13
「フラン、あなたが悪魔ね」
私とフランの会話を聞いていた他の令嬢達が「え? どういう事?」と言いながら、振り向いて私達の方を向いた。
「この水は朝食の時に出された物なの」
「私も飲みました」
「でもこれ、レモン水なの」
私がにっこり笑って言うと、フランはキョトンとした顔になる。言っている意味が分かっていないようだ。
他の令嬢達もよく分かっておらず、「なんでフランが悪魔なの?」と聞いてきた。
「悪魔は嗅覚と味覚が存在しないんですよ」
「でもフランの杖って魔法をかけた証拠なんて無かったはず」
「悪魔は杖が無くても魔法をかける事が出来るんですよ」
だから、あれだけ杖で魔法を見せろとか魔力を色で見える薬をつけるとかの意味はない。それを聞いたミーシャは苛立った声で、「じゃあ、今までのは茶番をって事?」と言うので「決して茶番ではないですよ」と答えてあげた。
「すべて悪魔を油断させるため。あなた方は五人の仲間で結束を固めていた。そうすれば結束の中に悪魔は隠れられるでしょう。でもあの茶番でみんながバラバラになってしまったら、いつバレるか分からない。だから具合が悪くなったり、いち早く自分は悪魔ではないと証拠を差し出して、安全圏の所で見ていた」
そしてミーシャが悪魔憑きではないかとみんなから疑われて、これで逃げられると思っただろう。
「だから油断して、正体を現してしまった」
令嬢達が納得したような表情を浮かべるなか、フランはちょっと焦りつつも「具合が悪くて、味が分からなかったの」と言った。
「だとするなら、この中庭のテーブルはどうやって持って行っているの?」
「え? 多分、用務員のトムさんじゃ……」
「彼も私の仲間だけど、そういった仕事はしていないはずよ。私に報告を受けていないから。それにあなたは最初に言ったよね。『このテーブルはみんなで持ってきている』って」
「……」
「でもテーブルは一年生が用意する決まりみたいだったよ。でもあなた一人で持てるようなものじゃない。あなたが持ってきているんじゃなくて? 悪魔の力で」
「酷い……、私、悪魔憑いていないのに」
フランを俯いてポロポロと涙を流す。普通の人だったら心配するだろうが、私は気にしないで更に言う。ミーシャに。
「ミーシャ。私に雷撃魔法の拷問した時、あなたは魔法をかけたフリをしていなかった?」
ミーシャは挑発的に「何のためによ?」の聞いた。
「魔法が使えないから」
私の言葉に苦々しい顔で睨んだ。王族なのに魔法が使えない。これはミーシャにとって汚点でもあるだろう。
だからこそ、フランが私に魔法をかけていないと言った発言に驚き、頑なに魔法を見せなかったのだ。
魔法が使えないと言う事実にニアとエグニとアイルは驚いた顔になるが、ミーシャは「それが何よ!」と怒り出した。
「パラサイトがなんでもしてくれるんだから、別に魔法なんて使えなくてもいいじゃない!」
「その言葉、魔法が使えないっていう意味ですね」
私がそういうとミーシャは黙った。
私はフランに話しかけた。
「前々から、ちょっとおかしかったのよ。あの夜、あなたは私に紅茶をかけた」
「……」
「ミーシャがそう指示をしたわけじゃないよね。おそらく水をかけて雷撃魔法の威力をあげて、お茶会クラブのメンバー達に私を殺そうと考えていたんでしょう。もちろん彼女達は殺すつもりはなかった、尋問の末の可哀そうな事故だった。もしくはララ嬢が自殺したって報告するつもりだったのかもしれない」
「……」
「でも、予定が外れて……」
私が喋っていると、右肩に強い衝撃と痛みが走った。痛みの原因はフランの口から出てきた銀色の鋭利な槍が出てきた。
「メエエエ!」
「いやあああああ!」
ヤギと令嬢達は悲鳴を上げている。そんな彼女達の前に私は槍が刺さったままだけど、魔法でテーブルを横にして盾のようにした。
「ここに隠れて!」
そういうと令嬢達は素直に従った。
私に刺さった槍の中に根と葉が出てきた。そして槍の中から幾重にもある銀色の花びらが広がり、蓮の花が咲き誇った。
これは銀水を栄養にする恐ろしい蓮である。槍が刺さる前に仕込んでおいたのだ。
これで悪魔、パラノイア自身の動きを封じられる。
蓮がどんどんと咲き誇り、フランの身体から銀色の液体が出てきた。そして強欲なまでに咲き誇る蓮に比例して、銀色の球体も小さくなっていき無くなってしまった。
意外と呆気ないなと思いつつ、フランの所に近づく。
恐らく彼女がパラノイアの石版を持っているはず。ちょっと失礼して、彼女の服の中を調べてもらおう。そう思って胸元のポケットを探ると見つけた。
その時だった。フランの口から銀色の鋭利な角が出てきた。避けられず、肉体強化の魔法も間に合わず思いっきり脇腹に刺さった。
まだ、残っていたのか!
「メエエエ!」
カルマが近づいて来て「来るな!」と言って、フランのポケットから石版を出して投げながら言う。
「石版を破壊して! カルマ!」
石版を取り戻そうとするパラノイアが私を指した槍から銀色の手になって伸ばすが、軽やかに走るヤギのカルマの方が石版を取るのが速い。
投げた石版を口で捉えたカルマは石版を思いっきりかみ砕いた。そう、カルマには悪魔との契約書を食べると契約無効になり、悪魔を元の場所に戻せる力があるのだ。
その瞬間、銀色の液体はパッと消え、取り込んだ蓮が枯れて行った。
悪魔であるパラノイアが消滅したのだ。
「はあ、終わったか」
そう呟いて、私は倒れた。すぐさまカルマが駆け寄って私の頬を舐める。大丈夫、まだ生きている。そう思いながら意識を無くした。
*
「主」
カルマの声が聞こえる。今まで令嬢達やパラサイトがいたので黙っていたけど、聖獣は言葉も話し人の姿に変身も出来る。
体に穴を開けられた私は庭園でぶっ倒れて、仲間に応急処置を取ってもらっている。パラサイトがやりましょうかって申し出たけど丁重に断って、令嬢やパラサイトには離れてほしいとお願いした。
薄っすらと目を開けると青空が見えた。まだお昼って所だな。そして背中に石畳の硬い感触、そして首から下は応急処置による魔力が感じた。
カルマは私に顔を寄せて、「上官の伝言だよ」と話し出す。
「多分、これで終わらない」
私は黙ってカルマの顎を撫でる。気持ちよさそうに目を細めて、カルマは続きを話した。
「主と僕は引き続き、この事件の調査をする。トムとケイは学園を去って別の任務に就くから僕らだけでやる。主は怪我が治ったら、こっちに来てね」
そうだね。異端審問が学園にいるって分かれば、悪魔も尻尾を出さないだろう。一回、引いて隠れて様子をうかがった方がいい。
私は「了解」とばかりにカルマの頭を撫でた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます
明日は最終回まで投稿いたします。