✒ 似非テイマーで宿泊する
──*──*──*── テイマーテイム亭
テイマーテイム亭は、どうやらモンスターをテイムしたテイマー達がテムモン達と一緒に泊まれる宿屋みたい。
アタシはテイマーになった覚えはないんだけど、ギッちぃを連れているからテイマーとして宿泊が出来るみたい。
──っていうか、この異世界にはモンスターテイマーって言う職業があるんだ。
フィールドって呼ばれる所で、フィールドワークをしながら遭遇したモンスターと戦闘をして、モンスターが弱った所を狙ってテイムをする。
テイムが成功したらモンスターは、テムモンになって飼い主のテイマーのパートナーとなって、旅や戦闘の手助けをしてくれるみたい。
フロントに置かれている【 テイマーのススメ 】っていうパンプレットに詳しく書かれている。
文字が理解出来て読めるのって有り難いよね!
文字は読めても書けないんだけどね……。
スタッフ
「 ──では、此方の書類に必要思考をお書きください 」
肥神瑩子
「 あ、はい… 」
困ったな~~。
チェックインは出来るみたいだけど、アタシは日本語しか書けないんだよね…。
この国の文字なんて知らないし、書けないんですけど!
どうしたら良いんだろう……。
アタシが困っていると、ギッちぃは小さな手でペンを持つと、白紙の書類にスラスラと文字を書き始めた。
ギッちぃって❌を書けるだけじゃなくて文字も書けるんだ…。
賢ぉ~~~~い!
ギッちぃ
「 ギギィ~~ 」
スタッフ
「 わぁ!
文字が書けるなんて、賢いテムモンですね~~~。
それに綺麗な字ですし 」
肥神瑩子
「 あ…有り難う御座います~。
ギッちゃんは手先が器用みたいで…。
文字を書くのが好きみたいなんですよね~ 」
スタッフ
「 色んなテムモンが居るんですね。
文字を書けるテムモンなんて初めて見ましたよ。
──チェックインは完了しました。
此方が宿泊室のルームキーになります。
1階の食堂で食事が出来ます。
20時になると、食堂は酒場に変わるので騒がしくなりますので、御了承ください。
毎食の朝食は宿泊滞在費の中に含まれます。
昼食,夕食,晩酌は別料金になります。
御用のある時はフロントに来てください 」
肥神瑩子
「 有り難う御座います。
チェックイン、出来て良かったね、ギッちゃん 」
ギッちぃ
「 ギギィ… 」
スタッフ
「 何日滞在されますか? 」
肥神瑩子
「 えぇと…… 」
アタシが考えているとギッちぃが器用に指を3本立てる。
スタッフ
「 3日間ですね。
では、3日分の宿泊滞在費を御支払いただきます。
宿泊を延長したい時はチェックアウト時に延長する事を御伝えください 」
肥神瑩子
「 分かりました。
えぇと……宿泊費は── 」
そう言えば……アタシは財布を持っていないし、お金も持ってなかった。
お城の宝物庫で見付けた金銀財宝は全部、ギッちぃが吸い込んじゃったから1枚も持ってない。
アタシがオロオロしていると、ギッちぃが体の中から硬貨を取り出した。
ギッちぃ
「 ギギィギィ 」
スタッフ
「 15.000Cuですね。
お金の計算も出来るなんて賢いテムモンですね! 」
肥神瑩子
「 有り難う御座います~。
光り物が好きみたいで~~ 」
スタッフ
「 確かに光り物が好きなテムモンは多いみたいですよ。
他のテムモンとも仲良くなれると良いですね 」
肥神瑩子
「 そうですね~~ 」
アタシはフロントのスタッフに御礼を言ってから、階段を上がって2階にある宿泊室へ向かった。
──*──*──*── 2階
──*──*──*── 宿泊室
スタッフから受け取ったルームキーを鍵穴へ差し込んで回すと、カチャッと音がする。
宿泊室のドアを開けたら中へ入る。
1泊1食付きで5.000Cuの部屋って、どんな感じかと思ったけど割りとちゃんとした部屋みたいで安心した。
昼食は城中の食堂で食べたから、食堂で食べるのは夕食になりそうね。
宿泊室のドアを閉めて鍵を掛けたら、ドア横の壁に付いているルームキー入れの中へルームキーを入れた。
確かにルームキー入れの中へルームキーを入れていれば、紛失し難くなるよね。
アタシの腕の中から離れたギッちぃはベッドの上に着地した。
肥神瑩子
「 折角だし、窓を開けよっか? 」
そう言ってアタシが閉まっているカーテンをシャッタと開けて、閉じている窓を開けようとしたら────。
?
