⭕ テンクゥリアを目指して
──*──*──*── 半年後
≪ 魔王領地 ≫を目指している途中に進路変更をして、創生王が暮らしているらしい≪ テンクゥリア ≫を目指し始めた日から半年が経った。
未だに目的地の≪ テンクゥリア ≫には到着していない。
本当なら≪ ホッカグレク王国 ≫に入国をして、ひたすら北へ向かって≪ ホッカグレク王国 ≫を出国して、≪ テンクゥリア ≫を目指すのが近道なんだけど──、運悪く≪ ホッカグレク王国 ≫は≪ 神聖都グランディア ≫に攻め込まれていて戦争中なんだとか。
そんな訳で近道の≪ ホッカグレク王国 ≫への入国を諦めて、≪ 獣法国ケセルパイダ ≫経由で≪ テンクゥリア ≫へ向かう事になった。
≪ 獣法国ケセルパイダ ≫に入国したら、ひたすら南へ向かって旅を続けて≪ 獣法国ケセルパイダ ≫を出国したら、次は≪ 焔皇国ゼヒットラム ≫に入国をして、ひたすら西を目指して旅を続けて≪ 焔皇国ゼヒットラム ≫を出国しないといけない。
≪ 焔皇国ゼヒットラム ≫を出国したら魔獣の樹海って呼ばれている物騒極まりない森を抜けて、山を2つ越えた先に目的地の≪テンクゥリア ≫がある。
幾らなんでも遠過ぎない??
≪ ホッカグレク王国 ≫に入国が出来たら≪ テンクゥリア ≫への到着も早いのに、≪ ホッカグレク王国 ≫に入国が出来ないってだけで、どえらい遠回りをしないといけないなんて、まるで酷い罰ゲーム。
これは誰かに仕組まれていたりするの??
肥神瑩子
「 ギッちぃ──、こんなに遠回りな旅になるなら教えてよ。
アタシ、そんなに掛からないって思ってたのに、≪ 獣法国ケセルパイダ ≫ ─→ ≪ 焔皇国ゼヒットラム ≫ ─→ 魔獣の樹海 ─→ 山越え ─→ 山越え ─→ ≪ テンクゥリア ≫へ到着する──なんて聞いてない!! 」
ギッちぃ
「 ≪ ホッカグレク王国 ≫が≪ 神聖都グランディア ≫と戦争中である事は、我にとっても寝耳に水だ。
諦めるしかなかろう 」
肥神瑩子
「 これなら魔法を諦めて≪ 魔王領地 ≫へ向かってた方が良かったんじゃないかと思えて止まないんだけどぉ? 」
ギッちぃ
「 それも問題だな 」
肥神瑩子
「 どういう事? 」
ギッちぃ
「 ≪ 魔王領地 ≫へ行くには≪ 異邦国ウディッシア ≫を経由する必要がある。
≪ 異邦国ウディッシア ≫は永きに渡り奴隷だった亜人類が反旗を翻し、人類へ宣戦布告をした事で各地で内乱が勃発し大混乱している。
そんな≪ 異邦国ウディッシア ≫に一度入国すれば、簡単には出国が出来んだろう。
内乱に巻き込まれ、面倒な事になるのは目に見えている。
進路を変更して正解だった 」
肥神瑩子
「 そ、そうなんだ?
≪ 異邦国ウディッシア ≫ね…。
奴隷だった亜人類が人類に反旗を翻すって相当なんじゃないの?
原因は何なの? 」
ギッちぃ
「 偵察に向かわせたパシリによると、原因は〈 皇 〉のようだ 」
肥神瑩子
「 〈 皇 〉って≪ アスラダイル大陸 ≫の持ち主の? 」
ギッちぃ
「 どうやら長期出張から帰還したようだ。
土地を返還してもらう手段として奴隷の亜人類を開放したのだろうな 」
肥神瑩子
「 何で奴隷を選んだの? 」
ギッちぃ
「 本来の力を開放した亜人類は人間より強いからだ。
力を取り戻した亜人類に協力してもらえば、3日もあれば≪ 異邦国ウディッシア ≫を占領出来るだろう 」
肥神瑩子
「 3日で陥落するって事?!
