産むと言う事
皆から祝福された結婚。
そしてやっと授かった命。
これから家事に子育てにと幸せな結婚生活が待ってる。
同時期に妊娠したママ友とも仲良くなり一緒に散歩させようとか約束する。
事前の検査で女の子だとわかっている。
可愛い洋服を着させて、大きくなったら一緒に買い物に行ったり、好きな人の事話したり。
お腹に手を当てて考えただけで幸せだった。
そして出産。陣痛を乗り切り、痛みを我慢し、やっと生まれた赤ちゃん。
でもおかしい・・・。
元気な産声が聞こえてこない。
周りの産婦人科の先生やら看護師が慌ただしく走り回る。
旦那は別室に連れて行かれ、私の赤ちゃんもどこかに連れて行かれた・・・
????
疲れて意識もハッキリしない中、訳も分からず分娩台の上で、目まぐるしく動く看護師。聞いたことも無いような薬の名前。
赤ちゃんの産声を聞く事無く、私は意識を失った。
次に目が覚めたのはベッドの上、ふと横を見るが、そこに私の赤ちゃんはいなかった。
「私の赤ちゃんは?」
私の手を握る旦那に尋ねると、旦那は「大丈夫」と一言言うだけ。
その瞬間、出産時の記憶が蘇り、私は物凄く不安になって、涙がこぼれおちた。
「私の赤ちゃん・・・ 私の赤ちゃん・・・」
その日は泣き疲れて寝てしまう。
次の日、先生が来て何が起こったかの説明があった。
最初の一言め・・・
「赤ちゃんは無事です。ですが身体に障害が残ってしまうでしょう」
その後、先生は丁寧に説明してくれたけど、私の耳には入ってこなかった。
障害が残る・・・?ん・・・?障害・・・?障害って何?私の赤ちゃんは?私の・・・
どっちでもいい。とにかく私の赤ちゃんに会わせて!
別室にいる自分の赤ちゃんは、管ばかりだった。
小さい手、小さい足。何本も点滴の細い管が通っていて鼻にも酸素供給用の管。
これは何?
思わず思ってしまう。
私の赤ちゃんは?私の娘は?私の・・・
その場に泣き崩れてしまった。必死に支える旦那に寄り添い号泣する。
何が何だかわからない。私はただ泣くしかなかった・・・
病室に戻った私は、何も考えられなかった。
あんな姿の我が子を見て、普通でいられるはずもない。
あれは何?誰の子?私の赤ちゃんは?
未だに受け入れずにいた。
やがて旦那が先生との話を終え、病室に入ってきた。
「ねぇ・・・」
私は言いかけた言葉をとっさに飲み込んだ。
あれは私たちの赤ちゃんなの?という言葉を・・・
私の表情を見て、旦那は何かを悟ったらしい。
「〇〇・・・。俺達の赤ちゃん・・・」
「いやっ!聞きたくないっ!」
私は思わず耳を塞ぐ。
「〇〇っ!」
夫は私の肩を強く掴み、真剣なまなざしで私を見つめる。
「〇〇!あの子が俺達の赤ちゃんなんだ・・・」
「どうして・・・?」
涙がこぼれる。
「どうして私たちの赤ちゃんなの?何で?ねぇ・・・何で?おかしいよ・・・。こんなの絶対におかしい!私達が何したっていうの!?」
やり場のない悲しみ、怒り。私はまだ現実を見る事が出来なかった。
するとふと夫が呟いた。
「ノゾミ・・・」
「???」
夫の顔を見る。
「希美・・・。俺達の赤ちゃんの名前。希美にしよう」
「希美・・・?」
「あぁ。俺達の赤ちゃん。希美。いい名前だろ?」
「希美ちゃんか。いい名前ですね」
ふと先生が病室に入ってくる。
「お母さん。希美ちゃんはね、今必死で生きようとしているんです。はやくお母さんに抱っこされたくて、必死に頑張っているんです。どうです?もう一度希美ちゃんに会ってみませんか?頑張れって一言言ってあげてはくれませんか。お母さんの娘。希美ちゃんに・・・」
私は、黙ってうつむいた。すると夫は言う。
「もう一度見に行こう。俺達の赤ちゃん。希美に会いに・・・。大丈夫。今度は俺がしっかりと支えるから」
私の肩を抱き、静かに説き伏せるように優しい言葉をかける夫。
私はもう一度赤ちゃんに会う事にした。
私の娘・・・希美に・・・
ガラス越しで見る娘は、やはり何本も点滴の細い管が繋がっていて、目を背けてしまいそうになる。
でも私はしっかりと見た。旦那に握ってもらってる手に思わず力が入る。
最初はどうしても管に目がいってしまうけど、でもそこにはちゃんと希美がいた。
小さい手、小さい足、すやすやと眠る顔。
赤ちゃんだ・・・
この時、はっきりと赤ちゃんと認識できたのは初めてだったかもしれない。
「入ってみますか?」
そういうと先生は病室に私たちを招き入れた。
目の前には何本もの管に繋がれた赤ちゃん。
私はその小さな手にそっと人差し指を差し出した。
ギュッと強く握ってくる。
生きてる・・・
強く感じた瞬間だった。
こんな姿になっても必死で生きている。
こんなにも力強く握り返してくる。
この子は生きたいんだ・・・
自然と涙があふれてくる。
旦那も涙ぐんでいた。
「希美・・・ 頑張れ・・・」
これが私が希美にかけた最初の言葉だった
何か伝わったのであれば幸いです。
経験談をこういう小説化にして少しでも多くの人に伝えていけたらと思っています。
そういったご依頼、ご要望については、Twitterからメールを頂けたらと思います。
アカウント:@aoiogami
感想、ご意見。何でもお待ちしています。
是非とも多くの人の目に留まって貰えるよう、拡散していただけると書いたかいがあります。
最後にこんな名も知れない自分にこのような小説を書く機会をいただけた友人に感謝致します。