「 “ ギッちゃん ” は止めろ 」
んん?
何か初めて聞く低音が聞こえる。
然も割りと近くから。
肥神瑩子
「 え?
誰?? 」
?
「 “ ギッちぃ ” だ 」
肥神瑩子
「 うん?
ギッちぃは喋らないでしょ~~? 」
ギッちぃ
「 我は喋れる 」
肥神瑩子
「 はい?
だって──えっ??
──いや、誰!!
アンタ、誰ぇ!!
アタシのギッちぃを何処に隠したの!! 」
ベッドの上に座ってアタシに話し掛けていたのはギッちぃじゃなくて、全く知らない人だった。
茄子の色を濃くしたような黒紫色の衣服に身を包んでいて、日本人のアタシと同じ様な真っ黒な髪。
真っ黒な髪はキラキラと光っていて、腰までストレートになっているけれど、腰から足首辺り迄は緩いカールになっている。
肌の部分は陶器のように白くて不気味で、瞳の色は紫色に光っている。
本当に「 お前は誰だよ!! 」って感じ。
ギッちぃ
「 隠してない。
我がギッちぃだ 」
肥神瑩子
「 …………ギッちぃは何時から人型になれたの? 」
ギッちぃ
「 初めからだ。
力を温存させる為に仮の姿で過ごしていた 」
肥神瑩子
「 仮の姿?
じゃあ、今の姿が本来の姿なの? 」
ギッちぃ
「 そうだ。
我は──、闇魔を司る影魔の王。
愚主の望みを叶える為、馳せ参じた 」
肥神瑩子
「 愚主って──、アタシの事ぉ? 」
ギッちぃ
「 他に居るのか?
我の絶対主は愚主のみ 」
肥神瑩子
「 絶対主って言うなら “ 愚主 ” は止めてほしいんだけど… 」
ギッちぃ
「 愚主は “ 愚主 ” だ。
11ヵ月も我の存在に気付かず放置していたからな 」
肥神瑩子
「 アタシがギッちぃに気付かなかった?
放置してた??
どういう事なの? 」
ギッちぃ
「 愚主が男達に指名されずに済んだのは我が愚主の気配を消していたからだ。
愚主が3食に困らずに済んだも我が人知れず運んでいたからだ 」
肥神瑩子
「 えっ……そうだったの?? 」
ギッちぃ
「 愚主が異世界から召喚された際、我は愚主の〈 守護り手 〉として愚主の中に誕生した 」
肥神瑩子
「 えぇっ…!?
そんなの知らないんだけど… 」
ギッちぃ
「 この世界の人間共の言葉を理解出来ていただろう 」
肥神瑩子
「 あっ……確かに。
耳には聞いた事のない言葉で入って来るのに、頭の中で日本語翻訳されてたような…… 」
ギッちぃ
「 それも我の力だ。
愚主は本来ならば “ 救世主 ” の1人として、王族からもてなされる筈だった 」
肥神瑩子
「 えぇっ……救世主?!
それって本当なの?
