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154 『ドミナーレスパーダ』

 ミナトは当然感じるはずの痛みを感じなかった。

 左の肘には剣が突き刺さり、貫かれた。

 しかしなにも感じない。

 痛みどころじゃない。

 まったくなにも感じない。

 動かそうと思っても動いているのかわからない。肘から先が外れてもいないが、なにも感じることができない。


「これは……」


 つぶやき、ミナトは苦笑した。

 自分の肘を見てしまうと、続きの言葉が出てこない。

 サツキは口を開く。


「どうなってる?」


 もう、ミナトはサツキの隣にいた。

 先手必勝を考え、繰り返し使っていた《瞬間移動》。それを今はジェラルド騎士団長から逃げるために使い、サツキの隣に舞い戻ったのだ。


「まいったなあ。肘がなくなってる」

「くりぬかれたのか……?」


 さっそく、サツキはミナトの肘のあった辺りに触れてみる。魔法効果を打ち消すグローブである《打ち消す手套(マジックグローブ)》で触れれば、大抵の魔法は効果を失う。

 しかし、ミナトの肘は失われたままだった。


「ダメみたいだね」

「うむ。おそらく、術者であるジェラルド騎士団長に触れることで、ミナトにかけられた魔法の効果が消える。理屈は……失われた肘を所持しているのがジェラルド騎士団長だから。肘を取り戻すには、ジェラルド騎士団長が魔法を使えない状態にならなければならない」

「つまり。大元を絶つ必要があると」

「ああ。たとえば、雨を降らせる魔法で濡れたとして、服に触れても乾燥しないのと同じだ。雨を降らせている術者に触れて、魔法効果を打ち消さねばならない。すなわち、大元を絶つということだ」


 ジェラルド騎士団長は追撃の手を止めて待っていてくれた。そして答えまで提示してくれる。


「その通りだ。我を倒すか、我に触れるか。いずれかを達成しなければ、(いざな)()(みなと)の腕は元に戻らない。貴様の腕は我の支配下にあるのだからな」

「《独裁剣(ミリオレ・スパーダ)》。支配する剣。独裁者らしい魔法ですね」


 さすがに『独裁官(ディクタートル)』の名を冠する術者だけあって、名前負けしない魔法を持っている。

 サツキは《独裁剣(ミリオレ・スパーダ)》の情報をまとめる。

 それを隣のミナトに伝える。


「ジェラルド騎士団長の《独裁剣(ミリオレ・スパーダ)》は、斬ったもの、突いたものをその支配下に置く魔法だ。支配とは所有すること、奪うこと、束縛すること。まだわからないのが、支配したものの動きもジェラルド騎士団長がコントロールできるのか。もしコントロールできるとすれば、そのせいで思わぬ行動を取ってしまう可能性がある。不意打ちに気をつける必要がある。そして、《独裁剣(ミリオレ・スパーダ)》から解放されるにはジェラルド騎士団長を倒すか、俺の《打ち消す手套(マジックグローブ)》で術者のジェラルド騎士団長本人に触れることが条件となる」

「いやあ、とんでもないなァ。了解したよ」


 とんでもない。

 ミナトは心からそう思う。


 ――なんて……なんてとんでもない。僕は《すり抜け》の魔法を使っていたんだ。それなのに、すり抜けられなかった。ジェラルド騎士団長の支配力が僕の《すり抜け》を上回っていたってことだよね。『独裁官(ディクタートル)』。僕の《すり抜け》でもサツキの《打ち消す手套(マジックグローブ)》でも逃れられない支配力。とんでもない相手がいたものだ。


 あはは、とミナトは笑ってしまった。


「ん?」

「ミナト」


 ジェラルド騎士団長とサツキがミナトを見る。


「どうした?」

「どうもしないよ。どうにもならないなって、そう思っただけだよ」


 笑ったのは、ミナトの思考が止まったからである。

 考えても仕方ない。

 今考えてわかることなど一つだけなのだから、仕方がないというものだった。


「なにを言って……」

「剣で圧倒するしかないのか。そういう話だろ? サツキ」


 一瞬でも、ミナトが諦観したと思ったサツキが馬鹿だった。ミナトはそんな弱気になるやつじゃないとよくわかっているのに。

 サツキもつい笑って、あごを引く。


「ああ。シンプルな答えだが、それだけだ」

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