34 『ロイヤルストレートフラッシュ』
クコたちは、手札はどうすればいいのかを話していた。
アキとエミは「全部変えちゃえばいいんじゃない?」とか適当なことを言うし、バンジョーは「そういうもんか」と理屈もわからず納得するし、クコやリラが真剣に考えても運任せなゲームで最適解など得られないしで、実のある会話にならなかった。
そこで、チナミはブリュノに聞いてみた。
「ブリュノさんはどう思いますか」
なんとなくサツキに似た思考力を持つこの小さな少女を気に入っているブリュノは、思うままに言った。
「チナミくん、キミにしては野暮なことを聞くね」
「はあ……」
「なんてことはない。答えはシンプルだ。サツキくんとミナトくんが選んだカード、その結果は単なる勝敗を彼らに与えるものじゃない。彼らが導かれたシチュエーションこそ、彼らの未来に必要な試練となる。大事なのはそのあと。それだけさ」
「なるほど」
チナミは妙に納得してしまった。
サツキとミナトが勝てるように祈るでもなく、二人が勝てるためにいっしょになってポーカーを考えるわけでもない。ブリュノにとって、サツキとミナトが勝つことは決まっていて、それをどんなプロセスで乗り越えるのか。彼はただ見たいのだ。
「負けても、大丈夫ってことかな?」
ナズナが不安そうに尋ねるので、チナミはブリュノの代弁をする。
「そうだね。少なくとも、このポーカーでは。そのあと、サツキさんとミナトさんがどうやって戦うのか。それを見守ろう」
「うん」
サツキとミナトは、カードを選んだ。
「クローバーの3とハートの4をチェンジで」
「それでいいのね?」
バージニーに念押しされ、
「はい」
とサツキが答える。
改めて、『司会者』クロノが説明してくれた。
「二人はクローバーの3とハートの4を選んだー! そうなると、残るカードはスペードのエースとスペードのジャック、スペードのキングとなります。新しい二枚がこのうちのどれかとペアを作るか、はたまた同じスペードのマークでフラッシュになるか、あるいはスペードのクイーンと2を引くことでストレートフラッシュを作るか。それとも大穴、スペードの10とクイーンでロイヤルストレートフラッシュを作れるのか! いずれかの役に期待したいところです!」
新しい二枚のカードを、サツキは受け取った。
これを見ても、サツキは表情を変えない。
しかし、サツキの後ろから肩にあごを乗せるようにカードを覗き込んだミナトは、おかしそうに笑った。
会場のだれも、これだけではどんな役になったのかわからない。
サツキはカードをひっくり返す。
みんなに見えるように手に持つと、モニターに映し出された。
クロノが叫んだ。
「出ましたー! なんとなんとなんとーっ! サツキ選手とミナト選手が引いたカードは、スペードの10とーっ! ハートの2だーっ! 惜しい! なんという神の気まぐれなんだー! これまでこのコロッセオで幾度となく行われてきたバージニー選手の《ポーカーチャンス》ですが、未だかつてロイヤルストレートフラッシュを作った人はいませんでした! ついにサツキ選手とミナト選手がやってくれるかと期待がありましたが、残念! これによって、ダメージが倍になってしまうー!」
バージニーはにこりとして、二人に伝えた。
「残念でしたー! 本当はサツキくんともっともっと遊ぶために試合を長くやりたかったけど、ルールはルールだからね。120点あった《ダメージチップ》が倍になりまーす! そして! 240点になったこのチップを、すべてミナトくんに換金します!」




