138 『ロックダイアリー』
サヴェッリ・ファミリーの構成員五人を一気に斬り伏せてしまったリョウメイ。
しかしながら彼らはみな生きており、このあとも出血による死亡もない。
殺せない。
そういうルールなのである。
だから決して死なないのだ。
五人のうち四人が気を失ってしまっている中、苦しそうに息をする一人に、リョウメイは話しかけた。
「まだ起きてるんは自分だけやな。質問どす」
「……はあ、はあ」
「おたくらのボスはどこにおわします?」
「……し、知らねえ」
「この空間の入れ替えは、ボスの魔法どすか?」
「……ち、違う」
「じゃあ、だれの?」
「ボスが使役した……なんとかっていう……は! な、なんで……おれは……」
これも、リョウメイが《鍵付日記帳》で嘘をつくのを禁止していることによる。
だから嘘をつけない。
真実を言ってしまうことになる。
「もう知ってることはなさそうやな。おおきに」
リョウメイは頃合いとみて呼びかける。
「さあ、頼むで。リラはん」
「はい、リョウメイさん」
リラはパッと丸い塊を投げた。
それは網だった。
大きな網である。
まるで魚を捕獲するように、サヴェッリ・ファミリーの構成員五人を一網打尽にしてしまう。
つまり、リラが魔法《真実ノ絵》で描いて実体化したのは、大きな網だったのだ。
ただ、リラとしてはこれだけの使い方は予想外であり少し不本意でもあった。
――リョウメイさん、戦い方がほんとお上手。《第三ノ手》と《鍵付日記帳》で翻弄して、剣術でしっかり戦闘不能にまでしてみせた。剣術の腕もかなりのものだわ。リラが網を投げて相手陣営の動きを制限させることで、リョウメイさんをサポートするものだと思っていたのに、ほとんどなにもしないで終わってしまった……ちょっとだけ、申し訳ないというか……。
リョウメイはリラたち士衛組のために動いてくれている上、リラがほとんどなにもせず、五人の相手を倒して玄内が封じ込められている結界まで解除してもらう。
それは、自分のふがいなさを感じるとか以上に、大きな恩を感じるもので、大きな借りをつくったという潜在意識ができてしまうものだった。
むろん、リョウメイはリラ個人にそんな意識を持たせるつもりはなく、リラ個人へは善意の助力、士衛組や玄内へは恩を売りつける算段である。
「さてさて。リラはんが一網打尽してくれたおかげで、あとはマノーラ騎士団に治療してもらえばよくなったわ」
「でも、マノーラ騎士団の方々はいつこちらにいらっしゃるのでしょう。それまでは待っていないといけませんよね」
「せやな。それまでに、たったと結界を解除してしまわな」
じゃらっと、リョウメイは数珠を鳴らした。
「《崩怪》」
安御門家に伝わる陰陽術《八怪学講義》が一つ。
結界をつくることもでき、それは《結怪》という。
だが、同じ《結怪》では他者のつくった結界を察知できても、解除することはできない。
それができるのが《崩怪》だった。
「これはな、結界破りやら物体やら精神なんかを崩壊させられんねん。もちろんなんでもありやないけどな。式神を使って、やれる範囲でな」
「すごい術です」
リラは感心してみせる。
素直な驚きと合わせて、その式神のできる範囲がどれだけ広いものなのか恐ろしくもある。
「あとは、本人が外に出たいときに出たらええ。玄内はんはなんでも手出しするわけやないんやろ?」
「はい。問題が起こったとき、解決するのはわたくしたちです」
「そんなわけで、マノーラ騎士団も来てくれたみたいやな」
「え! もうですか!?」
リラがぐるりと周囲を見回してみると。
確かに、マノーラ騎士団がやって来ているところだった。
それもちょうど角を曲がって姿が見えたタイミングであり、なぜリョウメイが気づいていたのか不思議でならない。
視線をリョウメイに戻したリラに、
「《誘怪》や」
との返事があった。
「誘拐……?」
「たぶん、今リラはんが考えてるんと違うかな。誘い出す技、うちに伝わる陰陽術の一つやねん」




