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 冷たくて綺麗な水が蛇口から流れる。まるでニホンと言う世界から来た人が言っていたスイドウと言う機器のようだ。

 パラサイトから予想外の行動でかき乱すわ、ミーシャはずっと私を疑ってイライラしてしまった。コップに冷たい水を入れて飲んで、頭をすっきりしよう。

「……なんで、ここまで来たんですか? 調理場までに」

 パラサイトが不思議そうな顔で聞いてきたので「なんか、あの子達のために軽食を作ろうと思って」と答えた。

「我々が作りますよ」

 パラサイトの申し出に「大丈夫です」と断った。


 私はぽつりと「腹が減っては戦が出来ない」と異世界の言葉を呟く。するとパラサイトが反応した。

「それって、この世界の言葉じゃないですよね」

「ええ、異世界の人の言葉ですね」

「……あなたはニホンって言う世界から来た人に割と嫌悪感はないですね」

「彼らは無理やり連れてこられた人々です。まあ、彼らの中には自ら来ている子と主張する人もいますけど。あと転生者です」

 そんな説明をしながら、調理場を探索しようとしたがパラサイトが何か言いたそうな顔をしていた。


 パンとハム、チーズ、そしてキュウリとレタスを見つけた。うん、これを使ってサンドイッチを作れそう。

 私は壁を背にして立っているパラサイトに「あなたは帰る場所はあるんですか?」と聞きながら、パンを薄く切っていった。

「帰る場所、とは?」

「あなたは明らかにこの世界の人間では無い。ニホンと呼ばれる世界の人々からも見ても奇異な存在です。別の世界から来た存在ですね」

「さあ、どうでしょうね」

「だからこそ彼らに便利であり脅威であると示そうとしているんですか? 元の世界へ帰りたくないから」

 チラッとパラサイトを見る。彼の表情に変化はなく、何を言っているんだと言う不思議なものを見ているような感じで私を見ていた。

 何も言わないパラサイトに私はサンドイッチを作りながら更に言う。


「あなた、本当は悪魔が気づけないから、疑わしい者すべて皆殺しをしようと考えているんでしょう?」


 パラサイトは何も言わない。


「私が学園の中庭で悪魔の攻撃を受けて、聖十二神の異端審問が【悪魔がいる】と学園に申告した時、パラサイトも悪魔の仕業だと公表しています。私が怪我しているのを見下ろしている時に、パラサイトは悪魔がいると言っていません」


 彼のプライドを刺激する事実を言っているが、彼は特に何も言わない。平然と装って言っているが実は肝を冷やしている私がちょっと馬鹿みたいに思えてきた。


 どういう気持ちでパラサイトは聞いているのかわからないが、私は構わず続ける。

「私ではないのですが、仲間がパラノイアと言う悪魔と会話した事あるんです」

「……」

「彼らは個人主義と宣言して、ついでにこの世界を支配する、この世界は遅れているとか言いだして、変えて見せるとか、意味不明な事を言う銀色の液体を吐く男」

「……」

「意味が分からないし、森や村を潰そうとするので仲間は彼を倒そうと思いました。その際、彼らは小さな石版を大事そうに持っていました」

「その石版を壊したんですか?」

「壊しましたね。これが彼らにとっての契約書で生命線のような物だと話していたので」

「もしかして、そのパラノイアが言ったんですか? 石版の話し」

「私ではないのですが同じ仲間が交戦した時に話したそうです。随分といきり倒して、弱点まで言って、我々を舐め腐っていた馬鹿な奴だって言っていましたね。でも殺してはいないらしいです。恐らく石版はパラノイアがこの世界に居られるための契約書。それを打ち壊せば、彼のいた世界に帰るだけです」

 その話を自慢げに言っていた男の顔を思い浮かべる。


 どうして聖十二神の教会の異端審問になりたいのか? って、思われるくらい粗野で乱暴で、何もかもが規格外の男だ。こいつと仲間と思いたくないけど味方でよかったと思う。それが彼の異端審問内の評価だ。


 パラサイトは殺しにかかるかと思ったが、特に何も無かった。何も無くて拍子抜けしたくらいだ。

 パラサイトの方を見ると壁に同化するくらい動いていなかった。

 だが返答を求めるようにずっと私が見ていると、パラサイトは肩をすくめながら笑った。

 予想外の反応にちょっと拍子抜けしてしまった。私一人が知っていたとしても、この国はパラサイト無しで生きてはいけないからと思っているからだろうか。

「恐らくパラノイアと言うのは我々から抜けた者達でしょうね。だから我々は彼らを悪魔と認識できない」

「認めるんですね」

「ええ、認めますよ。集団主義である我々の考えを否定して、自分でこの世界をすべて変えようとする者達です」

「あなたも変えようとしているのでは」

「変えてはいません。共存しているんです」

 共存と言うには恩恵を疑う者を許さない姿勢はどうなんだろうか? と思う。お前はこの国の独裁者じゃないか。

「とにかくパラノイアと我々は違う存在ですね。あなた方はいきなりすべてを崩壊させて変えさせると言われたら、嫌でしょう?」

「嫌ですね」

「我々もそんなやり方は好みません」

 ……あ、この世界を変えるって考えではあるんだ。

 パラサイトの野望には何も言わないでいると、「とりあえず、あの令嬢の中にパラノイアがいたなら倒してください」と言った。

「私達に倒す力はないですよ」

「じゃあ、どうやって悪魔と対峙するんですか?」

「元の世界に戻すだけです」


 さて、こいつの問題を聞いてみよう。

「と言う事は、あなた方は悪魔に気がつけないって事ですよね」

「ええ、そうです。だけどパラノイアが別の国に行ったら、その国の問題です。別の国へ行ったらパラノイアを悪魔にしても友人として神様として接しても、我々には関係ないです」

 いや、気づけ! 関係を持て! 国境を越えた国々と聖十二神の教会が迷惑しているんだから!

