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95 『サムデイ』

 (せい)()(おう)(こく)()()(くに)

 イストリア王国のマノーラからは遠く離れた、極東の島国。

 二宮三十三国に分かれた(せい)()(おう)(こく)の中でも、その中心地『王都』(あま)()(みや)のすぐ西に位置する小さな国が武賀ノ国である。

 国主・(たか)()()()の住む鹿()()()(じょう)から、二人の人間が出て行く。青年と少女だった。

 青年は二十三歳になる優男で緑色の着物をまとい、少女はまだ十歳。薄紅色の着物におかっぱ頭の髪を揺らせる。

 二人は城下町を散歩していた。


「あ、トウリさん。どうも」


 茶屋の店主に声をかけられ、青年はおっとりとした微笑で応じる。


「こんにちは。今日も賑わっていますね」

「ええ。おかげさまでこの通りです。トウリさんたち鷹不二氏の政治がいいんだな、きっと」


 ふふ、と青年・トウリは笑ってほんの少し談笑した。


「ウメノちゃんも元気がいいから、なんだか景気がよくなるよ」

「どういうことですか? 姫にはわかりません」


 首をひねって理解に苦しむ少女・に、トウリは簡単に教えてやる。


「景気というのは、町の経済のことだよ。つまり、町にお金が入ってきてくれて、町が賑やかになると、景気がよくなっていると言えるんだ」

「じゃあ、姫の元気は関係ありません」


 不思議そうにトウリを見上げるウメノだが、茶屋の店主は楽しげに言った。


「そんなことァないさ。ウメノちゃんの元気でみんなが明るくなって、お金の回りもよくなるんだからね」

「まだわかりません」


 困ったようなウメノに、トウリと茶屋の店主は笑った。

 トウリは、名は(たか)()()(とう)()。鷹不二氏のナンバー2であり、国主・(たか)()()(おう)()の双子の弟でもある。『(ほほ)()みの(さい)(しょう)』と呼ばれ武賀ノ国の民に親しまれていた。

 ウメノは、名を(とみ)(さと)(うめ)()。鷹不二氏と同盟関係にある(さん)(えつ)(くに)の姫で、『(てん)(しん)(らん)(まん)()(ひい)(さま)』と呼ばれて、鷹不二氏の城で共に暮らしている。本来なら他国の姫がわざわざやってきて生活することは、人質を差し出したことになるのだが、ウメノはトウリのことを気に入って押しかけてきたのである。

 二人はお茶とお菓子をいただき、また散歩に戻った。


「また来てくださいね!」


 茶屋の店主が笑顔で送り出してくれて、ウメノは手を振った。

 トウリは涼やかな顔でつぶやく。


「こうした散歩から得られる情報は、時にとりとめもないが、時に役立つものだ」

「今日はどっちですか? トウリ様」

「今日は、とりとめもないかな」


 あはは、とウメノはおかしそうに笑った。


「西の空が綺麗だ」

「本当です」


 ウメノも西の空を見上げて、それから言った。


「お兄さまたちはイストリア王国でリラさんに会ったでしょうか?」

「さあ。どうかな。でも、ここからは交わらずにはいられなくなるだろう。ロメオくんからも連絡があった」

「ロメオさん? あ! ヴァレンさんたち革命家の」

「うん。『ASTRA(アストラ)』は革命軍であり、スパイ組織であり、盗賊団とも言われている。だがそれは見た人が決めることかもしれない」

「姫は、『ASTRA(アストラ)』は革命家だと思います」

「どうして?」

「だって、泥棒するところもスパイをするところも見たことないからです」

「ふふ。姫に見つかっては、泥棒も失敗だしスパイも失敗だね」

「はぅっ、確かにそうです」


 トウリは話を戻す。


「それで、そのロメオくんからおもしろい話を聞いた」

「なんですか?」

()(えい)(ぐみ)との接触と同盟関係を築いたことの便りがあったんだ」

「あ! 士衛組って!」


 と、ウメノは今日一番の大きな声を出した。周りの人たちもウメノに視線が集まるが、ウメノが口を押さえてちょっと頬を赤らめると、みんなすぐに彼らの日常に戻る。


「そう。例の組織だ。士衛組には、ミナトくんとリラさんがいる」

「気になる組織ですね!」

「うん。彼らとつながりを持った時点で、巡り会うために物語は紡がれてゆくことになる」


 トウリがそう言うと、ウメノは弾けるような笑顔で大きく息を吸い込んだ。


「風の香りが気持ちいいです! この向こう側で、みなさんは物語を描いていくんですね! 姫も早くみなさんに巡り会いに行きたくなりましたよ!」

「しばらくしたら、我々もきっと物語に参加することになる。それでいい。遅くはないさ」

「はい」


 素直に返事をして、ウメノは城下町を駆ける。

 イストリア王国、首都マノーラにおける物語は、ここから加速してゆくことになる。

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