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 ご飯を食べて店の中をウロウロしていると、怪しげな雑貨屋の前で三条さんが立ち止まった。


 店頭にはこけし型のハンディマッサージャーが置かれている。本来はまったくセンシティブではないはずなのに、なぜか気まずくなって目を逸らしてしまう。


 それでも三条さんは意を決したようにハンディマッサージャーの箱を手に取った。


「わたし……これで綺麗になります!」


 え? ただのマッサージ機だよ?


「よ、佳乃!? どうしたの!?」


 俺と同じ疑問点があるようで有愛は三条さんの手を握って尋ねる。


 三条さんは俺の方を見据えてハンディマッサージャーの試供品を向けてきた。


「これですよね? 王道といえば」


「お、王道……?」


 どこに引かれた王の道なのかと思いながらハンディマッサージャーを眺める。


「はい! これをその……ま、毎日使います! 姫川さんに負けないくらい綺麗になりますから!」


 三条さんはやる気に満ちた様子で宣言する。本人がその気になってくれたのは嬉しいのだけれど、ハンディマッサージャーで一体何が変わるのだろう。いやまぁ血行は良くなるかもしれないけど。


 三条さんが前向きになれるなら手段はなんでもいい。


「え……えぇ! 頑張りましょう! 私も応援しておりますわ!」


「はい! 買ってきます!」


 三条さんはハンディマッサージャーの箱を持って店内へと消えていく。


「よ、佳乃とどんな話をしたの?」


 有愛が戸惑いながら俺の隣に来て小声で尋ねる。


「どんな……普通に話しただけだよ。綺麗になりなさい、それが自信に繋がるからって」


「そ、それでマッサージ機……うーん……宇宙だ……」


 有愛も理解に苦しんでいる様子で頭を抱えた。


 俺、なにか変なこと言っちゃったのか?


 ◆


 帰り道、ハンディマッサージャーを抱えて嬉しそうな三条さんとわかれ、俺は有愛を家まで送ることになった。夕日の差し込む歩道を歩いているのは俺達だけだ。


「いやぁ……奏君、今日はありがとうだよ。佳乃も元気になってくれたみたいだし。マッサージ機は謎だったけどさ」


「ま、このくらいならお安い御用かな。トイレの時もありがと」


「えへへ……機転が利くでしょ?」


「でもあの後、丁度トイレを出たタイミングで出くわしたからね」


「え!? そうだったの!? ごめんよぉ……」


 有愛はそれを最後にもじもじとしながら「あー……」とか「うー……」とか声を出しては「やっぱなんでもない!」と一人で悩み始める。


「ど……どうしたの?」


「そ……その……今度は二人でお出かけしたいなぁ……なんちゃって」


「別にいいけど……」


 そんなことで悩んでたの!?


「どっちの格好がいい? 男と女」


「おや。女装でお出かけするのも慣れてきたのかな?」


「そうかも。色んな人に見られるのが気持ち良いんだよね」


「おお……そういうこと……ま、どっちでもいいよ。奏君は奏君だから」


 ニッと笑って有愛は俺の腕に捕まってくる。


「動きづらいんだけど……」


「あー! 照れてるんだー!? 周りから見たら女同士でじゃれてるようにしか見えないって!」


「べ、別に照れてないし……」


 有愛が俺を「ツンデレ悪役令嬢〜」といじっていると家の前に到着。一階は例のアンティーク家具の店と喫茶店が連なっている。


 アンティーク家具の店は明かりがついているので営業しているのだろうけど、喫茶店の方は今日は休みらしい。


「大変だったけど楽しかったよね。あの日」


 有愛は照明が落ちた喫茶店を見ながらポツリと呟く。


 オリーブ・ブランシェットの復活は一日限定だった。


 あの日ほど輝きを取り戻せたと思った日はない。今日も何人もの視線を釘付けにしたが、それでも満たされない気持ちがある。やはりドレスを着て店に立つことで満たされる気持ちがあるのだと気づいた。


「そうだね……またやりたいなぁ……」


 不用意に俺がそんなことを言ったものだから、有愛もその気になって俺の前に回り込んで来て両手を掴む。


「やろうよ! また!」


「でも人が足りないからなぁ……」


「お父さん、次の日は一日寝てたからね……」


「まぁ……バイトを募集してやるって方法もあるのか。俺はコーヒーを淹れたり出来ないから、それができる人……ん!?」


「いるの?」


「あー……心当たりは」


 心当たりはある。俺は自分の輝ける場所を取り戻すため、暗い店内を見つめながら将来を思い描くのだった。

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