亜人類、恐──強くない? 」
ギッちぃ
「 本来の力を開放した亜人類は脅威だ。
≪ 異邦国ウディッシア ≫を占拠した後は、亜人類を引き連れて近隣諸国へ土地返還を求めるだろうな 」
肥神瑩子
「 ギッちぃ、〈 皇 〉は他の国から土地を返還してもらえるの? 」
ギッちぃ
「 難しいだろう。
全ての国から土地を返還してもらわなければ、〈 皇 〉には戻れない。
それまでは唯の人間と同じだ。
命を狙われれば間違いなく死ぬ 」
肥神瑩子
「 そうなの?
折角、長期出張ってのから帰って来れたのに、直ぐに〈 皇 〉になれないの?
然も殺されるって……、土地は返還してもらえないって事? 」
ギッちぃ
「 “ 土地を返還する ” という事は、“ 地位,財産,名誉,名声,贅沢三昧な暮らしの全てを手放し失う ” という事だ。
王族の頂点から唯の一般人になる。
そんな事を素直に承諾すると思うか?」
肥神瑩子
「 なさそうかな。
…………〈 皇 〉が≪ アスラダイル大陸 ≫の全土を返還してもらうのは難しいんだ? 」
ギッちぃ
「 何度も人類に殺されながら、土地を返還してもらう為に奮闘している。
〈 皇 〉に戻るのは楽ではない 」
肥神瑩子
「 〈 皇 〉に戻らないで普通の人間としては生きられないの? 」
ギッちぃ
「 難しいだろうな。
〈 皇 〉だった記憶を全て覚えている。
≪ 大陸 ≫の持ち主である以上、〈 皇 〉になる事を拒む事は出来ない。
〈 皇 〉が≪ 大陸 ≫の持ち主に戻らぬ場合、≪ 大陸 ≫は荒れ果て、死の大地に変わる。
例え創生王が妖精や精霊に≪ 大陸 ≫の自然環境や自然界の秩序を維持させていても限界がある。
大地全土は枯渇し、疫病が蔓延し生物が死に絶える。
動物は突然変異を得てモンスターと姿を変え、人間に牙を向く。
生物が生きられない死の大地と化す前に〈 皇 〉が再び立つしかない。
〈 皇 〉は≪ 大陸 ≫にとって必要不可欠な栄養分のようなものだ 」
肥神瑩子
「 超魔王の脅威もあるってのに、≪ 大陸 ≫って大変なのね 」
ギッちぃ
「 〈 皇 〉が不在している≪ 大陸 ≫は何処も大変だ 」
肥神瑩子
「 創生王は〈 皇 〉を手助けしないの?
創生王が〈 皇 〉を手助けしたら、少しは楽に土地の返還してもらえるんじゃない? 」
ギッちぃ
「 創生王に助けを求めるならば、〈 皇 〉自らが≪ テンクゥリア ≫へ足を運ぶ必要がある。
創生王あろうと、正式な〈 皇 〉ではない〈 皇 〉の手助けする事は出来ない 」
肥神瑩子
「 そう…なんだ。
≪ ヒュティカ王国 ≫ぐらいは〈 皇 〉に協力出来ないかな?
〈 皇 〉に協力的なら創生王も会うのを拒んだりしないんじゃない? 」
ギッちぃ
「 〈 皇 〉に手を差し伸べ創生王に恩を売るか。
愚主は悪どいな 」
肥神瑩子
「 アタシより悪どいアンタが言うな!
じゃあ早速──、≪ 異邦国ウディッシア ≫で活動してる〈 皇 〉に使者を送って手助けしてあげてよ。
食料とか物資とか不足してるのがあれば──いや、そんな事しなくてもいっか。
≪ 異邦国ウディッシア ≫の国王やら王族,貴族の権力者を魅了しちゃえば良いじゃない?
無駄な争いや血を流さないで≪ 異邦国ウディッシア ≫を占領する事も出来るんじゃないの? 」
ギッちぃ
「 やはり愚主は悪どいな。
流石、我の絶対主だ 」
肥神瑩子
「 褒められても嬉しくないけどね~~。
でも、ギッちぃの臣下達なら余裕で出来るんでしょ?
