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8 『MENTAL×IMAGE』

 クコはテレパシーでサツキに語りかける。


「(わたしの魔法は、全部で三つあります。それらを総称して、《ハートコネクション》。一つ目は、手をつないだ相手と声を出さずに会話をする魔法《精神感応(ハンド・コネクト)》。二つ目は、こうして額を合わせて、互いの感覚を共有する魔法《感覚共有(シェア・フィーリング)》。三つ目は、わたしが額に手を当てた相手に、わたしの記憶の映像を見せる魔法《記憶伝達(パーム・メモリーズ)》です)」


 急なことに驚いたサツキも、すぐに平静を取り戻して聞いた。


「(これらはいずれも同系統の魔法だから、三種類も使えるんだな)」

「(すべて精神に関わる、人とつながるための魔法ですから)」

「(そして、今は二つ目の魔法《感覚共有(シェア・フィーリング)》を使うのか。文字通り感覚の共有。これによって、大回廊とつながる感覚を共有するってことでいいんだな?)」

「(はい。三つ目の魔法は、あとでわたしについて理解してもらうときに使わせていただきますね)」

「(この世界樹ノ森を出たあとだな)」

「(ええ。では、始めます。一度魔法を解きますね。魔力を使用していない状態からいきます)」


 すーっと、クコは魔法を解いた。

 それから、魔法を発動させた。

 魔法は論理的であると同時にとても感覚的で繊細なものだという認識が、クコにはある。人によって違うのだろうが、クコはサツキもその感覚で伝えて問題ない気がした。サツキならあとで自分なりに解釈してくれる。だから、自分の感覚をそのままに伝える。

 世界樹からあふれる魔力を、そのまま身体に流し込み、魔法を発現させる。流れ込んできた魔力。その感覚を、サツキに共有させる。


 ――まるで、全身になだれ込んでくるみたいだ。


 しかし、微細な感覚でもあった。ただ外から取り込むだけの感覚でもなく、自然と一体になって清浄な空気が身体を循環するような、そんな心地のいい一体感。

 呼吸とともに取り入れた魔力を、全身に広げて染み渡らせるようでいて、血液の循環のように全身をめぐるようでもある。魔力が手足や指の先まで各所に集中する感覚を、クコはサツキに共有させた。


「(サツキ様? いかがですか? 感じてますか?)」

「(わかったよ。大回廊へのアクセスっていうのが。小回廊の流れや循環っていうのもさ)」

「(よかったです。サツキ様と共有しているこの感覚から、そう言ってくださると思っていました。サツキ様は感じやすいみたいですね。魔法の適性が高いのでしょう)」

「(たぶん、クコの伝え方がうまかったんだ)」

「(ふふ。サツキ様の才能です。これを覚えておいてくださいね。サツキ様なりの感覚を培うまでは、これを頼りにしてほしいです)」

「(うむ。わかった)」


 ここで、クコはふっと額を離した。


「(はいっ。これで、あとはサツキ様がご自身の感覚で世界樹からあふれる魔力と大回廊をつなぎ、そのコントロールを練習するのみです。感覚が残っているうちに、さっそくやってみましょうか)」


 クコは手を離し、サツキが集中しやすいようにする。一応、この間もクコは敵への警戒を怠らない。

 サツキはふぅーっと息をはき、目をつむる。

 さきほどの感覚を再現するように、自然と一体になるイメージを強く持つ。

 そこへ魔力が流れ込む。

 流れ込んだ魔力を体内で循環させ。

 右手に集中させる。

 今度は左手。

 左足。

 最後に、右足。

 右足に魔力があるイメージのまま、サツキは右、左、と踏み込み、右足で踏み切って前方に飛んでみた。

 ふわっと。

 いつもより、軽く遠くへ飛べた。

 クコが駆け寄ってきて、両手でサツキの左手を握った。


「(それです。今の跳躍力、大回廊へのアクセスと小回廊の魔力コントロールが成功した証ですね。おめでとうございます。わたしも、正直こんなにうまくいくとは思いませんでした)」


 当初、クコが思い描いていた予想図では、魔力が大回廊を通るまで数日はかかり、サツキが魔力コントロールとしてどこか一点に魔力を集中させることができるのがさらに数日。それがまさか、自分の思いつきで感覚の共有によってここまで難なくこなすとは、完全に予想外だった。


「(自分でも驚いたよ。この世界はすごいな)」

「(すごいのはサツキ様です。これをしっかり身体で覚えましょう)」

「(ああ。なんだかすぐに忘れそうだしな。ちゃんと記憶しないと)」

「(わたしがサツキ様の身体に覚え込ませて差し上げます。しばらくは、毎日やりましょう)」

「(うむ)」

「(簡単に忘れるものではありませんが、常に意識しコントロールの練習を積むことで、魔力の流動が素早く正確にできるようになります)」

「(つまり、小回廊を流れる魔力のコントロールってことだよな。自分なりにどこへ集中させるかイメージして、コントロールする)」

「(はい。ただし、一つ注意点です。身体の一カ所に魔力を集中させるには、魔力と体力の消費を伴うのです)」


 サツキは空いている右手をあごに当てて、


「(まあ、理屈はわかるよ。魔力は無尽蔵に供給できるわけじゃないってことだろう。そして、魔力を使用するとその分はなくなり、体力の回復と共に魔力が回復するのを待つ必要がある。魔力の使用には、一点に集中した力を解き放つことも含まれるし、魔力を火に変質させて実体化したりしても消費される、ってところだろうか)」


 自分がやってきたゲームのマジックパワーとかステータスなどの理屈と照らし合わせて考えると、その辺が妥当だ。

 しかしゲームのステータスなどの仕組みを知らないクコは、即座に理解を示すサツキに驚くばかりだった。


「(サツキ様、本当に、この世界に来るのは初めてですか?)」


 いぶかしむ目で見られてしまった。サツキはポリポリと人差し指で頬をかく。


「(俺のいた世界での創作では、そういう理屈のゲームやアニメがあるんだよ)」

「(サツキ様)」

「(なんだ?)」


 ぐっと顔を近づけて、クコが真剣な顔で聞いた。


「(アニメ、ゲーム、とは? なんですか?)」

「(…………)」

「(…………)」

「(今話さなきゃダメか?)」


 くだらない質問をされたという様相がサツキの戸惑ったような顔からわかったので、クコは一歩引いて首を横に振った。


「(いいえ。その、あとで、教えてください)」

「(そうだな。今教えるものじゃない。もっと余裕があるときでいい。説明も面倒そうだし。まあ、俺のいた世界にはそういったものがあったんだ。……さて、あとは魔法について今覚えることはないよな?)」

「(そうですね。魔力コントロールの練習もあとでやるべきことですし、今は先へ進みましょう)」


 クコがサツキの手を引いて、再び、二人は歩き出した。

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