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79 『アドバイス』

 (はく)(ほう)は勝利を悟った。

 これまで、彼は魔法を使わず試合に勝ってきた。

 彼の魔法がバトルに適したものではないためで、魔法を使わないポリシーだと周りには言ってきたが、本当は魔法など使えない。

 魔法などなくても強いことが正義だと信じて自らを鍛え、拳法を磨いてきた。


 ――城那皐といったか。まだ十三という若さでよく鍛えている。だが、この私に勝つにはまだ早い。相手を観察するための緋色の目、それだけでは私には届かない。


 なめらかな動作で腕を引いて、技を繰り出す。


「奥義、《(はっ)()(ろく)(じゅう)(よん)(しょう)》!」


 無数のてのひらが連続して掌底を打ち込む。

 このとき。

 なぜだか、サツキはふっとロメオの言葉を思い出した。

 それは、


「サツキさんには、勝機を見つける目があります。そして、どんな壁も打ち破る《波動》の力が。あなたなら、必ずワタシの元までのぼってこられますよ」


 という言葉だった。




 思い出した言葉は、クコの誕生日のとき、ロメオと話していたときに言われたものだ。

 ロメオは、夕方にも修業に付き合ってくれて、《波動》の力を知り、そのあともサツキの可能性を考えてくれていたらしい。

 みんなで誕生日ケーキを食べていると、ロメオはサツキに声をかけてくれた。


「楽しんでいますか?」

「はい。クコの誕生日をこんなに賑やかに祝うことができて、『ASTRA(アストラ)』のみなさんには感謝しています」

「士衛組のみなさんが準備を頑張ったからです。時に、サツキさん」

「なんですか」

「ワタシはあのあとも、あなたの魔法、《波動》について考えていました」

「《波動》、ですか」

「とても特別な力ですから。これを使いこなせれば、どんな相手にも負けないと思ったんです」

「どんな相手にもっていうと、語弊がありそうですが」


 とサツキが苦笑すると、ロメオは微笑を浮かべ首を横に振った。


「いいえ。本当に、どんな相手にも負けないでしょう。サツキさんは刀も使いますよね。刀はパワーを乗せる媒介となり、その《波動》の力を伝えきることができない。だが、刀が有効な相手もいる。どちらも使えることがサツキさんの強みでもあります」

「どちらもまだまだ修業の身です。特に、刀は半年も経験がありません」

「それでもいいでしょう。《波動》を直接叩き込める空手があるのですから。空手を存分に鍛えてください」

「はい」

「サツキさんは、指揮官の才能もあるとレオーネは言っていました」


 急になんの話だろうとサツキが思うと、ロメオは続けてこう言った。


「だが、集中力もすごい。あるときはその集中力が打破する戦略を導き出しますが、その集中力は目の前の相手と戦うときにより大きな力を発揮します。そして、サツキさんには《緋色ノ魔眼》、相手のすべてを見透かす目がある。これは、勝機を見つける目です」

「勝機を?」

「観察力、洞察力、分析力。それがサツキさんとその瞳にはあります。最初は守りの姿勢で相手を観察するところから始まっても、サツキさんは攻めの姿勢を忘れない。気づくと、攻勢に出てくる。コロッセオには、安全かつ着実に勝つことばかり考える魔法戦士もいますが、それでは勝てない。魔法と合致したカウンターパンチャーでもないのなら、攻めの気持ちを忘れてはいけません。そのためには、自分の力を信じる気持ちと、恐れない心が大事です」

「なるほど。勉強になります」


 サツキにとっての自分の力とは、集中力と空手と剣術と《波動》の力であり、相手をよく見る《緋色ノ魔眼》のことだろう。そこに、勝機を見つけて恐れず攻める姿勢が加われば、どんな相手にもきっと勝てるとロメオは言ってくれたのだ。


「サツキさんには、勝機を見つける目があります。そして、どんな壁も打ち破る《波動》の力が。あなたなら、必ずワタシの元までのぼってこられますよ」

「はい。頑張ります」


 コロッセオに参加できる期間から考えて、ロメオと戦うことは簡単にはできないだろう。だが、それは普通にやっていたらの話だ。今度開催される『ゴールデンバディーズ杯』で優勝すれば、ロメオと戦うチャンスが与えられる。

 サツキはロメオとの会話を心に刻んだのだった。




 そして、現在――。

 あのときのロメオの言葉を、サツキは不意に思い出した。

 同時に、ロメオと話した会話の内容も走馬灯のように頭を駆け巡り、サツキに大事なことを思い起こさせてくれた。


 ――ありがとうございます、ロメオさん。……そうだ。勝機を見つけるんだ。俺には《波動》がある。迷うな、相手に近づくのを怖がるな。打ち破れ。


 自分に言い聞かせ、サツキは拳を強く握った。

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