79 『スペシャルエフェクト』
現状、サツキは右耳が斬り落とされ、そのほか全身に五カ所の傷がある。各所から血が流れ、出血量も多くなってきていた。
サツキが傷を負う隙をつくったのは、ミナトの刀が折れたことであった。
その攻防は、ミナトとしては順当に攻め方を試していった結果による。
ミナトはまず、カーメロと戦っていたときに使っていた刀を鞘に収めた。
白い鞘を持つその刀は、『太加天之白菊』。
世に五振りしかない、『天下五剣』の一つだ。
晴和王国の刀には、位がある。ただの無名の刀にはそれがなく、サツキの刀も位を持たないのだが、世に出てからある程度以上の時を過ごし、人に知られた刀だけが位を与えれらる。
そんな選び抜かれた位を持つ刀は、現在、二百三十三振りある。
頂にあるのが、『天下五剣』の五振り。
それを持つ者は普通の人間ではない。特別な家柄や特殊な場所で見つかったもの、特級の逸話が語られるような刀なのである。まさに物語の中の刀であり、実物が人の目に触れることさえ希少だとされている。
続くのは、『最上大業物』十二振り。
家系や伝承に起因するものもあるが、並外れた武士や剣士、桁違いの金持ちに所有者を知られる。
さらに、『大業物』二十一振りも、よほどの人物でないと手にすることができない。
だが、その下に位置する『良業物』五十振りは、時たま見かけられる名刀である。ミナトのもう一つの刀、『戸和安寧』がそうだった。
そして、『業物』八十振りであれば、それでも数こそ少ないが、巡り合わせで手にすることがあるかもしれないと言われる。
ただ、それらのどれとも区別がつきにくい名刀を、『混合』六十五振りと呼び、妖刀なども混じる極めて判断に難しい刀がここに分類される。
ミナトの愛刀は、天下五剣の『太加天之白菊』。
これを使って《ダイ・ハード》を崩しにいくことも考えたが、刀をダメにしてしまうかもしれない。
《ダイ・ハード》は硬化する魔法でありながら、ただ人や物を硬く強くするばかりでなく、弾性をなくして壊れやすくすることもできる。そのため、スコットは自分とカーメロの肉体、自分の鎧や二人の武器は最適な硬さに調整されており、対戦相手の硬化の幅を変えることで破壊する戦法を使う。
また、《ダイ・ハード》の発動条件は、スコットの肉体に触れること、スコットの武器・バトルアックスと彼の鎧に触れることである。
したがって、スコットと彼の鎧、そして彼の武器・バトルアックスに触れると、この硬化が付与されてしまうので、接触する攻撃は避けるのが賢明なのだ。
ゆえに、ミナトは直接斬るのではなく、斬撃を飛ばすといった、空気の刃を用いることにした。
もう一振りの刀、『戸和安寧』はそれにもってこいの刀だった。
この刀は、ミナトが士衛組に加入する直前に、王都を訪れたときに手に入れた。
人助けのお礼としていただいたのだが、そのとき、扱いが難しい刀だと言われたものだ。
元の持ち主である剣術家・定富武三は、こんなことも言った。
「一振りすればなにか一つを斬らずにはいられぬ代物です。離れた場所にある物かもしれないし、近くの物かもしれない。斬撃を飛ばすとも違う」
ただの斬撃ではない空気の刃は、ミナトによって新技、《亜空斬》に昇華された。
サツキの推論によると、次のようになる。
《亜空斬》は、ミナトが亜空間を創り出す技だという。空間を斬り、空間にひびを入れて、そのひびの輪郭に亜空間ができてしまった。そして、この亜空間には、触れた物を傷つけてしまう効果があるのではないか。だから斬撃とは違う、というのだ。
これが数日前、コロッセオでの試合でミナトにより創造された。
ミナトはこの技で攻めるつもりになったのである。
「粉々にされたくはないので、いろいろ試させてもらいますよ」
「やれるものならやってみろ」
と、スコットがバトルアックスを構えた。
「では、参ります。《亜空斬》」
即座に、ミナトは抜刀した。




