67 『シルバーアロー』
先に登場したのは、騎士とエルフだった。
さっきの試合にいたトールヴァルドも騎士だったが、彼よりも軽装の騎士服で、エルフのほうは被っていたフードを取り、とがった耳が見えた。
「エルフって、本当に耳がとがってるんだな。ほかに普通の人間と違った特徴はないようだけど」
「そうですね。エルフはそれ以外は人間と変わりません。やや線が細いタイプの方が多く、髪は金色の方が多いでしょうか」
サツキとクコが話していると、アシュリーがおかしそうに笑った。
「サツキくんって物知りで分析力もすごいのに、こういうことは知らないんだね。なんだか意外」
「確かに、サツキくんってたまにだれもが知ってる常識とか知らないよね」
と、シンジも言う。
だが、それも当然だった。
サツキはクコによって異世界から召喚され、この世界に来てまだ半年にも満たないのだ。
これまでクコたち士衛組の仲間たちにいろいろなことを教えてもらってきたが、知らないこともまだまだたくさんある。
リラが笑顔でそれとなく話を変える。
「『森の召喚士』とのことですが、召喚には笛を用いるのでしょうか。手には横笛が握られていますね」
「うん。それもこのあと見ていればわかるよ」
シンジがそう言うと、クロノが選手紹介をする。
「フードを外して登場だ、『森の召喚士』狗論目林羅歩選手! 白銀のランスを光らせて、『シルバーアロー』辺入吹里譜選手がそれに続く! 果たして彼らは、前回大会準優勝バディーに勝てるのか! 注目が集まります! そしてそして、その前回大会準優勝、『仙龍』于淵選手と『仙龍の爪』温韋選手も入場だー!」
そのあと、反対側から老人と少年が出てきた。老人は華奢でとても強そうには見えないし、少年も年相応の体格でここまで勝ち進んできたのが信じれないほどだった。
けれども、試合が始まると実力は本物だということを見せつけてくれた。
開始直後、『森の召喚士』ラーフが横笛を吹いてうっとりする音色と共に馬と大きな鷲を召喚。
その馬に『シルバーアロー』フィリップが乗り、ランスを手にフィールドを駆ける。
ラーフは大鷲に乗って上空からクロスボウを構える。
それに対して、于淵が魔法を使ったのか、サツキには彼の周囲どころか舞台全体が魔力に包まれたように見えた。
黎之国出身の武闘家二人は、仙龍酔拳の使い手という触れ込み通り、酔拳のしなやかで読めない動きであらゆる攻撃を捌き、ラーフとフィリップを順番に場外にしてしまったのだった。
試合後、サツキはつぶやく。
「あの酔拳、もし決勝で当たったらどう対処していいかわからないな」
「だねえ。フィリップさんのランスのが先が飛び出したのには驚いたけど、それさえ意にも介さなかったもんなァ」
ランスはロケットのように飛び出し、于淵と温韋を追跡するように攻撃した。それが異名『シルバーアロー』のゆえんである。だが、これを鮮やかにかわして墜落させ、接近戦でもランスを相手に懐に入って吹き飛ばしたのだ。
一番印象に残ったのはその『シルバーアロー』のランスだったが、それは派手で見栄えのする魔法だからで、サツキは特に于淵の魔法が気がかりだった。
「今の試合だけでは、彼らの魔法はわからなかった。だが、次のヒヨクくんとツキヒくんの試合では解析してみせる」
「そうだね。でもサツキ、僕らの試合が迫ってる。行かなくちゃ」
「うむ。行こう」
そんなサツキとミナトの元に、スタッフのお姉さんがやってきた。試合の始まりを告げに来たのである。
「サツキさん、ミナトさん。セミファイナルが始まります。準備をお願いします」
「わかりました」
「はい、今行きます」
席を立つ二人に、クコたちがエールを送った。
「頑張ってくださいね! サツキ様、ミナトさん」
クコから始まってみんなが応援の言葉をくれる。
最後に、ヒナが言った。
「相手が強いのはわかってる。でも、勝ちなさいよね!」
「勝ってくるよ、ヒナ」
「うん」
とヒナが力強くうなずき、サツキは試合に向かうのだった。




