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お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 マスタンドレア王国の国王である私には、過去、共に生きようと誓い合った婚約者がいた。隣国ベスプレームの姫君であり、ベスプレーム王国は小国といえど、宝石の輸出で財を成していた。婚姻による縁組で我が国は宝石をより安価に手に入れられるようになり、ベスプレームは我が国の庇護を受けるという事で合意をしていたわけだ。


 そのベスプレームが新興国であるターラント共和国に滅ぼされたのは、私が外交でベルージャ王国を訪れていた時の事だった。私が王都に戻った時にはベスプレームの王族は散り散りになって逃げ出し、行方などはわからないという報告がされるだけ。


 あまり簡単にベスプレーム王国が落されたことに違和感を感じながらも、父が病に倒れ、次の王位は私自身が継承する事となり、王として即位するには王妃を決めなければならないと追い立てるように言われ、国の安定をまず第一と考えた私は、弟であるロムルスの婚約者であったラファエラを王妃に迎え入れる事となったのだ。


 王妃が私に向ける感情がどうであれ、国として回っていけば何も文句を言うつもりはない。そうして生まれたヴァレリオが、私に似ているからという理由で嫌悪されたとしても、そうであろうと思う程度のこと。


 夢見る王妃は、いまだにロムルスの事を慕い続けているようだったが、二人が不貞の行為を行わない限りは、好きにやってくれという投げやりな感情でいたのは間違いない。


 そうして、国が落ち着いて来た頃合いを見計らって、滅びたベスプレーム王国と、本来なら私の妃になる予定であったオルソニア姫についての調査をまとめる段階に入ったのだが、どうやら我が国の貴族と、新興国であるターラント共和国の策謀により、全てがつつがなく進行して行ったという事実が明らかになった。


 全ての始まりは、

「オルネラ・ジョヴァネッリに告ぐ、今まで執拗にキアラを虐め、傷つけてきた貴様は公爵家に相応しいとは思えない。貴様との婚約はここに破棄を宣言し!私はキアラを我が伴侶とする事を宣言する!」

という宣言からで、物事はこちらの思わぬ方向へと動いていく。


 カルディナーレ公爵家の嫡男セルジオはピア嬢の母に婚約破棄を宣言したが、この時にセルジオに抱き寄せられていた男爵家の令嬢キアラは、ターラント共和国の間諜だったのだ。


 すでにあの時から、国崩しの策謀が張り巡らされているような状況だったわけだ。


「陛下、ジョバンネッリ侯爵がいらっしゃいました」

「通してくれ」


 披露目のための舞踏会は中止する形となり、オルネラとルカ親子は不敬罪を適用して牢にぶち込み、カルディナーレ公爵一家もまた、一家揃って貴族牢へと入れている。本来ならジョヴァネッリ侯爵家も捕縛対象であったのだが、紙一重の差で逃げ切った形となる。


「ベルージャ王国の魔術師十人を全て捕縛し、巨人の戒めを解除することが出来ました。やはりヴァレリオ殿下に入って頂いたのが功を奏したように思います。巨人を使っての、ターラント共和国への進軍の許可を頂きたく思うのですが、如何でしょうか?」


「そのような事が可能ならばそうしたい」


 本来、巨人は私たちが住み暮らす場所とは違う大陸で暮らしているのだが、時々、交易のためにクラリア北端という岬を訪れることがある。

 時を狙ったベルージャ王国は巨人の捕獲に成功したようだが、巨人を洗脳した魔術師を殺せば巨人は自由になる。


「オルネラとその息子のルカはだいぶ牢屋で騒いでいるようなのだがね」

「煮るなり焼くなり、陛下のお気に召すままに。我が侯爵家とは縁もゆかりもない人間となっておりますから」


 第二王子であるエドアルドを傀儡にして、カルディナーレ公爵家、ジョヴァネッリ侯爵家、それぞれの家が、我が国を食い物にしようと暗躍した。


 カルディナーレ公爵家の裏にはターラント共和国、ジョヴァネッリ侯爵家の裏にはベルージャ王国がついており、我がマスタンドレア王国をそれぞれの国で切り取ろうと画策していたわけだ。


 私がベルージャ王国へ親善大使として向かったのも、その最中にベスプレーム王国が滅びたのも、カルディナーレ公爵と故ジョヴァネッリ侯爵が絡んでのことであったのは間違いようのない事実となる。


 実の父を病で死んだと報告しながら、実際にどうやって処分したのかを私は知らない。ただ、新しいジョヴァネッリ侯爵は、今のところ王家に楯突く気はないようだ。


 ジョヴァネッリ侯爵が大きく動いたのは、ピアがヴァレリオの伴侶となったからに他ならず、

「姪の幸せのためには粉骨砕身で働く所存にございます」

と胸を張って言う侯爵は相当な狐だ。


 だが、手駒としては丁度良い。


「戦力を動かすことになる、ベルージャ王国への抑えは頼んだぞ」

「お任せくださいませ」

 辞儀する侯爵を見下ろしながら、浮き立つ心を抑えられない。

 自領へ帰る侯爵を見送った私は、自室へと軟禁された王妃の元へ、足を運ぶことを決意した。



ここまでお読み頂きありがとうございます!

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