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75 『オベリスク』

 サツキとチナミはジェラートの屋台を離れ、先ほどスサノオが座っていたらしいあたりで食べることにした。

 記憶では、サツキのいた世界では映画ローマの休日の影響で、スペイン広場の階段に座ってジェラートを食べる人もいるようだが、現在では禁止されている。だがここではそんなことはなく、座っている人もたくさんいた。


「ご馳走になってしまいましたね」

「だな」

「せっかくならもう少しだけ頼んでおくんでした」

「すでに六種も乗ってるだろ」


 と、サツキは軽いつっこみを入れつつ笑った。

 チナミは冗談にサツキが笑ってくれたのがうれしくて、自分もふふっと笑った。


「しかし、さすがは『ASTRA(アストラ)』だ。思っていた以上だな」

「はい。いいサービスしてました」

「そっちじゃない」


 またサツキが笑ってくれた。チナミは調子が出てきたが、冗談を重ねることはせずサツキの会話に合わせる。


「『ASTRA(アストラ)』はすごいですね。まさかこんな身近な一般市民にまでなりきってまぎれているとは、驚きです」

「ああ。心強い限りだ」


 実際に目の当たりすると、ヴァレンたち『ASTRA(アストラ)』の勢力というのがありありと手に取って実感できるように思う。


「それにしても、スサノオさんたちはなぜここに」

「なぜでしょうね。サツキさん、スサノオさんに会いに行きますか?」

「今から追いかけても捕まらなそうだしな。縁があれば会えるだろう」

「はい。そうかもしれません」

「本当はリョウメイさんに、ヒヨクくんとツキヒくんのことを聞いてみたかったんだけど、次の機会を待つよ」

「サツキさん。あそこがあいてます」

「うむ。座ろう」


 サツキとチナミは、ちょうどいい場所を見つけ、腰を下ろした。

 チナミは、小さな口をいっぱいに開けて、リスのようにジェラートをほおばる。


「おいしいです」

「よかったな。チナミ、口元ついてるぞ」


 食べたあとでもよいのだが、サツキはつい世話を焼いてチナミの口元についたジェラートをハンカチで拭き取ってやる。


「あ、ありがとうございます」


 チナミはまた顔を紅くして、


「今日は暑いですね」


 と、桜色の唇をチョコ色に染めてチョコ味を食べる。


 ――甘えすぎたかも……。


 最後のは不覚だが、抱っこのお願いは甘えすぎた、と内心では悶絶したい思いのチナミだった。本当に、ヒナやナズナが見ていなくてよかった。特にヒナに見られたらからかわれるに決まっている。甘えん坊のちびっ子だのなんだのと言われたら恥ずかしくてしばらく立ち直れそうにない。

 とりあえずチナミは今日のことはヒナに自慢仕返すこともせず自分とサツキだけの思い出にしておくことにした。




 ジェラートを食べたあと、サツキとチナミは城への帰り道を歩いていた。

 チナミはサツキの顔を見上げると、


「今日は楽しかったです。ありがとうございます」

「いいさ。俺も楽しかったし、ジェラートもおいしかった」


 サツキの言葉を聞き、チナミはほわっとやわらかなお菓子がほぐれるように小さく微笑んだ。

 マノーラという都市に来ていることもあり、チナミは思い出したように言った。


「そういえば、おじいちゃんから聞いたお話ですが、マノーラにはいくつか古代人が残したオベリスクがあるそうです」

「オベリスクか。俺の世界では、元々古代エジプト期につくられた記念碑だと言われているな。欧米の主要都市にもつくられているって話だ」

「エジプト……。メイルパルト王国のことですね」

「ああ。だが、この世界では一様に古代人の製作物となっているみたいだな」

「はい。サツキさん、見て行きますか?」

「うむ。そうしよう」


 こういうとき、祖父が学者ということもあり歴史にも精通しているチナミの存在はありがたい。


「この近くだと、パプウ広場がいいですね。有名な広場です」

「ふむ。オベリスクがどんなものか、気になるな」

「サツキさん、さっきのスカーラ広場にも実はあったんですよ。気づきませんでした?」


 くすりと楽しげに笑うチナミに、サツキはまじめな面持ちで、


「そうだったのか」

「でも、あそこは高い場所にあってよく見えません。パプウ広場のほうが見えると思います」


 二人は、パプウ広場へ訪れる。


「このパプウ広場は、マノーラで二番目に大きな広場です」


 円状に広がる広場なのは、このマノーラではよく見られる広場だが、パプウ広場の象徴はオベリスクである。

 オベリスクは、石の柱のモニュメント――これは高い塔のようなもので、なにやら文字が彫られている。


「ルーン文字に似ているのですが、違うようなのです」


 と、チナミが説明した。

 もしこれでサツキがイタリア語が読めたらなにが書いてあるかわかるというものだが、これがイタリア語らしい、ということしかサツキにはわからない。


「イタリア語。それ以上のことはわからない。だが、古代人が残したのであれば、やはりここはイタリアだったことになる」

「イストリア王国が、元はイタリアだったんですよね」

「ああ」


 サツキはうなずき、これが読めなくてもパプウ広場まで来た価値があったように思う。


「日が高くなってきたな」

「そろそろお昼ですね」

「グラートさんとバンジョーがお昼ごはんを作って待ってる。帰ろうか」

「はい。今日は楽しかったです。ありがとうございました」

「こちらこそありがとう。俺も楽しかったよ」


 こうして、サツキとチナミはロマンスジーノ城に帰ったのだった。

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