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86 『アトーンメント』

 ヨセファは言った。


「ゆえに、(うき)(はし)()()。あなたたち親子の悪意と神を冒涜する悪魔の思想が広がる前に、アタクシがその命で償わせてあげますヨ。ほかの者は正せる可能性が残されているかもしれませんが、あなたたち親子だけは助からない。悪の権化であり根源なのですからね」


 シスターだから、ヨセファは宗教の教えをなにより大事にする。

 神が大事だから、曲げられない。

 だから、ヒナだけは許せないのだろう。

 ほかのだれを許せても。

 ヒナが父と唱えた地動説は、ヨセファたち宗教を重んじる人間には決して受け入れられない思想なのだ。

 しかしヒナにも言いたいことがあった。

 イライラとヒナが話を聞いて、言い返してやろうとすると。

 隣にいたヒサシが軽快に笑った。


「はははは。いるんだよねえ、こういう間違った正義感を振りかざして暴れる人って。うさぎのヒナくん、キミはこんな独善的な人間の話を聞いてはいけないよ。一切聞いてはいけない。『正しさ』にはいくつもの正解があって、そのどれもが同時に不正解。間違いだ。科学的な正解を導き出したことは立派だが、全員がその正しさを享受することもない。キミのように真面目な人間はつい教えてやりたくなるかもしれないけど、こんなわからず屋に話が通じると思うかい?」

「……」


 ヒナは首を横に振る。


「そうだよねえ、その通り彼女はちょっとばかし頭が足りないんだ。可哀想だよねえ。いくら言っても無意味、たとえば『今、有毒ガスが充満してるから外に出てはいけないよ』と教えてやっても、彼女は外に出るのが神の教えだと喚きながらキミを罵って外に飛び出すような、そういう頭の構造をしているわけさ。そのとき外に出るかは個人の自由だけどね。だから、彼女を相手にしてはいけないよ」

「でも……」

「でも?」

「仲間を、手遅れとかバカにされて、お父さ……父の研究もバカにされて、黙っていられないわっ!」

「そうは言っても、たとえば野生動物との会話を考えてごらんよ。野生動物がなにを言っているのか、こっちはなんとなくわかるかもしれないけど、こっちがしゃべったことを相手は理解してくれないんだよ? 威嚇してるなあ、襲いかかろうとしてるなあ、とか思って戦うしかないじゃない」


 ヨセファは、わなわなと震える。


「言うに事欠いて、このアタクシを野生動物にたとえるなど、失礼極まりないのですヨ……!」

「ハックする必要はなし。最初からクラックする」


 ヒサシは杖を握る手の力を強める。

 このつぶやきを聞き、ヒナは内心で首をひねる。


 ――ハック? クラック? なにをする気?


 そろそろと静かに歩き出すヒサシ。


 ――戦うのね、一人で。あたしの手は要らないのよね。じゃあ、この『便利屋』がどうやって戦うのか、見せてもらおうじゃないの! 一応、足にバネの力を溜めて、いつでも跳べるようにしておくけど。


 ヒナの魔法に、《()(つき)》がある。

 これは全身をバネのように使うことができるもので、驚異的なジャンプ力を生み出せる。

 もしヒサシに助けが必要なら、すぐに跳べる準備だけはしておく。

 腰の逆刃刀『(げん)(げつ)』に、ひたっと手を添える。


「ボクのことなら大丈夫なのに」

「念のため、よ」


 そ、と言ってヒサシは杖をくるりと舞わせた。

 ヨセファは人差し指をピッと伸ばして、


「アタクシの魔法は《人格ツボ押しパーソナル・フィンガー》ですヨ。身体のツボを押すとアタクシの思いのままの人格・性格に変えられますヨ?」

「知ってるから説明はしなくていいよ。ボクも結構性格を直したほうがいいって言われることが多い人生だったけど、ボクとしては割と気に入ってるんだよね。あんまり変に気を使う性格だと心労が増えて大変じゃない?」

「その人を小馬鹿にした性格を直してあげますヨ! 人の話くらいは聞くような性格に! それより、どこでアタクシの魔法を知ったのですか!」

「手紙が届いたって言ったら信じる? キミのことが書いてあったよ。アルブレア王国の王女を赤ちゃん同然にしたんだって? そんなおもしろそうなこと、ボクの前でやってほしかったなあ」


 そこで、ヒナはピクッとうさぎ耳を立てた。


 ――そうよ! クコのことがある! このシスターがぶっ飛ばされたら、どうなるの? クコやアシュリーのお兄さんは元に戻るの?

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