓子を食べるカドゥに私は「ここら辺はパラサイトとか来てますか?」と聞いてみると、「いや、来ていないね」と答えた。

「そもそも、あいつらは海沿いにしか来ない。ここら辺には来れないんだよ。そう言えば、昔パラサイトのいる国について、聖十二神教会の調査隊が調べたんだ」

「よく許可されたわね」

「その頃はパラサイトの権力はそこまで無かったのさ。すると海沿いの地域、あそこは巨大な石版が重なって出来た場所って分かったんだ」

「へえ。石版ってパラサイトをこの世界に呼んだもの?」

「それを調べる前に追い出されたよ。ただ石版の力は知っているだろう?」


 異世界から何かを召喚する時、この世界では紙か石版を使う。いわゆる契約書だ。お手軽で一般的なのは紙だが、召喚された者はそこまで力はない。異世界へ帰す方法だって契約書を書き直せばいい。


 だがパラサイトのような明らかに人知を超えた力を持った者を召喚する場合、手間と長い年月をかけて作る石版が必要だ。作り方は化石や魔石や千年以上生きる木々、聖獣の血肉など魔力や生命力が溢れた物質を混ぜ込んで文字を書き込み固めて完成するのだ。そして書き直しがきかない。なのでカルマが噛み砕かないと強制的に契約は無効にするしかないのだ。


「これを知った調査隊はある仮説を解いた。もしかして石版の周りにしかパラサイトは来れないんじゃないかって」

「……でも来てますよね。時々」

「それは悪魔になった状態だ。普通のパラサイトは海沿いの国々を見て回っている」

 そう言えば、そうだ。


 悶々と考えている私をしり目にカドゥはお菓子を嬉しそうに食べている。すると「おや、まだ手紙が入っている」と言って一枚の紙が入っていた。

 それを呼んだ瞬間、血の気が引いた。


「カドゥ! 私、カルマの所に戻ります!」

「まだ無理だぞ、腹開くぞ」

「無茶しないようにします!」


 すぐさまベッドから出て着替えると丁度よくカドゥがやってきた。真っ白い短髪と眉目秀麗な真っ赤な瞳、頬には少しヘビのようなうろこの跡が見えて異様だが、飄々とした笑みのかっこいい中年男性に変わって。聖獣には人間に変身できるのだ。

「準備は出来たみたいだね、異端審問」

「はい!」

「痛み止めをいくつか持って行きなさい。それと外に馬も用意しておいたから、それに乗っていきなさい」

「ありがとうございます」

「無茶はしないように」

 さすが気の利くカドゥだ。

 痛み止めを持って、馬に乗り、再びあの学園へと急いだ。


 一日かけて私はあの国に戻り、隅にある聖十二神の教会に馬を返した。そしてすぐさまカルマの所に向かった。カルマは国境にある森に潜んでいた。

 森の中に入ると立ち上がって尻尾を振り「主!」と駆け寄ってきた。


「主! 大丈夫?」

「大丈夫、カドゥから痛み止めをもらって飲んだし。カルマは?」

「……美味しくない雑草を食べて過ごして最悪だった」

 うんざりしたような感じで言うカルマを励ますように撫でながら、「学園の様子は?」と聞いた。カルマは耳がいいのだ。

「今は夏休みだからほとんどの生徒が帰っている。今はミーシャ達と当直の先生、寮の管理人しかいないね」

「ミーシャ達は誰かと接触している?」

「パラサイトくらいかな。あと家族から手紙をもらっていた。さすがに文面は分からないけど、ニアは大泣きして落ち込んでいたな」

 ニアは可愛がられて育った感じだから、今の状況だけで辛いだろうな。加害者だから同情はする気は無いけど。

「エグニはシアルからの手紙が来ないから気を病んでいたんだけど昨日の夜、シアルからお菓子が届いたんだ」

「……お菓子」

「うん。それで今日のティータイムの時に食べようって話しになっている。そしてパラサイトの条件を受け入れるって」

 お菓子、そしてパラサイトの条件か。あの手紙を思い出して不安な気持ちが募る。

「それと主、例の物を取り出せた」

「さすがカルマ。それじゃあ作戦を開始するよ」

 私がそういうとカルマはニヤッと笑った。





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