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海に落とされた時、助かったアックスが偽物と知った令嬢の中でアイルだけが「やっぱり」と呟いた。
「アイル嬢、やっぱりとは?」
「お茶会クラブでアックスの部屋を見た時、クローゼットの中に髪を染める液があったんです。黒髪になる液だったのですが、元々黒髪のアックスが使わないでしょう」
「アイル、あの液は三日も落ちないもの。恐らく別の色の髪になったから、重ね塗りして黒の液があったのよ」
「……それだったら、別の色の液があるはずでしょう? でもクローゼットの中には無かったわ」
ミーシャの推理にアイルは疑問を言う。徐々にミーシャの言っていた説がどんどんと崩れていって、ニアやエグニ、アイルは不信感を持ってしまっているようだ。
「アックス自身もどうして偽物がいるのか分からないと言っていました」
私は「ただ」と言って説明を続ける。
「アックスが知っていた物語でなんとなく推測は出来そうです」
「……物語?」
「転生者の説明でこちらの世界によく似た設定の物語があるが、結末などを変えたくないか? と悪魔に持ち掛けられたりします。アックスの転生者も、アックスの身の上が可哀そうだからと思って来たようです」
さて、これはゲームの機械で遊ぶ物語らしい。ゲームの機械について詳しい説明は出来ないので、ひとまず物語の説明だけをしよう。
これは【ウィザード・ナイト 偽りの白金】と言う騎士の物語。アックスと言うキャラは王族の血を引く女性と結婚をする。だがアックスは出生に問題がありそれが原因で女性が別の男と浮気をして、更に彼が悪者扱いにされてしまう。
以前から王族や貴族に不満を抱いていたアックスは所属していた騎士団と民衆を扇動して、クーデターを起こす。国が大混乱になって、ゲームの主人公は騎士になって活躍するって物語のようだ。
この物語の説明をするとミーシャは怒鳴った。
「はあ? あんたの言う事が本当だったら、アックスはこの国でクーデターを起こすの?」
「転生者は起こすつもりはないです。物語ではアックスは普通にエリートコースですぐに騎士になっていましたが、彼は見習いから始めています。つまり物語と逆の人生を歩もうと考えていたようです。だが視察でミーシャを助けてしまい婚約してしまった。しかも嫌がらせが酷く航海中に落とされてしまった。そしてこれを好機と考えて別の国へと向かったって感じですかね」
「こんなの嘘に決まっているでしょう!」
もはや私の話しがミーシャは嘘と思い込んでいるようだ。
もうミーシャは大激怒で何言っても聞いてくれなそうだった。確かに国がクーデターを起こす男と結婚なんて嫌だろう。
ミーシャに話しても聞いてくれなさそうなので、他の令嬢達に質問をする。
「ところでアックスを突き落とした人間は捕まえましたか?」
「ええ、ミーシャ様に妄信していた男です。わざわざ海騎士の見習いに入って、アックスを突き落としたようです」
……この分だと妄信している男一人の犯行としか思っていないみたいだ。誰かが裏で操っているとか黒幕とか考えていない。それもそうか、この子達は貴族の子だもの。そう言った情報も大人達に制御されているんだろう。
ちょっとがっかりしているとアイルが「でも」と話し出した。
「国王は王族や貴族制度をやめようと考えているようです。でも他の貴族や王族は反対しているらしいですけど」
「当然でしょう! お爺様は時々、理想論ばっかり言うんだから!」
「もしかしてそれを反対している人達がアックスを突き落とした。助かったフリをした偽物もアックスの評判を落とすために暗躍していたって感じですかね」
「そんなわけないでしょ! それがあの男の本性だったのよ!」
アイルの推測にいちいち噛みつくミーシャ。
「アイル! いつから異端審問の味方をしているのよ! おかしいわよ!」
「いえ、味方をしているわけじゃないです。……ただアックスの部屋をお茶会クラブのみんなで入った時、ちょっとおかしい点が多かったと思って。髪を染める液とか、色々と……」
「だから!」
ミーシャはイライラしながらアイルに怒鳴りながら説明する。王族の圧で自分の推理を信じ込ませようとしている。
「何でみんな異端審問の話しを信じるのよ! こいつが悪魔なんだから!」
「でもパラサイトは、この異端審問を信じていますよね」
アイルの言葉にパラサイトは久しぶりに声を出して「いや、別に」と答えた。私も含めて「はあ?」と言った。
「あなた方、令嬢の中に悪魔がいる事は間違いないです。ただ異端審問が話している内容があっているかどうかは分かりませんよ」
こいつ! どうして令嬢達の気持ちが揺らぐことを言うんだ! と思ったが、そもそも味方でも無いんだった。パラサイトは悪魔が居なくなればいいだけなのだ。それなら全員死んでも問題はないのだ。
この事でミーシャは勝ち誇ったような表情を浮かべた。
しかし自分を含めてこれから殺されると言うのに、まだプライドの方が大切なんだろうか。それがちょっと分からない。
「嘘かどうかはともかく、シアルとアックスの情報は出しました。なので、皆さんが使っている杖を出してください」
私の条件はこれだ。みんなが使っている杖を出して、特殊な薬で魔力の色を見るのだ。悪魔がかけた魔法の色は赤。みんなの杖先に薬をつけて色をつければ分かる事だ。
「ええ、分かりましたわ」
そう言ってミーシャは杖を出した。バキバキに折れて燃やされた杖を。
嘘でしょ……。と思っていると、他のみんなも細かく折られて燃やされた杖を申し訳なさそうに出した。
壊れていない状態で薬をつけないと、魔力の色が見れないのだ。これだと薬を付けても、魔力の色がわからないだろう。
