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73 『ストレンジメモリーズ』

 サツキが思い出したケイトの話は、ミナトについてのものだった。

 ケイトがミナトについて話してくれたことがある。


「メイルパルト王国に入る前だったかな」

「弐番隊と私と分かれて行動する前ですね」

「うむ」


 普段、ミナトはその土地土地にいる小さな子供とよく遊ぶ。大人のまじめな話や無駄話などが苦手らしく、子供といるほうが気楽で好きらしい。

 あるときケイトが、


「ミナトさん、局長のお話を聞いたらいかがです?」


 と言ったことがあったそうだ。

 ケイトはミナトのこんな気さくで面倒見のよいところも好きだった。だが、サツキが士衛組のみんなと戦略について思案しているときくらいは、壱番隊隊長としてミナトも顔を出してもいいんじゃないかと思ってしまっていた。間者(スパイ)だったとはいえ、すでに士衛組に肩入れしているから、壱番隊隊士として不安もある。

 しかしミナトは子供にせっつかれて、


「どうも今は具合が悪いようです。僕も戦略を練りに練りたいが、子供たちが離してくれません」


 と苦笑している。

 それを見て、ケイトはくすっと笑ったものだった。


 ――この人を調略するなら、お金や女性ではなく、子供に遊んでくれとおねだりさせるほうがうまくいきそうだ。


 と思うほど、ミナトは子供に好かれるし子供と遊ぶのが好きで、ケイトにはこの奇妙な透明さがまぶしかったらしい。

 サツキはケイトからそんな話を聞いたとき、つい笑ってしまった。


「本当にミナトは子供に好かれるんですね」

「はい。ミナトさんの持つ空気が優しいからでしょうか。優し過ぎるのは局長やクコ王女もですから、やっぱりミナトさんは不思議な人です」


 とケイトは言ったものだった。




 チナミはサツキの話を聞いて、興味深そうだった。


 ――やっぱり、ケイトさんってミナトさんのこと好きだったんだな。あと、サツキさんのことも。それに、サツキさんもケイトさんのこと、今でも本当に敵とは思ってないんだ。


 まさかここでケイトの話を聞けるとは思っていなかったので、今になってサツキのケイトへの気持ちを垣間見ることができたのは予想外だったし、なぜだかサツキの心の奥にしまってあった優しさを覗き見た気がしてうれしかった。話しにくいことを、自分には話してくれたのがうれしかったのかもしれない。

 いろいろ感じるところはあるが、チナミは話を戻す。


「ラファエルくんやリディオくんも、ミナトさんには心を開いている感じがあります。子供に好かれる魅力はどこにあるのでしょうか」

「俺もそれを知り合いくらいだ」

「はい。子供の相手は難しいです」

「だな」


 そう言いつつ、サツキはチナミが自分を子供と思っていない様子なのもおかしかった。

 二人はまた道を折れる。

 ちょこちょこ歩を進めながら、チナミはぽつりとつぶやく。


「おすすめのジェラートの屋台があるのは、スカーラ広場と言っていましたね」

「階段で囲まれた広場だな」

「『ASTRA(アストラ)情報局』の二人が言うのですから、きっとおいしいに違いありません」

「うむ」


 しばらく歩くと、広場にたどり着いた。

 聞いていた通り、階段がある。石造りの白い階段が円状に広がり、その下に広場の中心があった。

 そこではジェラートの屋台がある。

 ジェラートはアイスであり、その味の種類がとにかく多い。このスカーラ広場そのものが大きいこともあり、名物であるジェラートの屋台だけで四つも点在し、店ごとで違う味が楽しめる。

 その中から一つの店を直感で選んで来たわけだが、屋台がやや高く、一三三センチしかないチナミには届かない。


「チナミ、見えないよな?」

「はい」


 さて、どうするか。サツキが逡巡していると、チナミは恥ずかしそうに視線を下げながら提案した。


「で、では、その……抱っこ、してください」

「なるほど。うむ」


 サツキは抱っこしてやった。


「あ、ありがとうございます……」


 チナミの顔がだんだん赤くなってゆく。だが、サツキはジェラートの屋台に目を走らせているため気づかない。


「いろいろ種類があるな」

「はい」

「どれにする?」


 と、サツキが聞いた。


「そうですね。チョコとヨーグルトとアマレナとコッコは外せません」

「ほう。そんなに食べるのか」

「……その、ちょっと暑いですから」

「そうか?」


 サツキは腕の中にいるチナミを見ようとするが、チナミは見られるのを嫌がるようにぽふっとサツキの胸に顔をうずめる。


 ――確かに、チナミの体温はやや高いな。だが、風邪っぽさはない。


 そういえば、聞いた話がある。


 ――子供は体温が高いというし、チナミもそうかもしれない。


 持ち前の推理力を発揮したサツキは、自分なりに納得するのだった。

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