アタシ、奴隷にならずに済んでたの?! 」
ギッちぃ
「 如何にも。
愚主以外の11名は救世主として、国王と謁見する事になり── 」
それからアタシは何故か、ギッちぃからクドクドと説教を受ける羽目になった。
ギッちぃの説教は長かった。
だけど、その中で分かった事も幾つかある。
本来ならば、この異世界を脅威から救う救世主は12名居るという事。
現在はアタシが抜けてるから、11名の救世主が手分けをして異世界へ旅立ち、脅威に立ち向かっているみたい。
救世主にはアタシのギッちぃのような〈 守護り手 〉が憑いているみたい。
ギッちぃとは姿は異なるみたいだけど、〈 守護り手 〉は〈 守護り手 〉同士で連絡が取れるみたいなの。
救世主は〈 守護り手 〉を通して他の救世主達の行動を把握したり、情報共有をする事が出来るみたい。
じゃあ、ギッちぃも他の〈 守護り手 〉と連絡が取れるのかと言うと、そうでもないみたい。
アタシが隷属の首輪を着けられて、奴隷にされてからは他の〈 守護り手 〉との連絡が一切取れなくなったらしいの。
隷属の首輪が外れて奴隷ではなくなった今なら、〈 守護り手 〉と連絡が取れるんじゃないかと思うんだけど、ギッちぃは他の〈 守護り手 〉と連絡を取る気は無いみたい。
ギッちぃは闇魔を司る〈 守護り手 〉だけど、他は──火炎,水,風,大地,雷,氷,光,影,聖,魔,無の〈 守護り手 〉が存在するみたい。
んんんん??
影の〈 守護り手 〉と魔の〈 守護り手 〉が居るのに、闇魔の〈 守護り手 〉??
被ってな~~い??
肥神瑩子
「 ギッちぃ、どうしてギッちぃだけ闇と魔の2つを司っているの? 」
ギッちぃ
「 愚主が望んだからだ。
愚主は我に願ったであろう。
よって我は魔素を取り込み変化したのだ 」
肥神瑩子
「 魔素を取り込んだ??
魔素って何?? 」
ギッちぃ
「 詳しい話は夕食を終えてからだ。
行くぞ 」
そう言うとギッちぃは本来の姿から仮の姿へ変身……したのかな?
ギッちぃ
「 行くぞ、愚主よ 」
肥神瑩子
「 11ヵ月も気付かないで放置してたのは悪かったと思ってる!
御免ね!
だから人前で “ 愚主 ” は止めて! 」
ギッちぃ
「 ギギィギィ~~ 」
コ…コイツ…………。
“ 愚主 ” って呼ぶの止めるつもりないんだ!
あんなに上から目線で散々アタシに説教したくせに、ギッちぃは涼しい顔をしてアタシに甘えて来る。
可愛い(////)
アタシは窓を閉じて鍵を掛けたら、カーテンを閉める。
ギッちぃを抱っこすると、ルームキーを取って宿泊室から出た。
──*──*──*── 廊下
ドアの鍵穴へルームキーを差し込んで鍵を掛ける。
ルームキーはギッちぃが体の中へ入れて預かってくれる事になった。
1階にある食堂へ向かう為に廊下を歩く。
1階へ続く階段を掛け下りた。
──*──*──*── 1階
──*──*──*── 食堂
階段を下りて廊下を歩くと食堂に入る。
食堂には既に宿泊客達が席に座っていて、賑わっていた。
アタシは空いてる席へ移動すると、ギッちぃを向かいの椅子に下ろしてから、椅子に腰を下ろして座った。
テーブルには夕食用のメニューが置かれている。
アタシはメニューを手に取ると開いて料理を選ぶ事にした。
夕食だからかな?
ボリュームがたっぷりのセットコースを頼めるみたい。
メイン料理,パン,スープの3点セットみたいで代金は1.000Cuみたい。
パンとスープは、それぞれ300Cu支払うとおかわりが自由みたいね。
テムモン専用のテムモンフードはテイマーが各自で用意するみたい。
ギッちぃは飲食する必要がないみたいだから、食費が浮いて助かるよね。