155 『エアフック』
ヒヨクの魔法、《中つ大地》の弱点を推測したサツキはミナトにそれを教えた。また、サツキの狙いも伝えた。
「わかったよ。それで試合を決めようじゃないか」
「うむ」
「僕もそのための隙を作る」
「頼んだ」
作戦は立てられた。
ここからは、勝負が決まるまでサツキとミナトに作戦タイムは必要ない。
百戦錬磨のヒヨクとツキヒもまた、作戦タイムなどもう不要だった。あとはコンビプレーで対応してゆくだけだ。これまでに培ってきた経験で戦える。
「おれたちはとっくに準備できてるけど、そっちもやれるみたいだね~」
「《中つ大地》の弱点、あるならそこを突いてきてよ。返り討ちにしてあげるからさ」
クロノがマイクを握り、高らかに宣言した。
「どうやら次が最後の攻防になりそうだぞ! サツキ選手とミナト選手が《中つ大地》と《シグナルチャック》を攻略するのか! それとも、ヒヨク選手とツキヒ選手がその強さを見せつけるのか! さあ、キミたちのすべてをぶつけ合ってくれー! ファイナルバトルの中のファイナルバトル! スタートだー!」
最後の攻防が始まった。
まず、舞台上で最速のミナトが抜群の機動力でヒヨクとツキヒに迫り斬りかかる。
それに続くサツキも、ヒヨクがミナトとツキヒの剣撃の邪魔をしないよう、またヒヨクに挑んでいく。
ヒヨクは見えないボールを握るように指を曲げてみせ、
「さっきもぼくに負けたのに、またやるの?」
「攻略しに来たんだ」
つかみかかろうと手を伸ばすヒヨクに、サツキも突きや蹴りを繰り出してゆく。互いの攻撃をかわし、両者攻めの姿勢で交戦する。
「ツキヒとミナトくんなら、ミナトくんのほうに分があると思ってるかもだけど、これはダブルバトルだよ?」
「だからなおさら、俺たちが勝てるんだ」
「へえ」
不意に、ヒヨクの手から魔力球体が投げられた。
――《中つ大地》を創るまでが早い! 右後方に引き寄せられる!
ただ右後方に引っ張られるだけじゃなかった。
――しかも、浮く!
やや高い位置に放られたため、ふわっと宙に浮きそうになった。右肩から吸い寄せられる感じだ。
「再び始まった、サツキ選手とヒヨク選手のバトル! ミナト選手とツキヒ選手もやり合っている! 怪我を負いながらの剣撃は、ツキヒ選手に不利かもしれません! 巧みな技で対応していますが、長巻を相手にミナト選手が力でも押しています! むろん速さはミナト選手の専売特許といったところでしょうか、スピードでも翻弄する! だが、ツキヒ選手も踏ん張る! どっちも頑張ってくれ! そして、サツキ選手は……おーっと! ヒヨク選手の《中つ大地》に引っ張られて浮いてしまったー! まるで空中にある見えないフックに引っかけられているみたいだぞ!」
浮いたところに、ヒヨクがつかみかかった。
「全身隙だらけだよ、サツキくん!」
「俺には解除ができる」
「させない」
手を伸ばすヒヨク。
魔法効果を解除できる《打ち消す手套》は、サツキの左手にはめられている。ゆえに、ヒヨクがつかもうとしたのはその左手になる。
だがそこに、サツキは左手の拳を握り下段払いをした。
「ヒヨク、よけて」
ツキヒの声に、ヒヨクは手を引いた。
「あれはかなりのパワーが集まってる」
「よそ見してていいのかい?」
同じ波長を扱う者として、ツキヒにはサツキの《波動》が左手に込められていたのがわかった。しかしミナトも鋭く攻めてくる。ヒヨクにばかり構えない。
「ありがとう、ツキヒ。確かに、あの下段払いはハンマーを振り落とされるような威力だったかもね。でも、おかげで解除されちゃったか」
下段払いが透かされたサツキだが、その手ですぐに自分の身体に触れて、《中つ大地》を解除した。
そして、地面に足を着けた。
「《波動》の力は強まってる。この力で、吹き飛ばす」