影は何処にでも繋がってるんだよね? 」
ギッちぃ
「 可能だな。
大量の僕を派遣させる。
国家に関わる重要人物を選別し、僕を取り憑かせる 」
肥神瑩子
「 取り憑かせる事も出来るの? 」
ギッちぃ
「 取り憑かせた人間の寿命が縮まり、更に短命になる故、あまり取り憑かせる事はしない。
使える後任候補を魅了で虜にし、ストックしておけば問題なかろう 」
肥神瑩子
「 凄いじゃん。
じゃあ、それで行こう!
アタシが魔法を使えるようになるた為に──、〈 皇 〉と創生王に恩を売る作戦開始!! 」
ギッちぃ
「 我は愚主の望みを叶えるのみ 」
アタシに出来る事は何もない。
後は、ギッちぃを信じて任せるしかないわけよ。
ギッちぃが1000%信じられる存在なのか──、それはアタシには分からない。
肥神瑩子
「 ギッちぃ、〈 皇 〉が暗殺されたりしないように護衛も出来ないかな?
アタシが魔法を使えるようになる迄は、〈 皇 〉には無事で居てもらわないと困るじゃん? 」
ギッちぃ
「 確かに──。
愚主が目的を果たせる迄は〈 皇 〉の身の安全を護るのは最優先でなければな。
使者に〈 皇 〉の護衛をさせるとしよう。
〈 皇 〉の命を狙った輩の処分はどうする? 」
肥神瑩子
「 そうだねぇ……。
首を切って──、全身の皮膚を剥いで──、綺麗に梱包してから、刺客を送った相手に届けてあげたら?
何で〈 皇 〉の存在が≪ 大陸 ≫に必要なのか──、幼児にも分かる手紙も添えてね!
それでも〈 皇 〉に楯突いて土地の返還を拒否するなら、王族全員を生きたまま全身の皮膚を剥いで国民達へ見せしめにしたら良いんじゃないの?
其処迄すれば、他の国々も土地の返還に対して前向きに考えてくれるかもよ? 」
ギッちぃ
「 生きたまま皮膚を剥ぎ取るか。
それは愉快な御褒美だな 」
肥神瑩子
「 誰への御褒美だよ……。
犠牲を出さずに何かを成し遂げるなんて夢物語でしょ? 」
ギッちぃ
「 愚主の言う通りだ。
犠牲者は悪党に限る 」
肥神瑩子
「 善人を悪党にするのは駄目だからね! 」
ギッちぃ
「 心得ている。
我の僕は善人と悪党を見分ける力がある。
心配ない 」
肥神瑩子
「 そうなの?
アタシには何も出来ないから、ギッちぃに丸投げするから!
任せたからね! 」
ギッちぃ
「 愚主はそれで良い 」
ギッちぃは美麗な顔で上品に笑う。
本来の姿のギッちぃと話してると何か調子が狂っちゃうんだよね?
顔が良い所為かな?
ギッちぃ
「 ──雲が出て来たな。
愚主よ、今夜は雨が降る。
雨が入らぬよう、後ろのシートを閉めよ 」
肥神瑩子
「 そうなの?
直ぐ閉めるね 」
アタシは馬車の後ろの屋根部分に丸まっているシートを下ろして、雨水が馬車の中へ入って来ないよう、シートに付いてる紐を馬車の下にある取っ手へ通して結ぶ。
外の景色は馭者をしてくれているギッちぃの方からしか見えなくなった。
本来の姿をしているギッちぃは、雨が降ろと雪が降ろうと濡れたりしないみたい。
疲れる事もないから、ずっと馭者をしてくれている。
アタシは気が向いたらギッちぃに話し掛けたりするぐらいで、馬車の中でゴロゴロさせてもらってる。
馬車の中にはアタシだけじゃなくて、ギッちぃが不浄から生み出した魔物の子供も4体居るけど、割りと大人しい。
「 キィキィ 」とか「 キゥキゥ 」とか「 ギチギチ 」とか「 キルキル 」とか違う鳴き声を出しながら仲良く静かに遊んでいる。
マグカップぐらいの小さなギッちぃが可愛い。
一体どんな魔物に育つのか今から楽しみだったりする。
ギッちぃみたいに翼が生えていないから飛べないみたい。
ゴハンは魔素みたいだから、餌をあげる必要もないし、排泄もしない。
育てるのが楽な生き物って良いよね~~~。
アタシも躾てみたいな。