私が絶句しているとミーシャが「申し訳ございません」と逆に清々しいくらい開き直った態度で言った。
「杖を落として折れてしまい、更に焚き火に落ちてしまいました」
一体どういう状況の場所にいたんだと説明したいが、そんな暇はない。
最悪ってわけじゃないけど、やっぱりこの子達、一筋縄ではいかないみたいだ。
「……あの」
背後から声がして振り返る。カルマの毛で作った簡易ベッドで寝ていたフランが起きて杖を出した。しかも折れて無くて燃やされていない。
「私の杖は折ったり燃やしたりしていないのです」
「フラン! 壊せって言ったじゃない!」
「ごめんなさい。ミーシャ様。でもお父様が買ってくれた大切な杖だったから壊したくなかったんです」
泣きそうな顔のフランから杖を受け取って薬をつけた。あれ? 色がつかない。確か、攻撃の跡は四つしかなく、五人の中で一人だけ攻撃を打っていない子がいたはずだ。
「もしかして私に雷撃魔法をかけなかったのは、あなたなの?」
「……はい。私はほとんど魔法が使えません」
「でも魔法大会時、成績は上位だったはず。あなたが魔法をかけている所を見たことは無いですけど」
「そんなの学園に入れる多額の寄付をして、隠れて先生にやってもらったりすることが出来ますよ」
なんかこの学園の闇を見えた所で、フランの発言で分かった事がある。
「と言う事は、この四人が私に雷撃魔法をかけたんでしょうね」
ニアとエグニとアリルは気まずそうに顔を見合わせた。そしてミーシャの方を見ると驚愕の表情を浮かべていた。
フランが裏切ったのに驚いているのか、それとも……。
*
「それで、どうするの? 異端審問」
私が黙っていると煽るような感じで言うミーシャに私はちょっとイラついた。
「さっさと帰らせてよ。本当に面倒だわ」
「……帰ってもいいですけど、その代わりパラサイトに殺されますよ。それに前にやった魔法大会で陶器の壺を割った時の破片を持ってきたので魔力の色を見ましょう」
「あの、無理です」
アイルが申し訳なさそうにそういうとニアとエグニも気まずそうに話し始めた。
「私達もフランと一緒で先生が代わりにやっています。だからこの陶器の破片には先生の魔力しかついていないです」
「私たち以外貴族の子達も親は自分がいい点を取りたいがために寄付金と言う賄賂を渡して、先生自らやって適当に高得点をつけるんですよ。と言うか魔法の先生以上の点数を稼ぐあなたが、おかしかったんですよ。先生もちょっとしたことで減点しようと思ったけど、すべて完璧だったから満点にするしかなかったって」
やっぱり……と思った。大会前に魔法の先生と貴族の子だけの特別授業があったけど、そう言う事か。
私も異端審問の仲間のケイから聞いていたけど、基本的に多額の寄付を入れる貴族を優遇していて、しかも学園内で裏金とかもあるらしい。悪魔探しだから、こういった学園の膿や裏金については調べなかったようだけど。
「先生より魔法が上手って、やっぱりあなたって悪魔じゃないの」
隙あらば、私に悪魔の疑いをかけるミーシャ。なんだか腹が立つので現実を言ってやろう。
「はっきり言って、この国の魔法レベルは低いですよ」
「はあ?」
「三メートル離れて大きな壺を割るなんて他国の子供だって出来ますし、もっと高度な魔法を使う子だっていますよ」
「別に魔法を使う事なんてしなくてもいいじゃないですか」
突然、パラサイトは話し出した。
「魔法が使えなくても我々が問題を解決しますので」
そうやって魔法を使えない人間を増やして、自分に依存させる魂胆なんだろうな。パラサイトの思惑が何となく透けて見えた。
私がため息をついていると「それでどうするのよ」と上から目線でミーシャは言ってきた。さっきより煽る発言が多いな。と言うか、焦っているのかな?
「どうやって私達の中にいる悪魔を見分けるの?」
「証拠がないなら、仕方がありません。今、ここでやってもらいます!」
そう言って私は新品の杖を五本出して、テーブルの上に置いた。
「とりあえず皆さんが魔法使えば分かるはずですね」
「やりたくありません」
ミーシャがピシャリと言った。この子は……。と思いつつ、私は「駄々をこねないでください」と返した。
「あなたが本当に異端審問なのか分かりませんもの! もしかしたら悪魔じゃ無いんですか?」
「悪魔だったら攻撃なんて受けませんよ」
「あなたが本当に異端審問なのか証拠を出すまで私はやりません!」
ミーシャがそう宣言して、私にじっと睨む。
そんな時、アイルが「私、やります」と言った。
私が反応する前にミーシャが怒鳴り始めた。
「何で? こいつの言う事を聞くの?」
「この人の言う事が何となく合っている気がして……」
「はあ? どこが?」
「だって市民と貴族の間に摩擦があって、クーデターが起こりそうって」
「まだ起こっていないでしょう? これから起こるってんの?」
「それに偽物のアックスを探そうとしないでしょう? それって貴族がアックスを悪く見せようと偽物を送り込んだんじゃ……」
「だからそれがあいつの本性だって!」
「なんで! なんでミーシャ様は貴族や王族の地位が確固たるものって考えているんですか! 現にこうして悪魔が侵入されているんですよ!」
かなりギスギスしてきたと感じた。そして思わず「こういう感じなのかな? ジンロウゲームって」と呟いた。
「そんなわけないじゃないですか、人狼じゃないですよ! 私達が決められないんだから!」
白熱する二人を見ていて、無意識になんとなく呟くとイライラしていたアイルがそう怒鳴った。だがその瞬間、アイルは目を見開いて顔を真っ青にしていた。




