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79 『レイズデゼルト』

 グリエルモはしゃべり出した。


「知っての通り、メラキア合衆国はもっとも大きく力のある最高の国だ。その広大な大地の中でも、私はとある砂漠に楽園を築くことに成功した」

「おめでとうございます」

「ありがとう。うん、ありがとう。キミはしゃべりやすい相手だ」

「へえ」


 適当な相槌は、戦機をみるためだ。

 むしろ戦機をみることしか考えていない。

 敵が相手だと、ミナトは話半分に聞き流すのが性格だった。

 しかし、おもしろいことを言われれば興味も持つ。

 あくまでおもしろければ。

 だからミナトはまだその気になっていなかった。


「そこで私は、その楽園に砂漠の都の未来の繁栄を祝い、レイズデゼルトと名づけたんだよ。この意味がわかるかい?」

「未来の繁栄ですか」

「そうだね、私はそう言った。まさにその通りさ。キミほどしゃべりやすい男はそうそういまい」

「なるほどねえ」

「もうわかってきたようだね。そうだね、私はこの楽園を大きくする。しかしわからないのはその可能性の中でなにを選んだのか」

「ですねえ」

「バックキャスティングによって描いたシナリオでは、結果としてこの楽園はカジノの都になる」


 そこで、ミナトは適当な相槌をやめて問うた。


「カジノ?」


 ミナトが興味をそそられたのは、彼の未来像ではない。

 単語、『カジノ』だった。

 そこからミナトは読み解いた。

 彼がカジノに精通していることにより、以下がわかる。

 彼の指先に潜む金色の輝きがやはりコインであり。

 手捌きが名ディーラーか並外れたプレイヤーのそれであり。

 その目の良さも、そうした性質に起因し磨かれたものである。

 ということ。

 したがって、


 ――であれば、もし彼にその手の魔法があるのなら、かなりの実力者であることは疑う余地もないね。


 と結論づけた。


「そう。カジノだ。最上の賭博場だよ。カジノを中心として街がつくられてゆくんだね」

「なるほど。その産業を土台に、都をつくるってことですか」

「もうでき始めている」


 グリエルモの言葉の通りであった。

 メラキア合衆国のとある砂漠には、オアシスと呼ぶには絢爛に過ぎ豪華を極めた都市ができあがりつつあった。

 しかしその豪華絢爛には毒性がある。

 毒の花と形容できるかもしれない。

 彼が砂漠に蒔いたその種は芽吹き、華美な花が咲いた。花は一輪、しかしそれはいずれ花畑となり咲き誇る。

 その花畑はたくさんの人を呼ぶ娯楽であり、人々から様々なものを吸い上げてゆく。

 まさに美しき毒の花だ。

 そして、のちにそこで『カジノ王』と呼ばれる人物がこのグリエルモであり、彼のバックキャスティングはほとんど彼の信じる通りの結果を待つばかりとなり、シナリオの重量と仔細がどうなるかという違いがあるばかりだった。

 決まっているのは結果だけで、シナリオも登場人物も可変なのである。

 また。

 バックキャスティングが完了し、『カジノ王』が君臨したあとの楽園・レイズデゼルトと彼がどうなるのか。

 崩壊か。惨劇か。繁栄か。安息か。

 それは彼も知らないことである。

 かくして雛形のできあがった段階にあるレイズデゼルトだが。

 ある種の傑物とも言える彼には、シナリオを描くという趣向がある。

 そうした性癖は、ミナトという偉才を放っておけなかった。

 ゆえに、グリエルモはミナトに次の問いを差し出した。


「そんなわけで、わからず屋のキミ。どうだろうか、共にサヴェッリ・ファミリーと戦おう。どうかな?」

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