125 『ジョイントドミネーション』
ルカの懸念していたビーチェの《水ノ人形兵》。
その魔法の応用について。
結論から言えば、毒などではなく、もっと間接的な攻撃だったのである。
――身体に付着した《水ノ人形兵》の水は、旗の司令下に置かれてしまうってこと?
いや、違う。
特定の場所がその対象の可能性もある。
特定の身体の箇所のみが、司令下に置かれる可能性。
――全身、ではない。身体というより、関節かしら。嫌らしい戦法だわ。でも、とても厄介……。
文字通り間接的な攻撃で、応用の利く技だ。
だが、魔法の応用はルカにもある。
武士の甲冑を模したような分離可能な盾。
その盾を目の前に《お取り寄せ》することで、物理攻撃を容易に防げる。
そして、肩のあたりにある大袖と呼ばれる部分のみを出現させれば。
振り落とされた剣を、ピンポイントで防ぐことができた。
《水ノ人形兵》の腕力はそれほどじゃない。
盾で防いだのち、ルカは《思念操作》で槍をコントロールして《水ノ人形兵》の剣を弾き飛ばす。
追撃を嫌って、続けざまに身体を覆うように、甲冑全体を模した大きな盾を出現させた。
「クソ、思ったよりやるわね!」
ビーチェが舌打ちした。
だが、ビーチェの攻撃は終わっていなかった。
別の《水ノ人形兵》が飛び上がり、ルカを飛び越えて着地、背中からルカを攻撃してきていた。
「でもね、《水ノ人形兵》はなにも一体ずつじゃないと動けないわけじゃないのよ! 死ねェ!」
「あ、ルカちゃん!」
ヤエが声を上げた。
――思うた以上やった! もっと早う、あたしが手ば貸していたら……!
しかし、時既に遅し。
今ヤエができるのは、ルカがどれほどの攻撃を受けたにせよ、ルカを治療することと、治療するためにまずビーチェを倒すこと。それだけだった。
「アハハ! アハハハハ! 士衛組の参謀なんて聞いていたからどんなもんかと思ったけど、大したことなかったわね! ちょっと頭を使うのが得意でも、戦場じゃあ頭だけだと命を落とすのよ!」
高笑いするビーチェ。
反対に、ヤエは歯噛みした。
けれども、次の瞬間、ヤエは目をしばたたかせた。
「あれ? 盾が消えて……ルカちゃんが……」
「あん? あんたもあたしがやってやるから……て、え? ええぇぇ!?」
「ルカちゃんが……ううん、ルカちゃんも、消えた?」
盾が消えたのは、《お取り寄せ》の魔法のせいだ。
空間をつなぐ魔法《お取り寄せ》。
これは、つないだ空間を物体が通り抜けることで成り立つ。
つまり。
――盾は元々別の空間にあって、その空間に戻されたから消えた。ばってん、それが意味しよるんは二つ。
二つの意味がある。
――一つ目。ルカちゃんは、まだ生きとって盾を元の空間に戻した。
生きていることは確認できた。死んだら《思念操作》の効果が絶えて盾はそのへんに転がり落ちるだけになるであろうからだ。
――二つ目。そうなると、ルカちゃんは別のどっかにおる。
こうしている間も、ビーチェはキョロキョロと周りを見回した。
「どこに消えた? あの女」
絶対にどこかに隠れている。
なのに、見つからない。
雲隠れされたのだろうか。
「逃げた……わけ、ないわよね?」
ピッと旗を振って、《水ノ人形兵》たちを動かし、いつ奇襲されてもいいように備える。
そのとき、地面がガチャッと開いた。
まるでドアのように。
否。
その地面はドアそのものだった。
なぜなら、ドアノブがついていて、ドアとしか思えぬ長方形がパカッと開いたからである。
そこから、ルカがぬっと顔を出して言った。
「逃げる? まさか。あなた相手に? 私はちょっと攻撃をよけただけ。安全な場所に避難していただけよ」