「だが今回は前代未聞です。この国でパラノイアが出てきて決まった。早急に潰さないといけないのに……」

 恨みがましい目で私を見るが、臆せず「約束の時間はまだ来ていないです」と言った。

「例え親から遠回しに死ねって許可をもらっても時間までには悪魔を見つけ出したら、彼女達を殺さないでください」

「まあ、いいですけど。時間は少ないですよ」

 まだ言ってんのかよって顔でパラサイトは私を見てくる。だが、時間がある限り最後まで悪魔を見つけ出す。異端審問なんだから。


「よし、サンドイッチ完成!」

 五人分のサンドイッチが完成して、お盆に入れる。恐らく令嬢の口には合わないだろうけど、空腹よりはマシだろう。

 それと透明な液体が入った小奇麗な瓶も用意するとパラノイアが「水も持って行くんですか?」と聞いてきた。

「朝食で飲んだレモン水ですよ」

「……あれ? レモン水ってあったんですか」

 そう。こいつは感覚が無いから、味どころか皿すら取り入れて二度とこいつと食事を囲まないって誓ったんだ。

 朝食を作ってくれた料理人に頼んで、調理場に置いたままにしてくれたのだ。

「使うんですか? それ」

「ええ、彼女達も喉が渇いたと思いますので」

 レモン水とコップをお盆に置いていると、「メエエエ!」とヤギの鳴き声が聞こえてきた。

 すぐさま、レモン水を持って彼女たちの所に向かった。


 駆けつけるとミーシャが席を立って「どういうことなの!」とエグニとニアを怒っていた。

「あの異端審問の言葉を信じるの?」

「だって、魔法を見せれば帰っていいって言ってくれたし」

「うん」

 ミーシャの言葉に確固たる意志でエグニは答える。ニアもすでに泣き止んで、鼻声交じりだが決意をもって頷いている。

 具合が悪くなったフランは再び簡易ベッドで横になっていたがミーシャを心配そうに見て、席に座っているアイルはオロオロしている。

 どうやら仲間割れをしているようで、カルマがどうしようと言う顔で五人を見ている。


 ミーシャはそれに鼻で笑って「帰るって、何処に帰るのよ?」と言い、エグニは「もうやめよう!」と言った。

「帰る場所なんて無いよ。でも魔法を見せれば終わるんだよ、この状況が」

「異端審問の言葉を信じるなんて!」

 怒鳴るミーシャに「喧嘩はやめよ」とアイルが仲裁に入る。するとミーシャは「何よ!」とアイルに向かって怒り出す。

「あなたはアイルじゃ無いじゃない!」

「……でもアイルとしての過去も意識もあるんだもの」

「だから何よ! 異世界から転生した人間でしょ! だったらアイルでも何でもないじゃない! ただの悪魔よ!」

 ミーシャにそう言われ、アイルは泣きそうな顔になった。


「とにかく! 異端審問の言葉なんて聞かない!」


 ミーシャがそう宣言した瞬間、四人は冷たい目で見ていた。それに気が付いて「何よ、その目」と呟いて四人を睨んだ。




「お待たせしました!」

 急いで彼女たちの所に行くとすぐに彼女たちは喧嘩をやめて、椅子に無言で座っていた。ただ険悪な空気は残ったままだったけど。

「あの、それは何ですか?」

「サンドイッチだ」

「お腹が空いたと思ったから作ってきました」

 ニアとアイル、エグニの前にサンドイッチの置かれたお皿を置くと「ありがとうございます」と声は小さいもののお礼を言ってくれた。

 ミーシャの前に置くと「いらないわよ」とゴミを見るような目でサンドイッチを見る。まあ、そういうと思った。

 私は「別に食べなくていいですよ」と気にしていない感じで言ってあげる。

 そしてみんなの前にレモン水を注いだ。

「この水は朝食に飲んだもの。調理場に置いてありました」

 そういうとミーシャは嫌そうな顔をしていたがレモン水だけは飲んだ。恐らく私と同じ朝食のメニューを食べているようだ。


 フランは簡易ベッドから起きなかったので、サンドイッチとレモン水を持って彼女の所に向かう。

「サンドイッチ、食べれますか?」

「無理そう」

「じゃあ、これだけ飲んで」

 そう言ってレモン水を渡すと彼女は飲んでくれた。

「美味しい水ですね」

「水? ただの水って事」

「……ええ、普通の美味しい水です」

 美しく微笑むフランの前で、私もニヤリと笑った。


「フラン、あなたが悪魔ね」





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